【ソニックガーデン】家族が安心する職場をつくる
会社概要
▼業種:ソフト開発
▼従業員数:10人(13年10月10日現在)
「納品のない受託開発」を手がけるソニックガーデンは、社員の家族が安心できるような職場づくりを推進中だ。年俸制をとっており、およそ10人の社員は、働く時間や場所についての制約がない。倉貫義人社長CEOは、「個々の社員は、休日の管理までを自分の裁量で行う。極端なことをいえば、年間300日休むことだってできる」と説明する。
こうしたワークスタイルは、社員だけでなく、社員の家族にとってもありがたい。一般的な家庭では、子どもが生まれたとき、夫もしくは妻のどちらかが育児休暇を取って子育てに専念しなければならない。ところが、ソニックガーデンの場合、「家で70%働いて、残りの30%を会社に来てこなすなど、働き方のバランスを自分でコントロールできる。100%かゼロかという選択肢だけではない」(藤原士朗副社長COO)。

藤原士朗副社長COO(左)と倉貫義人社長CEO いつどこでどれだけ働いてもいいとはいうものの、倉貫社長CEOは「会社に来やすい環境づくりに励んでいる」という。その理由は、社員同士のコミュニケーションが大事と考えているからだ。だから、コミュニケーションの取りやすさを重視したオフィス環境を整えている。特定の会議室はなく、「机に集まって会議をして、必要があればいつでも参加できるようにしている」(倉貫社長CEO)。会議室がなければ、移動の時間や予約の手間もかからない。

オフィスには会議室がない【Sansan】CWOがいる職場で新しい働き方を実践
会社概要
▼業種:クラウド開発・販売
▼従業員数:100人

コーポレート本部長
角川素久
取締役CWO
部長 名刺管理クラウドサービスを提供しているSansanは、従来の働き方に革新を起こすことを企業ミッションとしている。自らが率先してこれまでにない新しい働き方を実践することが不可欠と捉え、徳島県神山町にサテライトオフィスを開設し、ゆったりとした田舎でソフト開発を行うなどの施策を講じてきた。コーポレート本部長の角川素久取締役CWO(Chief Workstyle Officer)は、「社員が働きやすい環境づくりに努めてきた」と説明する。
Sansanでは、このほか在宅勤務制度や、社員間のコミュニケーション円滑化などに関する施策を講じている。取り組みのなかで共通しているのが、それぞれの施策の名前がユニークであることだ。例えば、これまで一緒に飲みに行ったことがない他部署の社員と飲みに行く場合、会社から補助金が支給される制度があるが、これは「Know Me!!」と名づけられている。角川取締役CWOは、「名前をユニークにしているのは、取り組みを社員に身近に感じてもらうため。実際に制度を社員に利用してもらわなければ意味がない」と説く。
【永和システムマネジメント】ビジネスモデル転換でやる気を高める
会社概要
▼業種:ソフト開発、SI
▼従業員数:209人

木下史彦
アジャイル開発グループ
部長 SIerの職場が「3K」になる要因として、コストのオーバーラン、多重下請け構造、ストックビジネスの不足が挙げられる。コストのオーバーランとは、いわゆる不採算案件で、「できる」と思って受注した案件が納期までに目標とする完成度まで到達しないことで発生する。元請けベンダーもろともデスマーチに巻き込まれた下請けは、立場の弱さも相まって苛烈を極める職場環境となる。また、システム開発を大きく設計→製造(コーディング)→運用の工程に分けると、製造部分には突出して多くの人手を擁する。これが多重下請け構造を誘発し、製造の端境期にはSE・プログラマの稼働率が下がることにもなる。こうした構造的な問題を解決しなければ、本当の意味で「3K」職場からの脱却は難しい。
福井県のSIer、永和システムマネジメントは、かつては典型的な協力会社タイプで、大手ITベンダーの下請けに入るケースが多かった。転機になったのは「アジャイル開発」の導入と「価値創造契約」の実践だ。提案や受注の段階から従来の下請的な契約を見直し、「顧客と同じ方向を向いて、ともにシステムをつくり、完成度を高めていく」(木下史彦・アジャイル開発グループ部長)スタンスへの切り替えに取り組んできた。「価値創造契約」とは、「タクシーチケット」と似て、開発した分だけチケットを切ることを意味している。システム開発を月額費用化して、ユーザーの投資負担を軽減するとともに、永和システム側はユーザーが当該システムを使い続けている間は、月額費用というかたちで収益をストック化。SE・プログラマの稼働率を向上する。これを実現する手法が「アジャイル開発」だ。早いサイクルでリリースして、少しずつ完成度を高めていくので、ユーザーはそのつどできあがったものを確認でき、従来のウォーターフォール型で散見された「イメージしていたものと違う!」とユーザーから突き返されるリスクが大幅に減る。
木下部長は「ユーザーに直接提案する機会が増え、元請け案件が飛躍的に増えた」と成果を語る。ユーザーと共にビジネスを主導的に組み立てられるようになった。
魅力的な職場づくりはどこの企業もできる
ここまで、社員が働きがいを感じる魅力的な職場づくりに積極的な企業を紹介してきた。だが、実際には依然として優秀な人材の確保に頭を悩ませている企業も少なくない。コストや業務体系などの諸要因から、改善に向けた施策を打ち出しあぐねている企業もあるだろう。
「3K」に苦しむ企業は依然として残っているとしても、今回の取材を通して、IT企業の“脱3K”は想像よりも速いスピードで進んでいる印象を受けた。例えば、下表で紹介しているIT企業の“脱3K”に向けた施策は、実はここ2~3年の間に開始されたものが多い。このことは、長らく「3K」と揶揄されてきたIT企業側の問題意識が高まっていることを示している。「このままではいけない」という意識が、労働環境の改善に向かわせているのだろう。また、最近では、“ワークスタイル変革”をテーマに、在宅ワークやBYODなどを実現するIT商材を提供する企業が増えているという実情もある。

ITチャリティ駅伝は過去最高の参加者。「3K」イメージの払しょくを急げ この“脱3K”の潮流は、11月17日に開催された「NIPPON IT チャリティ駅伝」からも読み取れる。第4回を迎えた今年は、過去最高となる663チーム・3315人のランナーが参加した。このイベントは、IT業界人が、ただ単にリフレッシュするという趣旨のものではなく、ソフト開発などで、プレッシャーからうつ病などの病気を抱え、結果として就労困難になってしまった若者を支援するための取り組みでもある。こうした取り組みと相まって、IT業界全体に“脱3K”のムードが高まれば、近い将来、「IT業界が3Kだったのは過去の話だ」と胸を張って断言できる日が来るに違いない。