有力ベンダー同士で異なるアプローチ
総合支援法以外のIT投資促進ファクターも
実際にITベンダーは、障がい者福祉の分野でどのようなアプローチをしているのか。有力ベンダーである内田洋行と日立システムズを取材した。
【内田洋行】
サービス事業者間の情報共有を促進
●相談支援事業者の役割に着目 
江口英則
執行役員 内田洋行は、1984年、社会福祉法人向けに福祉・介護システムの「絆」シリーズを開発し、これまで約1500施設で採用された実績をもつ。この分野ではパイオニア的存在だ。2002年には、障がい者福祉サービスの統合業務管理システム「絆 福祉台帳」を三菱商事太陽と共同開発し、500ユーザーを獲得している。
同社は、障害者総合支援法の施行を大きなビジネスチャンスと捉え、「絆 福祉台帳」の機能を大幅に強化・拡充し、新たに「絆 障害者福祉システムあすなろ台帳」として、今年4月に発売した。
着目したのは、やはり相談支援事業者を核とした障がい者の地域移行へのプロセスだ。国が公開している書式に沿った、福祉サービス利用計画書の作成機能や、情報ポータル機能を実装し、障がい者福祉サービスの事業者間や相談支援事業者、就労支援事業者の情報共有を促進する。また、電子認証機能やワークフロー、操作ログ取得機能を備え、内部統制や情報管理の適正化、個人情報保護を支援する。
江口英則・執行役員情報事業本部情報システム事業部長は「地域移行のマスタープランを作成した後に、適切にPDCAサイクルを回すことが大事。いろいろな職種の方が障がい者を支えており、『あすなろ台帳』は、それぞれのプロからみた情報を蓄積、共有して活用してもらうために開発した製品。これまでは情報の共有までは行われているケースがあっても、活用のフェーズが存在しなかった。当社のようなベンダーにとってはここがチャンスだと思っている」と強調する。
●パートナーは「高齢者福祉」を横展開 障害者総合支援法施行に伴い、障がい者の地域移行での役割が重要性になってくる相談支援事業者だが、無条件でその看板を掲げられるわけではない。相談支援専門員という実務経験と研修を経た職員が所属している組織のみ、相談支援事業を手がけることができる。内田洋行が「あすなろ台帳」の営業対象としているのは、まずは相談支援事業者としての体制が整っている事業者が中心になる。江口執行役員は、「すべての障がい者福祉サービス事業者のうち、すでに2割ほどは、相談支援専門員の配備に着手しており、そうした動きはさらに広がる」とみており、市場拡大に期待を寄せる。また、相談支援事業の重要性に関する啓発活動も、セミナーなどを通じて積極的に展開する予定だ。
当面の売上目標は、今後2年間で5億円。現在、全国で40社程度のパートナーを確保しているが、販売パートナーが存在しない空白県もある。まずは、「障がい者福祉と親和性のある高齢者福祉商材を取り扱っている販社に『あすなろ台帳』も売ってもらうことを検討している。既存の当社パートナー以外でそうした条件にあてはまる地場のSIerなどとの連携も視野に入れている」(江口執行役員)という。
4月以降、すでに「あすなろ台帳」の実績は30件にのぼり、そのうち10件が新規だという。出だしはまずまず好調のようだ。
販社からみた障がい者福祉サービス市場のIT投資
――ウチダエスコ

小野敏明 課長 内田洋行の直系販社で、首都圏を中心に営業展開しているウチダエスコ。7年ほど前に「絆 障害者福祉システムあすなろ台帳」の前バージョンである「絆 福祉台帳」の取り扱いを開始し、現在、110ユーザーを抱えている。4月以降、「あすなろ台帳」の受注は20件に達している。基本的にはすべて旧「絆 福祉台帳」からのリプレース案件だ。
今回の法改正について、同社の小野敏明・ソリューションビジネス事業部公共営業部サポート3課長は、「間違いなくチャンス。相談支援対応の機能を実装したことで、『あすなろ台帳』の競争力は、『福祉台帳』に比べ一段アップした。とくに社会福祉法人で、相談支援から個別のサービスまで包括的に手がけ、保険請求などのプロセスも一つのシステムで管理したいという動きが出てきており、『あすなろ台帳』を訴求しやすい市場環境になってきた」と話す。
障害者総合支援法は、障害者自立支援法から段階的に移行する項目もあり、保険請求の計算式や帳票類の様式が実際に変更されるのは来年の4月から。そのタイミングも商機として活用したい考えだ。
「利用者定員30人以上の施設を主なターゲットに、下半期は新規案件も10件くらいは獲得したい」(小野課長)としている。
同社は5年前からヘルプデスクに選任の社員を配置し、顧客満足度の向上に努めているが、「あすなろ台帳」の拡販が進んだ場合、人員を増強してサポート体制を手厚くする方針。また、内田洋行と共同でセミナーも展開し、新規ユーザー獲得の一助にする意向だ。
[次のページ]