文教市場有力ベンダーの最新動向
内田洋行
「教育の本質」に踏み込んだ提案

青木栄太
部長 内田洋行は、「フューチャースクール推進事業」で、富士通総研のパートナーとしてシステム構築に協力した。このほか、教育指導要領の改訂などでも大きな影響力を発揮する筑波大学附属小学校と協働で、次世代に必要な学校向けIT環境と、それを活用した教育カリキュラム・指導方法を一体として開発・検証するプロジェクトを進めている。青木栄太・公共本部コンテンツ企画部部長は、「ICTを入れただけで効果が出るわけではなく、指導法に近い部分の知見が大事。そこまでサポートできるITベンダーはなかなかないだろうし、国の事業よりも突っ込んだ取り組みを進めてきたと考えている」と話し、トップベンダーらしい自負をのぞかせる。
一方で、各学校のIT環境整備という地道なビジネスも、「一人1台」の市場をつくるためには欠かせない。そうしたニーズにどう向き合うかについては、「段階的なIT整備のノウハウは学校側にはないので、その方法をベンダー側が示す必要があるだろう。理想に近づくための水先案内人としての働きをしていく」(青木部長)という。
それでもやはり、将来は、「機器を売って生き残っていける市場ではなくなる。コンテンツも含めた教育の本質に踏み込んだ商材を提案できなければ淘汰されてしまう」というのが、青木部長の見解だ。全国の地場のSIerなど、パートナーとも連携し、教育現場が抱える課題などを敏感にキャッチして提案につなげる考えだ。
ダイワボウ情報システム
教員のサポートもベンダーの使命

土方祥吾
副部長 ダイワボウ情報システムは、文教市場を強化し、成長の柱の一つと位置づけている。昨年から、21自治体33校で、「一人1台」の授業活用も可能な環境を提供したうえで、普通教室でのICT活用の実証研究を行っている。対象期間は、2015年3月まで。文教市場を担当する土方祥吾・販売推進本部マーケティング部文教グループ副部長は、「エンタープライズのビジネスとはかなり勝手が違う市場。最初は苦労したが、ビジネスのあり方がみえてきた」と、手応えを感じつつある様子だ。
課題として明らかになってきたのは、やはりコストの問題だという。「知財措置などについて、教育委員会などに啓発していくのはもちろん、ITベンダー側がコストダウンを図る必要もある。一方で、市場が小さい段階でメーカーが価格を下げるのは難しいのも実際のところ。そこはユーザーとメーカーをつなぐディストリビュータとして、当社が力を発揮できる部分だと考えている」(土方副部長)という。
さらに、「教員のサポートも、ITベンダーの使命」という土方副部長。「非ICT環境で仕事をしてこられた先生方に、ICTを入れたので使ってくださいと言うだけでは荒っぽすぎる。教員向けのICT活用サポートメニューをパートナーと協力しながら提供していきたい」と話す。全国のパートナー網をフル活用して、「サービス」も意識したプロダクト提案で、市場の掘り起こしを狙う。
NEC
端末のサポートでパートナーに商機

片岡靖
マネージャー NECの初等・中等教育向けの文教事業では、情報端末と校務支援システムが二本柱となっている。現在の文教向け情報端末の市場規模は、百数十万台。これが「一人1台」になれば、「6倍以上の市場規模になる」と、片岡靖・第一官公ソリューション事業部マネージャーは見積もる。
「フューチャースクール推進事業」でも、端末のコストは依然として教育環境IT化の大きな阻害要因であると指摘されているが、片岡マネージャーは「ビジネスモデルも解決の一つの方策」との見解を示す。現在は、教育現場でのITの使い方を模索している段階でもあって、メーカー側も汎用的な機能をもつ高機能製品を提供せざるを得ない状況だからだという。「端末に求める機能が議論され、ある程度結論が出れば、コストは最適化されていくだろう」と話す。
タブレット端末を使った授業の有効性は、「フューチャースクール推進事業」でも証明された。文教分野での端末の市場が拡大すれば、サポートのニーズも高まる。「地場のパートナーの役割は非常に大きくなる」(片岡マネージャー)とみて、パートナーと連携を深め、ユーザーをきめ細かくサポートしていく意向だ。
また、片岡マネージャーは、「クラウドのプラットフォーム導入などは支援できる」とも話す。校務支援システムなどで培ったインフラ整備のノウハウを、授業支援システムの分野にも注入していく方針だ。
記者の眼
文教市場を拡大するには、一にも二にもコストの問題をクリアしなければならないことが、改めて浮き彫りになったという印象だ。今回取材に応じてくれた各ベンダーも、「シェアについて云々する時期ではない」と口を揃える。まずは、教育現場に最適なITシステムと、それを構成する各種機器、そしてクラウド基盤などについて、オープンでスケーラブル、かつコストを抑えて導入・運用できるモデルを構築すべく、知恵を絞らなければならない時期なのだろう。
いずれにしても、汎用の商材を売りつけるだけのビジネスでは、すそ野は広がらない。国の施策や予算の動向を的確にキャッチアップし、教育現場の相談相手になることが、ITベンダーに求められている。