NTTドコモ×電算システム
大手キャリアとプレミアパートナーがタッグ ソフトバンクテレコムを追撃
●営業力と技術力の融合 
電算システム
渡辺裕介
執行役員 NTTドコモは、昨年10月、Googleの法人向けクラウドビジネスで戦略的なパートナーとして、岐阜市に本社を置くSIerの電算システムと業務提携する契約を結び、Googleのエンタープライズパートナーに参入した。当初は「Google Apps」を、数千人規模で全国に配置している同社の法人営業部隊が展開し、今年4月には、法人ビジネスの代理店を通じた提供も開始。すでに100社を超えるエンドユーザーとの商談が進んでいる。商材としては、NTTコミュニケーションズの「Office 365」パッケージも提供しているが、NTTドコモ自身が厳選したクラウド商材を定額で提供するサービス「ビジネスプラス」にラインアップしているグループウェアは、「Google Apps」だけ。注力商材は「Google Apps」であることがみてとれる。
電算システムは、2008年から「Google Apps」を取り扱っていて、「プレミアパートナー」に認定されている。また、「Google Apps」と組み合わせて、「Google 検索アプライアンス(GSA)」を提供したり、PaaSの「Google App Engine」上で業務アプリケーションを個別に開発するなど、導入コンサルティングやカスタマイズ、サポートのノウハウも蓄積してきた。ドコモと電算システムとの協業では、ドコモの営業力と電算システムの技術力を融合し、3年で100万IDの獲得を目指す。
●大手ユーザーの細かな要望に応える 
NTTドコモ
岩嵜隆司
課長 「Office 365」との競合という視点では、ワークスタイルの変革を促す「モバイル」との親和性を「Google Apps」の強みとして訴求する。これはソフトバンクテレコムと同じ戦略だ。電算システムの渡辺裕介・システムエンジニアリング事業部執行役員事業部長は、「『Office 365』とのコンペは勝率がかなり高い。OSの種類など、クライアント依存がないことが最大の強みで、とくにIT活用に積極的な企業の経営層に受け入れられるためには大事な要素」と説明する。
一方、Googleエンタープライズパートナー間の競争では、電算システムのノウハウを武器に、まずは細かなカスタマイズの要望が発生する大手ユーザーから切り崩しを狙う。NTTドコモの岩・隆司・法人事業部法人ビジネス戦略部事業企画・クラウド企画担当課長は、「電算システムは『Google Apps』の更新率が99%と非常に高く、コンサル、サポートなどのノウハウがユーザーの高い支持を得ている。これは他のリセラーとの大きな違い」と、評価する。渡辺執行役員も、「ドコモとの協業で、当社の既存ユーザーからの信頼感も高まった。他の大手パートナーが対応しきれない案件にも対応できていて、『Google Apps』の他パートナーからの乗り換え案件も出てきている」と、成果が現れつつあることを強調する。
両社は、「Google Cloud Platform」も今後商材に加えるべく前向きに検討していく方針で、ソフトバンクテレコムとは対象的だ。渡辺執行役員は、現時点では、ミッションクリティカルなシステムに使うには不十分な点があるとしつつも、「IaaS、PaaS、SaaSのすべてのレイヤでGoogleを使い、社内システムを完全にクラウド化するのは、有力な選択肢となる。現在、クラウドのインフラとしてAWS(Amazon Web Services)を使っているユーザーなども、十分将来の顧客になり得る」との見方を示す。岩・課長も、「電算システムとうまく連携しながら、サービスの幅を徐々に広げていきたい」と、期待を語る。
ITベンダーからみたGoogle Apps 商材としてのポテンシャル
富士ソフト
「Google Apps Unlimited」に着目
Googleエンタープライズパートナーとして大手通信キャリアが続々参入するなかで、SIerやISVの既存パートナーは、Googleの法人向けビジネスをどう捉えているのだろうか。
「Google Apps」と「Office 365」の両方を手がける富士ソフトは、「ITで経営をドライブしようという思想が強いユーザーには『Google Apps』を勧めることが多い」(市川敬己・ソリューション事業本部ソリューション営業部営業推進グループ課長)というが、すでに、販売ライセンス数の拡充そのものには商機を見出していない。重視しているのは、シングルサインオン、ワークフロー、メールセキュリティなど、自社製品、他社パッケージを含めた拡張ソリューションを既存の「Google Apps」ユーザーに提供し、その導入コンサルティングから運用までをきめ細かくサポートするビジネスだ。同グループの直井清主任は、「SIerとして培ってきた技術力、提案力を生かし、ユーザーの業務に寄り添うかたちの提案ができるのが当社の強み」と強調する。「Google Apps」について、キャッチーなドアノックツールとして評価してはいるものの、同社にとっては営業の入り口に過ぎず、ビジネスの本丸は、SIやクラウドインテグレーション(CI)だといえそうだ。
一方で、6月にリリースされた「Google Apps for Business」の上位版、「Google Apps Unlimited」には、「容量無制限のストレージや管理機能、監査機能の高度化、マイクロソフトOfficeとの親和性向上など、新しいユーザーに訴求できる機能が備わっている」(直井主任)と、大きな期待を寄せている。

(左から)市川敬己 課長、直井清 主任HDE
Googleのリセラーはハイレベル

永留義己
副社長 クラウドセキュリティベンダーのHDEは、「Google Apps」や「Office 365」「Salesforce」のリセラー向けに、シングルサインオンを利用したアクセス管理ツールや、シンクライアント的な発想のデバイスセキュリティ機能、さらにはメールセキュリティなどのアドオン機能群「HDE One」を提供している。
エンドユーザーに直接商材を提供するというビジネスのかたちではないが、「ラージアカウントを中心に、ハイタッチで当社営業が案件をつくり、その後に『Google Apps』などのリセラーパートナーと連携することが多い」(永留義己・取締役副社長)という。こうした事業形態であることから、グローバル企業への導入案件を手がけることも多く、「HDE One」の海外での運用ノウハウも蓄積している。これを生かし、インターネット経由の直接契約を前提に、「HDE One」の本格的な海外展開も視野に入れている。
同社からみて、現状はやはり「Google Apps」に比べて「Office 365」の伸びのほうが勢いがあるという。しかし一方で、永留副社長は、「歴史が長い分、『Google Apps』のリセラーのほうがレベルは高い。Googleの価値は、そもそも保守的なユーザーのニーズを汲み上げることにはないと思うので、そうしたパートナーと連携して先進的な提案をし続けてほしい」と考えている。
将来的には、「HDE One」を国内SMBにも展開する方針。「国内市場向けのビジネスは、ノウハウをもった販売パートナーの存在が不可欠」(永留副社長)だと捉えていて、「Google Apps」のハイレベルなパートナーとアライアンスを構築する意向を示している。
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