<外資勢 先駆マーケットプレイスの今>
新たな局面を迎えるAppExchange セールスフォース・ドットコム

御代茂樹
マーケティング本部シニアディレクター 2006年にサービスを開始したセールスフォース・ドットコムのマーケットプレイス「AppExchange」は、9月5日現在、203アプリをラインアップしていて、257万ダウンロードの実績がある。国産ベンダー3社のCMPサービスと単純な比較はできないが、「App Exchange」の売り上げは昨年、一昨年と連続で倍増しているという。
もともとは、CRM「Salesforce」などで使われていた同社のアプリケーション開発基盤(現在のForce.com)をPaaSとしてパートナーに開放して、その上にISVやSIerが構築したアプリケーションを販売するマーケットプレイスとして展開してきた。そのため、セールスフォース製品の顧客基盤を活用してビジネスを拡大しようとするパートナーが集う場となっていたが、近年、状況が変わってきたという。
御代茂樹・マーケティング本部プロダクトマーケティングシニアディレクターは、「Salesforceとの連携を前提としない独立したアプリケーションをForce.com上で開発し、AppExchange経由で提供するOEMパートナーが増えている。彼らが、非Salesforceユーザーを、新規顧客として開拓するケースが非常に増えている」と語る。今でこそ、「Evernote Business」など、独自のインフラをもつクラウドベンダーの商材もラインアップしているが、AppExchange上のアプリの9割は、Force.com上に構築されたアプリ。AppExchangeが、セールスフォース・ドットコムのPaaSをベースにしたマーケットプレイスとして新たなステージに突入したことを示唆する。

北原祐司
アライアンス本部シニアディレクター もともとのコンセプトとしては、アプリの購入から利用まで、すべてウェブ上で完結する「エンタープライズ版App Store」を目指しているAppExchangeだが、実際にユーザーがアプリを導入する場合には、インプリメンテーション(実装)やコンサルティングをするパートナー企業が入る間接販売のかたちをとるケースが多い。とくに日本は、Force.com上でアプリをつくるパートナーよりも、導入支援をするパートナーのほうが多く、北原祐司・アライアンス本部ISVアライアンスシニアディレクターは、「日本市場特有のエコシステム」だと説明する。こうした販売パートナーが、「AppExchangeを商材探しの場として活用して、当社のアプリに限らず、OEMパートナーの製品であっても、必要なアプリを組み合わせてForce.com上でシームレスに連携できるソリューションとして提案する例が増えてきている」(北原シニアディレクター)という。「OEMパートナー同士が連携して機能をマージ(融合)するパターンもある」(御代シニアディレクター)そうで、AppExchangeは、パートナー同士のコミュニティとして機能している。
米国のAppExchangeは、アプリが2500タイトルを超え、同社が自らリクルーティングする必要がないほど、デベロッパーもエコシステムに多数参加しているという。御代シニアディレクターは、「最終的には日本のAppExchangeも、米国と同規模のコミュニティに成長させることができれば」と話している。
記者の眼
国産大手のクラウドマーケットプレイスは、三者三様で、メインターゲットがわずかずつ重なりながらも、品揃えの方針やチャネル戦略に明確な違いがみられる(図1参照)。自社にとっての新たなマーケットに、直販を基本として、「紹介手数料」というライトな仕組みで幅広い拡販チャネルを構築しようとするFJMに対して、パートナー販売のスキームは守りながら、それを何とかクラウドビジネスに適応させようとしているNEC。日立システムズは、その中間で方針を模索中といった印象だ。
SMBにとってクラウドはメリットがあるといわれて久しいが、企業の規模が小さくなればなるほど、クラウド導入への意欲が乏しい状況は変わっていない(図2参照)。freeeをはじめとする新興のITベンチャーは、精緻なマーケティングを基に、まずはクラウド導入に抵抗のないイノベータやアーリーアダプタ企業に絞って製品を訴求し、短期間で多くのユーザーを獲得することに成功している。しかし、国産大手ベンダーの顧客はそうした企業ではない。3社のマーケットプレイス事業担当者が口を揃えるのは、「今は競合と争うよりも、協力して市場をつくることが大事」ということ。本来レイトマジョリティに属するようなユーザーにいきなりクラウド商材を提案することの難しさをどう乗り越えるのか、明確な答えはまだみえない。一方で、セールスフォース・ドットコムのAppExchangeは、パートナーのコミュニティとして機能し、同社のPaaSビジネスの拡大に向けたエンジンになっている。国産ベンダー3社とは目指すものが違うにせよ、SaaSビジネスの拡大において、PaaS戦略が大きな役割を果たすことを証明しているのも事実。この領域で、国産ベンダーの存在感が薄いのは気になるところだ。