【ビジネス上の課題】
導入フェーズはこれから
ベンダー側のコンサル強化も

エス・アンド・アイ
村田良成
執行役員 最近では、ベンダーが主催するBYOD関連のセミナーが頻繁に開催されて、企業が参加している場面をよく見かける。セミナーの多くは、セキュリティ対策の観点から統合管理の必要性を訴えるものが多く、参加した企業はそこそこ関心を示しているようだ。しかし、いざBYODを導入するとなると腰が引ける企業が少なくない。これは、「セキュリティリスクを前面に押し出し過ぎているからではないか」とみる業界関係者がいる。企業が管理面でのコストばかりに気を取られるというわけだ。エス・アンド・アイの村田執行役員は、「BYOD関連の案件を獲得するために企業と商談した際、『コスト削減はできるかもしれないが、管理面の初期投資が高いので導入できない』といわれたことがある」そうだ。また、大塚商会の丸山義夫・マーケティング本部共通基盤プロモーション部モバイルソリューション課次長は、「市場に出ている製品は、多くが大手企業をユーザーとして想定している。当社がターゲットにしている中小企業には適さないケースがある」と打ち明ける。
しかし、そもそも企業がBYODを導入するのは、社員が使い勝手のいいデバイスで生産性を高める環境をつくるという狙いがあるはずだ。会社がスマートデバイスを貸与してもいいが、それではコストがかかるということからBYODが浮上してきたのだ。スマートデバイスを仕事で使うなら、セキュリティ対策を施さなければならない。つまり、スマートデバイスを導入するのであれば、会社貸与であろうとBYODであろうと、初期投資はかかるということである。
このような点を踏まえると、BYOD=コスト削減という考えが企業側に根づいてしまっているために、ベンダー各社は、現状でコスト削減を前面に押し出す策を進めているということになる。ただ、さらにBYODを広めていくには、ワークスタイルの変革をいかに訴えられるかにかかってくる。それが今、IT業界全体の課題になっている。
また、ユーザー企業がBYODの導入に二の足を踏んでいるのは、コスト面に加えて導入するまでのプロセスを把握していないというのも原因となっている。したがって、ベンダーは導入までのコンサルティングを強化する必要があるといえそうだ。

大塚商会
丸山義夫 次長 大塚商会では、「ユーザー企業の現状を調査し、BYODを導入するにはどれくらいコストがかかるのか、どのような管理を行うべきなのかをアドバイスするコンサルティングに取り組んでいる」(丸山次長)という。ユーザー企業に対して、導入プロセスのガイドライン策定を支援。「数社に提供した実績がある」と、丸山次長はアピールする。また、導入後のスマートデバイス活用支援サービスも提供。「導入から導入後までを手厚くサポートしていくことが重要」としている。
エス・アンド・アイでも、ユーザー企業に対して運用管理方法のコンサルティングを提供しているが、「今は無償で提供しているので、このコンサルティングがビジネスとして成り立っているわけではない」(村田執行役員)と認める。今後は、「有償で提供するかどうかは検討しなければならないが、これまで支援してきたノウハウを精査することに取り組んでいきたい」との考えを示す。同社では、スマートデバイスをビジネスで活用するためのサービスとしてオンラインストレージ「sactto!ファイリング」、セキュリティ対策「sactto!リモートワイプ」などを提供している。販社も確保しており、「販売パートナーとともにコンサルティングを提供するスキームも構築していきたい」との考えだ。
【ビジネスの可能性】
潜在需要を掘り起こして市場を拡大
機能強化や新サービスでチャンスをつかむ
ひと口にBYODといっても、それを必要とする業務や組織は一律ではない。デバイスにしても、スマートフォンがいいのか、タブレットが適しているのかは仕事の内容によって異なる。したがって、ベンダーは企業の社内状況を把握して提案していくことがポイントになるだろう。そうした実情を反映して、BYODと会社貸与を組み合わせた“ハイブリッド”で提案しているベンダーが増えている。
エス・アンド・アイでは、「スマートデバイスを業務で活用したいというユーザー企業がBYODを検討するケースが多いので、まずは営業など外出の多い部門、またデバイスごとにBYODを促進することを提案している」(村田執行役員)としており、ミニマムスタートできるので、負担が小さいことをアピールする。同社は、自社内のBYOD化で次のステップとしてノートパソコンを導入しているが、「BYODによってコスト削減を図るのが目的の一つだが、それだけでは意味がない。各部署でBYOD化する目的を定めることが重要」としており、自社での経験をユーザー企業への提案に生かしていく。また、BYODを促進する策については「業務や業種に特化したソリューションを開発している段階」としている。
NTTコミュニケーションズも、「スマートデバイスの導入にあたって、BYODを検討する企業が多い」(三隅室長)としており、「なぜスマートデバイスを導入するのかなど、ユーザー企業の目的を明確にすることに取り組んでいる」という。現在では、「Bizモバイルコネクト」と「050 plus for Biz」を組み合わせた提供に力を入れているが、今後も同社のサービス連携強化を図るなど、マルチキャリアやマルチデバイスをベースに、ユーザー企業がスマートデバイスを業務で有効活用できる環境を整えていく。
企業はコスト削減の一環としてBYODを導入するわけだが、スマートデバイスを使って業務の効率化、ワークスタイルの変革を促進するにあたっては、アプリケーションの充実も重要な要素になってくる。

