日本IBM
小林泰子さん
こばやし・たいこ
●システム製品事業本部 x/Pureセールス事業部の理事・事業部長としてリーダーシップを発揮
●「System x」のレノボへの移行を成功に導く 日本IBMは、今年1月、「System x」として知られるx86サーバー事業を、中国のパソコン大手、レノボに売却することを発表した。この事業のトップで、営業や開発の部門のおよそ100人のメンバーを統括する小林泰子さんは、レノボへの移行を成功に導くことをミッションに掲げている。この半年間、小林さんは多忙を極めている。ユーザー企業や販売パートナーを訪問して、移行によって何がどう変わるかをていねいに説明するだけでなく、社内でもマネージャーとしての腕が試されるからだ。日本IBMに在籍していることを誇りに思い、レノボへの移行をネガティブに捉えたり、将来に不安を抱いたりする部員のモチベーションをどう維持するか──。「目の前の状況を整理して、こんなことに取り組めば、将来、自分はこうなる、ということを理解させることが一番大切」と考えて、社員のケアに力を入れている。
関西出身の小林さんは、「女性でも自由に働かせてくれる」と考えて、富士通やNECの内定を断って、日本IBMに入社。京都の拠点でキャリアをスタートして、ストレートなもの言いをする関西地区で営業の経験を積みながら、気取らずに話す親しみやすさを持ち味にして、お客様やパートナーとの信頼関係を築いてきた。「当社にはほかにいない、ユニークな人」(日本IBMの広報)というように、日本IBMを代表する営業ウーマンだ。そんな小林さんだから、レノボへの移行については、複雑な思いもある。しかし、移行を成功させる「強い義務感」を原動力として、リーダーシップを発揮している。定期的にレノボ・ジャパンのロードリック・ラピン社長と会って、「IBMとしてのすぐれた点は、必ず守らなあかん」と、関西弁で力説する。
小林さんは若手の営業担当者の頃、大型のサーバー案件をライバルにさらわれそうになったことがある。そのライバルは、ユーザー企業の経営層にアプローチし、トップダウンのやり方で商談を進めた。「私はそういう手法はあまり好きではない」。小林さんはむしろ、粘り強く現場を訪問して、システム担当のニーズに耳を傾けた。現場を味方につけ、トップダウンではなく、稟議で採用を決めるように促して、案件の受注にこぎ着けた。現場に深く根づいている小林さん。「System x」のレノボへの移行が「うまくいってよかった」と部員に言われるよう、今日も頑張っている。
NEC
渡辺美穂さん
わたなべ・みほ
●宮崎支店の支店長として、10人を統括。顧客との太いパイプをもつ
●「地域密着」を徹底して宮崎ビジネスをリード NEC初の女性支店長が、九州にいる。渡辺美穂さんは、市場規模が小さく、大手ITベンダーが軽視しがちな宮崎で事業を展開し、現地に密着するかたちで、主に自治体から通信インフラや防災システムなどの案件を受注している。「宮崎は地域で経済が動く」。渡辺さんはそう考えて、自治体や企業の代表者など、地場のキーパーソンと密なパイプをつくり、人脈をビジネスに生かす。「夜は懇親会に参加したり、お客様と飲みに行ったりするので大変」と苦笑しつつも、こうした地道な活動のおかげで、宮崎の政財界で渡辺さんを知らない人はほとんどいない。「コロコロ支店長が変わる競合他社に比べれば、当社の大きな強みだ」と強調する。
渡辺さんは、新卒でNECに入社した後、東京や大阪でシステムエンジニア(SE)として開発に携わり、1995年、出身地の宮崎に戻って管理職の道を歩んできた。マネージャーから支店長に昇格したのは、5年ほど前だ。「当社では、女性が支店長になる前例はなかったが、地場に根づいて活躍し、お客様の信頼をいただいているからこそ、昇格することができた」と振り返る。渡辺さんはトップとして、宮崎支店の業務改善に力を注いでいる。離婚した後、娘を一人で育てながらマネージャーを務めなければならなかった経験から、時間を効率よく使う大切さを身をもって知った。そこで、「残業は評価に入れない」と打ち出して、女性が多い宮崎支店のメンバーが、夜、家に帰りやすいよう、あたりまえのように残業するこれまでの習慣を変えた。
「地域は人材が限られているので、メンバーが会社を辞めるのを防ぐことが、ビジネスを維持・拡大するうえで欠かせない」。昨年、渡辺さんは、定年退職の年齢を迎えたベテランの営業マンに、会社に残ってもらうようにお願いした。その営業マンは「ここは働きやすいのでいいよ」と承諾し、今も相次いで大きな案件を獲得して宮崎支店のビジネスを支えている。人脈づくりや社内環境の改善。渡辺さんは、リーダーとしての腕を振るいながら、制限が多い地域での事業をけん引している。
富士通
徳永奈緒美さん
とくなが・なおみ
●イノベーションビジネス本部のシニアディレクターを務める。戦略企画統括部コンバージェンスサービス部長を兼務
