ここ3年の国内コピー・プリンタ市場の状況をみると、コピーベースのカラー複合機(MFP)が堅調な一方、シングルプリンタが依然として逆風にさらされている。他のITシステムと同じく、ユーザー企業は、運用管理の効率化やコスト削減を名目として、カラー複合機をメインに据えてオフィス内のドキュメント機器を集約化する基調にある。ただ、クラウドやスマートデバイスが普及したことによって、ワークスタイルは分散化する傾向にある。プリンタメーカーは分散化を追い風に、部門単位で配置できるプリンタベースの小型複合機の機種を強化するなど、巻き返しを図っている。最適配置と使い方のトレンドに応じた利用環境を整備する提案を行い、再びコピー・プリンタ市場が浮上する可能性は残されている。(取材・文/谷畑良胤)
【市況】
複合機が初めて70万台突破
潮流は「集約化」に向かう!?
ある大手事務機ディーラーは、最近、事業の継続が困難に陥った中堅ディーラーの事業を顧客ごと譲り受けた。コピーベースの複合機とプリンタの機器販売、それに付随する保守・消耗品などのストックだけのビジネスモデルは成り立ちにくい状況にあり、事務機ディーラーの集約化が始まりつつある兆候がみてとれる一例だ。
ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMAI)が調査したコピー・プリンタ出荷実績によると、2012年の国内市場は、台数ベースで複写機・複合機が前年比6.7%とモノクロ機が後押しして堅調に伸びた。一方、ページプリンタは前年を10ポイント以上、下回った。
調査会社IDC Japanのデータも、JBMAIの調査とほぼ同様の傾向を示している。顕著なのは、コピー・プリンタ両ベースのレーザー複合機(MFP)の合計が、初めて出荷台数で70万台を突破したことだ。スキャンとファクシミリ(FAX)を搭載する複合機が、市場の縮小傾向に歯止めをかけている。
IDC Japanでイメージングプリンティング&ドキュメントソリューション領域を担当する石田英次・グループマネージャーは、中期的なコピー・プリンタ市場について「販売台数と印刷ボリュームともに、微増か微減の状況が続く」と予測する。機器の種類や用途によって増減があるものの、市場は横ばい状態が続くというわけだ。
ニーズの傾向にも変化がみられる。散在状態の非効率なドキュメント機器を複合機で集約化するという提案が、企業に受け入れられつつある。企業側は、業務に活用する機器を統合して、管理のコストや運用負荷を減らそうとする意識が高まっている。ドキュメント機器に関しても、同じ提案が受け入れられやすいという。
この傾向と軌を一にして、ドキュメント機器を購入したり、リースで使うのではなく、「利用する」形式のマネージド・プリント・サービス(MPS)を採用したりする企業が急激に増加している。この傾向は大手の製造業に顕著だが、IDC Japanによれば、2012年は前年比17.5%増で346億9000万円に達し、CAGR(年平均成長率)16.2%の勢いで成長すると予測している。
MPSの市場は、コピー・プリンタ市場の数%に過ぎないが、「市場は小さいものの、ソリューション提案でなければ企業は機器を購入しない傾向が強まったということの証だ」(石田グループマネージャー)と、MPS市場の動きを注視しておくべきと指摘する。
コピー・プリンタ市場の状況は、悪材料だけで占められているわけではない。クラウドやスマートデバイスなどワークスタイルの変化を捉えて、運用管理の効率化やコスト削減以外の付加価値のある提案を行って機器を販売すれば、まだまだ需要はある。今は、その方向に向かう分岐点にあるとみるべきだ。
【販売環境】
スマートデバイスの影響で出力枚数が増加
1社の製品に集約する傾向
リコーのコピー・プリンタ機器を中心に販売する大塚商会の2012年度(12年12月期)実績では、販売台数ベースで両機器合計で前年比で2ケタ成長した。同社に限っていえば、ドキュメントまわりのビジネスは順調にみえる。しかも、カウンターチャージを備える実稼働中の機器1台あたりの出力枚数は、「前年に比べて増加した」と、マーケティング本部エリアプロモーション部の石川則一部長は言う。
だが、大塚商会のケースはまれだ。リーマン・ショック以降は、大手自動車メーカーがカラー出力を抑制するなど、出力枚数が年々減少する傾向にあった。出力枚数が増加に転じた要因として石川部長が挙げたのは、「一つには、スマートデバイスの販売増の影響」である。企業で無駄な出力が抑えられる一方、携帯端末が利用拡大して、電子化が進むのと同一歩調で出力も増えたとみる。
コピー・プリンタを導入する側のニーズは、リーマン・ショック前の07年頃からみても、「集約化」と「分散化」のブームが交互に起きている。安倍晋三政権に交代する前までは、景気の先行き不安が企業側の投資抑制を呼び込んだ。コピー・プリンタについても、リース・保守切れに際して、大量の台数を抱える中堅・大手企業はメーカー1社に集約することをせず、複数メーカーの機器で構成して入れ替えた。
ところが今は、「1社(リコー機器)に一本化する案件が増えている」(石川部長)。このように、複数メーカーの見積もりを取ることの煩雑さや運用負荷を避けるために、1社に集約しようとする流れが顕著になっている。
従来、コピー・プリンタのメーカーを1社に絞れば、機器に関連するシステムの選択肢が限られたり、ブラックボックス化することを企業は懸念していた。「1社集約」への流れが強まった理由は、保有資産の管理を簡素化して、ゆくゆくは保有したくないという企業の意識の現れとみるディーラーが多い。
大量台数を抱えるコピー・プリンタをコピー機に集約化するニーズは、過去にたどってきたそれとは異なる。ドキュメントまわりだけでなく、他のITシステムを含めた一体の資産管理や連携性を高めるために集約するのだ。大塚商会の石川部長は、こんな変化を見逃さない。「コピー・プリンタの導入窓口は、総務担当から情報システム担当に移っている」。最適化という切り口は、以前も事務機器の提案で有効だったが、管理側の負荷を低減することやセキュリティを担保するという別の切り口でコピー・プリンタが売れている。
大塚商会がコピー機で「集約化」する顧客の多くは、中堅・大企業だ。その一方で、中小企業をメインにコピーベースの複合機を提案し、事務機器ビジネスを軌道に乗せているITベンダーも現れてきた。その1社が、シャープ製のコピー機ディーラー大手のスターティアだ。
スターティアは、京セラや富士ゼロックス、キヤノン、コニカミノルタのコピー機も扱うが、主力はシャープ製だ。同社は1年半前から、コピー市場の退潮を予測し、従来からのネットワーク販売の強みとドキュメント関係と連携した商品を順次揃えてきた。シャープ製のコピー機ならではの利点を生かして、紙とトナーの基本料金も廃止し、使った分だけ支払う仕組みにした。
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