アシスト
重松俊夫 部長 アシストでは、世界中のクラウド・サービス/アプリケーションなどの情報を収集して発信するキュレーションサイト「9bot.jp」を6月3日に公開した。サイトでは、情報を掲載するだけでなく販売も行う。第一弾としては、(1)管理機能やプロジェクト単位の情報共有機能を搭載した日本ブロードビジョンの法人向けSNS「クリアベイル」(2)グループウェアと営業支援SFA/顧客管理CRMがオールインワンになったブランドダイアログのクラウド型統合ビジネスアプリケーション「Knowledge Suite」(3)ドキュメントやファイルをタブレット端末で共有可能なインフォテリアの「Handbook」(4)プレゼンテーション資料などを安全にファイル添付可能な日本ワムネットの「GigaCC」(5)スマートデバイスから社内システムやクラウド上の業務システムにアクセスできるレコモットの「moconavi」──の5種類を提供。中尾有揮・経営企画室ビジネス開発部課長は、「スマートデバイスを有効活用するには、ユーザー企業が部門単位でアプリケーションを購入できる環境が必要」と、サイトを立ち上げた理由を説明する。

アシスト
中尾有揮 課長 また、同社ではクライアント仮想化によって、外出先から社内のパソコンにアクセスできることを切り口にBYODを促進している。重松俊夫・システムソフトウェア事業部技術2部長は、「クライアント仮想化ビジネスは今年1~4月の4か月間で前年1年間の売り上げを上回るほど好調。今年は、前年の3倍を目指している」としている。スマートデバイスとパソコンの両方でBYODを促進していく方針だ。
大塚商会では、「業務で必要なアプリを柔軟にデバイスへダウンロードすることができるのであれば、会社貸与であれBYODであれ、ユーザー企業の社員がスマートデバイスを使って業務を効率化できることがポイントになってくる」(丸山次長)という。そのため、「アプリのコンテナ化」をコンセプトに据えたサービスの創造を進めている。
丸紅アクセスソリューションズでも、「VECTANT SDM」と連携しているアプリケーションプラットフォーム「VECTANTマーケット」でアプリケーションが開発できるAPIを公開して、「BYODに適したアプリケーションの充実を図る」(橋口事業部長代理)との方針を示している。
記者の眼
企業がBYODを導入する最大の目的は、社員が効率よく業務を遂行できる環境を整えるというものだが、現段階ではユーザー企業がスムーズにBYODを受け入れることができる状況にはなっていない。そこでベンダーは、まずは「コスト削減」を切り口に導入を促しているわけだが、スマートデバイスを使ってワークスタイルを変革する流れは止まらないといえる。
また、スマートデバイスだけでなく、使い勝手のいい個人所有のパソコンで業務するという動きも、さらに出てくるといえそうだ。導入前のコンサルティングからアプリケーションの提供まで、さまざまな領域でビジネスチャンスがあるという点では、スマートデバイスを中心とした販売だけでなく、サービスの提供を中心としたBYOD関連ビジネスを手がけることによって、大きく飛躍できる可能性は十分にある。