経済活性化の一環として国が力を入れている「女性の活用」は、IT業界にも影響を与える。この特集では、IT企業で意思決定に関わる女性リーダーを紹介し、彼女たちの活動が営業や企画、経営などのあり方にどんなインパクトを与えるか、現場からレポートする。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
走り出したIT業界 日立は女性管理職を1000人に
NEC九州で提案を進めていた大口案件がトラブルに見舞われて、女性の営業担当がユーザー企業の会議室に呼ばれた。会議室には役員たちが厳しい表情で顔を揃えている。重苦しい雰囲気のなかで、質問を受けた。「NECは、ちゃんと対応してくれるのか」。
そんな緊張した雰囲気を突き破ったのは、女性営業担当の冗談交じりの言葉だ。「お任せください。トラブル対応には慣れております。でないと、旦那と長年やっていられません」。会議室は笑いに包まれた。そのひと言が、お客様との信頼関係の回復につながり、あやうく失うところだった案件を、継続して進めることができた。
●少ない女性リーダー IT業界は、システム構築の需要が活発になり、開発者などが不足した時期に女性の採用に取り組んだ企業が多いこともあって、他の業種に比べて女性社員の割合が比較的高い。取材を通じて「女性が活躍できると考えて、IT企業への入社を決めた」という話を多くの女性社員から聞いた。
IT業界での女性活用について調査を行った独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)によると、女性社員の比率が最も高いのは、独立系のIT企業(47%、図1参照)である。業務内容については、システム開発のエンジニア・プログラマが36%と最も多く、営業・マーケティング(10%)と運用・管理(9%)がそれに次いで多い。
国が促進している「女性活用」に関して、IT企業で問題になっているのは、部下を抱えたり、意思決定に関わったりするなど、リーダー役を果たす女性管理職がほとんどいないということだ。IPAは、IT企業に勤務している女性の大半(60.3%)が一般社員クラスだとみている。部長(4.7%)クラスや、経営層・役員クラス(1.3%)に属して、ビジネスへの大きな影響力をもつ女性はまだ少数派というわけだ(図2参照)。
●「女性活用度」を数値化 しかし、トレンドに敏感で、新しいモノを取り入れることに積極的に取り組むIT業界だからこそ、女性リーダーの登用に力を入れる動きが目立つようになってきた。日立グループは、この1月、「女性活用度調査」を実施し、女性の活躍ぶりを数値化して、その結果を公表した。女性役員や女性対象研修制度の有無などを評価指標に計算した「女性活用度」で、日立製作所の情報・通信システム社(総合点63.5点)が1位で、同じIT系の日立ソリューションズ(61.3点)が3位にランクインしている。
日立グループは、2020年度(21年3月期)までに女性管理職を13年度の2.5倍の1000人にすることに取り組んでおり、女性リーダーの登用によって、グローバルでの競争力の向上を図る。目標達成に欠かせないのは、仕事と子育ての両立ができず、出産をきっかけに会社を辞めてしまう、という流れを止めることだ。日本IBMは、東京・箱崎の本社内に社員が子どもを預けることができる保育園を設けている。こうした子育て支援で、女性にとって働きやすい環境をつくり、優秀な人材の確保につなげている。今後、業界のなかでこのような取り組みが広がっていくとみられる。

日本IBMの本社内にある「こがも保育園」。朝、出社とともに子どもを預け、夜、仕事が終わったら一緒に帰ることができる
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では、女性リーダーの登用によって、何がどう変わるのか──。次ページからは、IT企業で活躍している女性リーダーの活躍にスポットを当て、事例を通じて、ヒントを探る。
女性リーダーの活躍がイノベーションを生み出す
伝統的に、性別や年齢、国籍など「属性」を問わない多様な人材の活用に取り組んでいるのが、米IBMだ。創業した1911年から女性の採用を行っており、1943年には初の女性役員が誕生した。日本では、さまざまな視点をもつ人材の活用がイノベーションを生み出すという認識が浸透し始め、ここにきて、外資系だけでなく、大手を中心とする国産のITベンダーも、女性リーダーの登用に取り組んでいる。意思決定に携わり、ビジネスを支える彼女たちは、日頃、どのような動きをしているのか。3社の女性リーダーに取材し、活躍ぶりをクローズアップする。
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