「IT人材」はこう変わる!
プログラミング復活、ITベンチャーが増える
東京大学大学院
電子情報工学科教授
江崎 浩 氏 1987年、九州大学工学部電子工学科修士課程了。同年、東芝に入社。94年、米コロンビア大学で客員研究員。98年、東京大学助教授、2001年情報理工学系研究科助教授。2005年4月より現職。WIDEプロジェクトボードメンバーでもある
東京大学大学院の江崎浩教授は、村井純(慶應義塾大学教授)氏が立ち上げたインターネット研究の先駆けプロジェクト「WIDEプロジェクト」の中心人物で、日本データセンター協会の理事など、複数のIT関連団体で要職も務める人物。学界からIT産業を支援し、時には厳しく、IT業界の問題点を指摘する論客だ。
江崎氏が得意分野のデータセンター(DC)で、中長期の視点で解決しなければならない問題と捉えているのが、空調だ。電力効率を上げるためには、IT機器の電力消費量を削減するだけでは限界があり、DCを冷やすための空調機器の進化が欠かせないとみている。氏は「空調技術は20世紀で止まっている」と指摘する。江崎氏はDCの発展に向けて空調機器メーカーとの協業にも取り組み始めた。クラウドの登場で、DCは社会や企業、家庭でのIT環境を支える必須の設備になる。そのうえで、ITベンダーがDCを効率的に運用するには、空調機器の進化が欠かせないと説いている。
また、江崎氏は中長期の視点で、日本のIT産業のキーワードになるとみているのがグローバルだという。最近では大手のIT機器メーカーやSIerがアジアを中心に新たなビジネスを求めて海外進出に躍起だ。江崎氏も持続的に成長するにはグローバルマーケットへの進出は必須だとみる。「複数の言語を操り、諸外国の事情に精通したグローバル人材をどれだけ確保できるかが、企業にとって重要になる」と指摘する。
2020年の世界を想像した時、江崎氏が予測するポイントはITベンチャーの増加だ。日本の学生は、IT業界離れが進み、起業意識が乏しいといわれているが、それを江崎氏は否定する。「最近になってプログラミングに興味をもって取り組んでいる学生は、かなり増えている。クラウドの登場とオープンソースソフトウェア(OSS)の普及で、学生はソフトウェアを開発できる環境を簡単に手に入れることができるようになったからだろう。元気なITベンチャーが今以上に増えていくだろう」と予測している。
「地方のIT産業」はこう変わる!
教育改革で、オタクが日本を救う
慶應義塾大学 環境情報学部教授
ソフトピアジャパン理事長
熊坂賢次 氏 1947年1月生まれ、東京都出身。69年早稲田大学政治経済学部卒業、79年慶應義塾大学院社会学研究科博士課程修了。90年慶應義塾大学環境情報学部助教授、現在、同学部教授。03年から岐阜県大垣市に本拠を置くソフトピアジャパンの理事長を兼務
岐阜県と慶應義塾大学環境情報学部が連携して設立したソフト産業の集積拠点「ソフトピアジャパン」。2003年から理事長を務めている同学部教授の熊坂賢次氏は、地域に貢献できるITベンダーの育成・支援を長年手がけてきたソフトピアの舵取り役として、市場の縮小が著しいといわれる地方のITビジネスの行く末をどう見ているのだろうか。
アベノミクスの成功は、地方にかかっている──。熊坂氏はきっぱりとそう主張する。大企業が3%の成長を達成するのは容易ではないが、地方の小さなITベンダーなら、工夫次第で十分に実現できる数字だからだという。
ただし、従来のようは受託開発の下請け構造に頼るベンダーは淘汰されるとも指摘する。氏が挙げるる生き残りのポイントは、「付加価値」と「教育改革」だ。ソフトピアは、県内にある公立の情報科学芸術大学院大学(IAMAS)と連携して、ITとデザインを融合したソリューション、サービスの構築支援などを行ってきた経緯がある。「地方のITベンダーは、自分たちの仕事をどうしたら魅力的にできるかを考えるべき。儲けはそこそこでいいと割り切ったほうがいい。ライフスタイルとセットで、持続可能なビジネスを目指せば、道は拓ける」という熊坂氏。一方で、そのためには、人脈形成を支援するなど、行政の積極的なサポートが不可欠だ。
「教育改革」で熊坂氏が着目しているのは、「実業高校」だ。地域のITサービスを将来支えるのは、進学校の生徒ではなく、商業・工業・農業高校などの生徒だという。地元の高校生を対象にしたソフトピアのアプリケーションソフトの開発研修などでも、「彼らは目を輝かせて参加している」と熊坂氏。「受験勉強が優秀な子が地域のITビジネスに貢献するわけではない。ものづくりが好きな、オタク気質の子が、実業高校に隠れている。そういうこだわりをもった人材でなければ、日本の停滞を救えない」との信念の下、地元の高校とソフトピアの連携をさらに強化していく方針を示している。
「ITサービス」はこう変わる!
