【日立システムズ】
社会福祉法人会計基準改正をトリガーに
●福祉関係団体との協業で小規模対策 
田中正太
営業本部長 障がい者福祉サービス事業者向けの業務管理システム「福祉の森exceed」を展開する日立システムズは、内田洋行とは別のアプローチで市場と向き合おうとしている。
「福祉の森」シリーズは、1995年に販売を開始し、「絆」シリーズと競合することも多い。ただし、障がい者福祉サービス市場においては、リーディングカンパニーとしての確固たる地位を築いており、とくに知的障がい者関連施設では、約35%、2000ユーザーを獲得している。
同社が「福祉の森exceed」の当面の拡販戦略において最大のトリガーとして重要視しているのは、平成27年4月からすべての社会福祉法人に適用される、「新社会福祉法人会計基準」だ。会計基準が変更されれば、基幹系のシステムの刷新は必須。ここに需要を見出している。
さらに、同社は福祉関係団体とも協業して、小規模なサービス事業者のIT需要も取り込もうとしている。日立システムズが開発、提供、運営し、公益財団法人日本知的障害者福祉協会が販売を支援している福祉事業者向け業務管理ASPサービス「福祉協会ASP」が、その切り札だ。2013年4月の提供開始以来、すでに70ユーザーが利用している。
田中正太・福祉システム営業本部長は「2004年に、日本知的障害者福祉協会の企画・設計のもと、知的障がい者専用のアセスメントソフト『プランゲート』を当社が開発・販売した。障がい者福祉分野での実績を評価していただいた結果だと認識しているが、『福祉協会ASP』はそのノウハウを生かして誕生した新たなソリューション。データセンターは当社施設を利用しており、インフラの運用・保守も万全を期している」と説明する。
「福祉協会ASP」には、スケジュール機能や利用者台帳、保険料請求、個別支援計画、アセスメント機能など、施設の種類ごとに必要な機能がオール・イン・ワンで備えられており、福祉協会会員は月額数千円程度から利用することが可能。「福祉の森exceed」や他社の競合製品の導入には、100万円単位の投資が必要であることから、小規模事業者にとってはありがたいサービスといえそうだ。また、「福祉協会ASP」の利用を目的として協会の会員になるサービス事業者もおり、協会側にとってもメリットがあるかたちになっている。
●医療分野への進出も視野 基本的な営業戦略としては、利用者定員が50人以上の施設には「福祉の森exceed」を提案し、それ以下の規模の施設には「福祉協会ASP」の利用を勧める。小規模事業者の取り込みにより、最終的にシェア5割をめざしたいとしている。
田中本部長は、それも決して非現実的な目標ではないと考えており、「『福祉の森exceed』の提供と合わせて、ハウジングサービスを提案したり、システムをバンドルしたサーバーやPCを用意することもできる。インフラ、ハード、ソフト、サポートまですべてをワンストップで提供することが可能だ」と、自社の強みを強調する。
さらに、医療分野に進出し、障がい者福祉向けシステムとの連携ソリューションを提供することも視野に入れるという。「地方では、中堅クラスの病院の経営者が福祉介護施設を経営しているケースも多い。しかし、両者の間でデータを共有・活用はしていない。当社自身が、今後、医療ITにも取り組み、地域連携の先鞭となるような事例を手がけたい」(田中本部長)と意欲的な姿勢をみせている。
記者の眼
障害者総合支援法の施行に伴う相談支援事業者の役割の高まりに注目し、新たなシステムを市場に投入した内田洋行。対して日立システムズは、社会福祉法人の会計基準改正による基幹システム刷新需要と、業界団体と連携した小規模事業者需要を取り込むことによって、一気にシェアアップをねらっている。異なるアプローチを取っている2社だが、現在、障がい者福祉サービス事業の分野にIT投資の追い風が吹いていることは確かなようだ。
しかし、国、自治体ともにいまだ行政は縦割り構造で、医療などを巻き込んだ地域連携はおろか、福祉サービス事業者間での情報共有も、実際に進むかどうかは未知数の部分がある。先導役が存在しないからだ。ベンダー側が一歩踏み込んでその役割を担うことができるかどうか。各社の動きを今後も注視したい。(霞)