クラウド型グループウェアの2強といわれるグーグルの「Google Apps」と日本マイクロソフトの「Office 365」。従来、オンプレミス型システムでの利用が中心であったメールやドキュメントなどの機能をクラウド上で提供する両サービスは、機能が酷似している。それだけに、両サービスを販売するパートナー企業は、ユーザーに優位点をどのように伝えていくのかが気になるところだ。その“売り方”を取材した。(取材・文/真鍋武)
似て非なる二つのサービス
クラウド型のグループウェアであるグーグルの「Google Apps」と日本マイクロソフトの「Office 365」の利用が、急速に拡大している。「Google Apps」は、2007年2月にグローバルで有償版の提供を開始し、すでに約500万社が利用している。一方の「Office 365」は、「Google Apps」に遅れることおよそ4年半の2011年6月にサービスの提供を開始したが、「2012年だけで、グローバルで約25万社が導入している」(米マイクロソフトで中堅・中小ビジネスを統括するトーマス・ハンセン バイスプレジデント)。調査会社のガートナー ジャパンの志賀嘉津士リサーチバイスプレジデントは、国内での両サービスの拡大について、「リリース時期が早かっただけに、これまでは『Google Apps』のほうが優勢だったが、今年に入って『Office 365』を導入する企業も急速に増えている」と分析している。
両サービスが提供する機能は、電子メール、ドキュメント、ファイル共有、共同作業などと酷似している。だが、そのバックグラウンドには相違点がある。「Google Apps」がコンシューマ向けオンラインEメールサービス「Gmail」を端に発しているのに対して、「Office 365」は、メール機能の「SharePoint Server」やドキュメント機能の「Office」など、従来マイクロソフトがオンプレミス型システムで提供してきたソフトウェアをクラウド上で提供するものだ。つまり、「Google Apps」が純粋なブラウザベースのクラウドサービスであるのに対して、「Office 365」がオンプレミス版システムとの共存を前提としたハイブリッドクラウドだという違いである。したがって、「Google Apps」は、既存システムからシンプルなクラウドサービスへの移行を望むユーザー向けであり、「Office 365」は、既存システムとクラウドをうまく組み合わせて使いたいユーザー向けということになる。
また、機能の拡張性という点でいえば、「Google Apps」は、アップデートの頻度が非常に高いという特徴をもつ。週に一度はアップデート情報が更新され、ユーザーの意識しないところで自動的に性能が向上していく。一方、「Office 365」はアップデートはそれほど高頻度ではない。しかし、決して手を抜いているわけではなく、2月27日に新バージョンに刷新し、Windows 8搭載デバイスへの対応や、SharePoint OnlineにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のYammerとの連携を加えて機能を強化している。

米マイクロソフトで中堅中小ビジネスを統括するトーマス・ハンセン バイスプレジデント さらに両サービスの違いは、販売プランやパートナー制度にも顕著に現れている。「Google Apps」は、1ユーザーあたり月額600円/年6000円の販売プランに限定し、パートナー制度も「大中規模企業向け」と「中小企業向け」の2種類を軸としている。一方、「Office 365」は、1~10人の企業向けの「Small Business」、1~250人の中規模向けの「Midsize Business」、規模を問わない「Enterprise」の三つの販売プランを設けて価格パターンが複数あり、パートナー制度も手数料販売や仕入れ販売、ハードウェアや通信回線を含めたトータルサービス販売と種類が豊富だ。また、2月27日のバージョンアップに合わせて、「『Midsize Business』の販売プログラムに「Open Lisence」を追加し、「従来、手数料販売だけしかできなかったパートナー企業が仕入販売できるようにした」(ハンセンバイスプレジデント)。「Google Apps」は、すでに仕入れ販売モデルを確立しているので、今回の「Open License」の追加によって、パートナーにとって両サービスを販売するメリットも同等のものとなったといっていいだろう。
このように、似て非なるサービスだけに、ユーザー企業は、サービスの導入を検討する段階で比較することが多いといわれている。パートナー企業は、どのようにして効果的に販売しているのだろうか。
『Google Apps』の売り方
──付加価値サービスを組み合わせる
純粋なブラウザベースのクラウドサービスであることから、パートナー企業は、既存システムからの脱却を望むユーザーに対して提案している。また、導入支援サービスのほか、足りない機能を補うアプリケーションなど付加価値サービスを組み合わせて提供している。
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