米IBMが、レノボへのx86サーバー事業売却を発表してからおよそ2か月、日本での展開計画が徐々に明らかになってきた。まだ不透明な部分はあるものの、米IBMと日本IBMのx86サーバー事業を担当する幹部から追加情報を得た。(木村剛士)
レノボに移っても変わらない
1月23日の発表では、全世界でおよそ7500人のスタッフがレノボに移籍することになっている。日本IBMは、異動する人数を依然明確にしないが、x86サーバー事業の中枢部門「システム製品事業本部x/Pureセールス事業部」に属する全員が、レノボに移ることは決まった。また、x86サーバー事業に関連する他部門のスタッフも移る。実行時期は年内。ほぼ全員が、出向ではなく転籍となる。
日本IBMでシステム製品事業本部x/Pureセールス事業部長を務める小林泰子氏は、「今の体制がそのまま移るので何も変わらない。名刺が変わるだけ。レノボに移ることで開発力や販売力が落ちることはない」と断言した。レノボでは、一つの事業部門として、x86サーバー事業を運営していくかたちになるという。

米IBMのアダリオ・サンチェスゼネラル・マネージャー(左)と日本IBMのマーティン・イェッター社長販社のメリットは価格競争力?
x86サーバーが日本IBMからレノボに移ることで、ユーザーと販売パートナーには、どのような利点があるのか。現状、予想できる最大のポイントは価格だ。米IBMでSystem xゼネラル・マネージャーを務めるアダリオ・サンチェス氏は、「サーバーの価格を決める要素のうち、30~40%を占めるのはメモリ」だという。メモリは、PCでも利用するコンピュータの主要部品。PCで世界No.1になったレノボの部材調達力を生かして、IBM時代よりも価格を下げられる可能性は大きい。
サンチェス氏と日本IBMの小林氏も、低価格化の可能性が高いことを示唆している。「日本IBMの製品が他社に比べて価格競争力が弱いことは否定できなかった。『IBM System x』がレノボに移ることで、価格でも他社と勝負できるようにしたい」(小林氏)。ただし、両氏ともに具体的にどの程度下げられるかについては言及していない。
今回、「IBM System x」の開発・マーケティング・販売に関連するスタッフは、レノボに転籍するが、保守サービスの提供だけはIBMが引き続いて担当する。それはなぜか。
サンチェス氏はこの件について、「レノボの要請だ。顧客はIBMからのサービス提供を望んでいる。レノボはそのことを知っている。だから、保守サービスを私たちに委ねたのだ」と説明する。
「System x」ブランドは消えず
PCの「ThinkPad」ほどの知名度はないが、「IBM System x」というブランドはすでに市場に根づいている。レノボは自社のx86サーバーを「ThinkServer」というブランドで展開しているが、IBMの「System x」というブランドをどうするのか。小林氏によると「レノボに移っても『System x』というブランドのまま使う」という。レノボがもっている「ThinkServer」ブランドは、タワー型だけでラインアップが少ない。両ブランドを併用していく可能性はあるが、主軸は「System x」になる見込みで、当面、このブランドが消えることはない。
好調でもIBMが売却する理由
サンチェス氏は、「スケール(=規模の論理)」という言葉を頻繁に使った。「日本IBMの2013年のx86サーバー事業は、市場全体の成長に比べて3倍伸びた」とイェッター社長は自慢している。成長しているのに手放す理由は、ある程度のマーケットシェアをもっていなければ、この先、他社に勝てないという意識があることと、IBMが目指す姿にx86サーバー事業は不要だったということだろう。量を売る力がなければ、サーバーもPCと同様に利益の捻出は難しいとIBMは受け止めたのだ。
日本IBM幹部の独白
「IBMでは不可能だったことができる」
小林泰子 x/Pureセールス事業部長
1月23日の発表直後、日本のユーザーやパートナーを不安にさせてしまうと感じていたので、すぐに日本での展開プランをマスコミに話したかった。本社に対して、日本のユーザーとパートナーに本社から声を届けてほしいと交渉していたが、他国ではそれほどの混乱や動揺がなかったようで、なかなか理解されなかった。なので、3月6日に本社のx86サーバー事業のトップと日本IBMのイェッター(社長)が登壇する記者会見を開くまでに1か月半かかってしまったという経緯がある。
私が言いたいことは一つ。「IBMのすぐれたところはすべて引き継ぐ」ということ。レノボに移ることで、x86サーバーの品質や開発力、サポート力、(パートナーに対する)支援力が下がることは絶対にない。今回、x86サーバー事業に関連する日本IBMのスタッフは、私を含めてほぼ全員、出向ではなく転籍でレノボに移る。私も移籍する。メンバーに変わりはない。むしろ、IBMでは困難だったことがレノボではできると確信している。ハード事業とエンタープライズビジネスを強化する方針のレノボに移ることで、価格競争力が増すなど、新たな価値を提供できるはず。私はレノボでのビジネスを展開することを心待ちにしているし、中途半端な今の状態から抜け出し、早くレノボに移りたいと思っている。(談)