●案件に“くっつく”判断力を磨きビッグデータを事業化 IT企業が成長性の高い市場として着目しているのは「ビッグデータ」。調査会社のIDC Japanは、大量データの管理や分析を行うツールから構成される国内ビッグデータソフトウェアの市場規模が、2017年に250億円を突破すると見込んでいる。IT企業にとっての課題は、ビッグデータの可能性をどのように実ビジネスに落として、利益が出る案件の獲得につなげるかだ。ビッグデータの事業化は、ソリューションの提案の方法や社内調整などに関して、リーダーの腕が試される場にもなる。
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システム構築(SI)をビジネスの柱にしている富士通では、SI商談に関して「要件がはっきりしない案件は受けるな」という暗黙のルールがある。不採算案件を防ぐための措置だ。しかし、ビッグデータになると、「『なんとかデータを有効に活用したい』と、ふわっとした感じで依頼するお客様が多いので、これまでの常識が通じない」。富士通でビッグデータの企画・開発に携わるチームをリードする徳永奈緒美さんは、商談を引き受けるかどうかの判断が自分の腕の見せどころだと考えている。
2013年の秋、流通業の企業から、データ活用システムの提案を依頼された。何社かのベンダーが受注を目指して競い合うなか、「お客様から『データを実際に分析して、活用シーンを見せてくれ』という要求を受けた。当社にとって、受注が決まる前に、ヒトとカネを投入しなければならないことになるので、リスクがかなり高い案件だった」と、徳永さんは振り返る。これまでの富士通だったら、「危ない」と判断し、引き受けない可能性が高かっただろう。
しかし、徳永さんは「今後のビジネスの種になるかもしれない」と考えて、依頼を引き受けることを決断した。「残念ながら受注には至らなかったが、この案件で培った経験や知恵を生かして、現在、いくつか動いている案件のネタにしている」と、判断は正しかったと語る。
「ビッグデータを事業化するうえで、女性特有ではないが、柔軟な発想をもって、新しい考えを取り入れることが欠かせない」。徳永さんの「挑む」マインドを育てたのは、あらゆる部署での仕事を経験してきた、ストレートでないキャリアだ。12年間、開発現場でSEを務めた後、社内募集に応募して、トップ層に助言する役割を担う経営戦略室に移った。その後、客先に常駐して業務コンサルティングなどを行う「フィールドイノベータ」として現場で活躍。2009年に現在の仕事に就いて、およそ35人のメンバーを統括している。
ビッグデータの案件を受注に結びつけるポイントは、「お客様から活用シーンについての納得感を得ること」とみている。そのために、製品をつくって、使ってもらうことが成否のカギを握る。「しかし、当社では、製品を発売して一社でもお客様がついたら、簡単に撤退することができなくなる」。大胆に製品を出すことができないわけだ。そしていま、徳永さんが取り組んでいるのは、他社ブランドに近いかたちで製品を投入し、うまくいかなかったら、簡単に撤退できるという仕組みをつくることだ。常識にとらわれず、自由な発想を貫いて、ビッグデータをビジネスにしていく。
女性リーダーの登用を促すには? 富士通のダイバーシティ担当に聞く

塩野典子
ダイバーシティ推進室長 IT企業は、どんな施策を講じれば女性リーダーの活躍を促すことができるのか。多様な人材の育成に力を入れている富士通で、ダイバーシティ推進室長兼人事本部人事労政部シニアディレクターを務める塩野典子氏に、そのポイントをたずねた。
──御社では、女性リーダーの育成研修を展開しておられます。その内容を聞かせてください。 塩野 主任クラスの女性社員からメンバーを選んでチームを結成して、経営課題の解決方法を学ぶ研修です。参加者から「○○担当の役員に相談してみたい」といった要望があれば、こちらでつなぐなどして、経営陣も研修に巻き込んでいます。
さらに、所属している部署のトップへの同行をプログラム化しています。例えばトラブルが発生してお客様を訪問した際に、上司がどんな対応をするかを実際に見てもらって、リーダーの視点を身につけてもらうのが狙いです。
この研修を2011年に開始してから、これまでおよそ160人の女性社員が参加しました。参加者から「今後のキャリアに有効だと感じた」などのフィードバックを受けています。実際、今まで研修を受けた人の半分くらいが昇格しているので、確実に女性の活躍につながっています。これからも研修に力を入れて、女性リーダーを生み出したい。
──ほかに、どのような取り組みを考えておられますか。 塩野 今後は、育成の対象を多様なリーダー層に広げたいと考えています。例えば、就任したばかりの女性マネージャーへの支援を想定しています。ダイバーシティの推進が目指すところは、イノベーションを引き起こすこと。女性リーダーを前面に出して、富士通の競争力を高めていきたいと考えています。