“おもてなし”がIT業界で勝ち残る手段
BCN
『週刊BCN』編集委員
谷畑良胤 埼玉県生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業。日本教育新聞社に記者として入社。その後、ソフトバンクBBのECサイト運営の「バーティカルネット」に入社。2002年11月、BCNに入社。07年5月、「週刊BCN」編集長に就任し、12年12月から編集委員
2020年の東京五輪を決めたIOC総会での最終プレゼンで、アナウンサーの滝川クリステルさんが言った「おもてなし」。日本の情報サービス産業が2020年に世界へ飛び立ち、国内でも活躍し勝ち残るうえで、重要な要素になるといえる。
ITの次の世代は「Internet of Things(IoT)=モノのインターネット」時代が訪れる。関連用語としてM2M(Machine to Machine)が使われる。人間を介さず機器同士が直接交信し、自律的に最適化を行う。ネットに接続するデバイスの数は、20年に現在の3倍以上、100億個に達する。
これらデバイスから発信される膨大なデータを活用することで、ITは次世代へと移る。
米オラクルのラリー・エリソンCEOは、「次はデータやクラウドの時代でなく、『Information Age=情報の時代』だ」と説く。要約すると、膨大なデータをクラウドで処理するのはあたりまえ。ビッグデータをどの高性能なコンピュータで処理し、活用するための分析手段をどうするかで、有益な情報が生まれ、これを有効活用できる企業が勝つという意味だ。
ただ、コンピュータの技術革新が進んでも活用する側は、心許ない。とくに、情報システム部門が不足する日本の企業は、世界の競合と勝ち抜くうえで、システムインテグレータなどの助けが必要だ。逆に、世界の企業に対して、日本のITベンダーが得意とする“おもてなし”がサービス化できれば、確固たる地位を得るだろう。そのための技術、ビジネスモデルの両面での備えが必要になる。
記者の眼
IT関連分野の専門家に語っていただいた2020年の日本。5年以上の未来を予測するのは難しく、五輪の開催時にIT産業がどう移り変わっているかは、正直にいえば断定できない。
今から7年前を振り返ると、米グーグルのエリック・シュミット元CEOが初めて「クラウド」という新たなコンピュータの利用形態を提唱した時期で、当時、その言葉の意味を理解している人はほとんどいなかった。アップルが「iPhone」の初代機種を発売したのは、今から6年前の07年。7年という期間は、今は想像もつかない概念や製品が登場し、あたりまえのように使われている状況になるほど長い。
ただ、どんな世界が待っているにせよ、必要になるのは世界への意識だ。日本よりも高い成長が見込める国が、アジアにはたくさんある。一つひとつの国の規模は小さいかもしれないが、社会インフラが整備され、生活が豊かになる過程で、ITは個人と法人ともに強く求められる。需要は旺盛なはずだ。江崎氏が指摘しているように、諸外国にも通用するグローバル人材の確保はカギになる。(鈎)