弥生の戦略
6月に法人向けクラウド会計をリリース
成長は「ジワジワ」と
●会計事務所から多くの要望 
岡本浩一郎
社長 弥生は、今年6月に法人向けのクラウド会計をついにリリースする。「法人向けの会計ソフトは、会計事務所が顧問先に推奨して採用されるパターンが非常に多い。会計事務所からすると、推奨責任が発生するので、将来が定かではない製品を顧問先企業に勧めたくないという気持ちがある。だからこそ、弥生がやるならクラウドも使ってみたいという声は多くの会計事務所からいただいている」と、岡本社長は話す。満を持してのリリースといえそうだ。
具体的にはどんな製品になるのか。以前、岡本社長は本紙の取材に対して、「デスクトップ版の弥生会計と完全に同じ機能をフル装備したクラウド会計にはしない」と話していたが、最新の取材では、ニュアンスの変化がみて取れた。「中長期的には、法人クラウド会計にもより多くの機能を積んではいきたいと考えている」(岡本社長)と、ゆくゆくはデスクトップ版とほぼ同等の機能をクラウドでも提供していくことを示唆した。
●デスクトップ版とのデータ共有も ただし、弥生が真の強みとして訴求していこうと考えているのは、デスクトップ版とクラウド版をシームレスに連携できる点だ。すでに、デスクトップ版のデータをクラウドに置く「弥生ドライブ」や、外部のクラウドサービスと弥生のデスクトップアプリケーションのデータ連携ツールである「YAYOI SMART CONNECT」などは提供しているが、「デスクトップ版とクラウド版のデータの相互乗り入れも予定している。そうすると、例えば顧問先企業がクラウド版を使って、会計事務所側はこれまで通りデスクトップ版を使うという連携が可能になる」(岡本社長)という。
「とくに会計事務所側からすると、限られた時間のなかでいろいろな処理をしなければならないので、操作性に対するこだわりは強く、従来の弥生会計もそうしたニーズに沿って評価されてきている。だから、会計事務所は従来通りデスクトップ版を使い、顧問先がクラウドを使って、データをリアルタイムで共有できるようにするというかたちは、実際に多くの会計事務所から実現してほしいという要望をいただいている。競合ベンダーも、会計事務所で弥生を使っているケースが多いことは認識していて、データを弥生形式でエクスポートするという機能は整備しているが、完全にシームレスにデータ連携できるのは弥生製品同士だけで、これは大きな強みになるし、会計事務所に対する訴求力は非常に大きいと考えている」。
まずは、会計事務所のパートナーである約6000のPAP会員にクラウド製品でできることを周知する。ただ、どの程度の規模のビジネスになるかという点については、過度に期待はしていない。「法人でも、会計ソフト普及率は50%にも満たないので、クラウドはこれをジワジワと引き上げていく要因にはなるだろう。しかし、爆発的に市場が膨らむとは思っていない」(岡本社長)と、あくまでも既存の顧客基盤を生かし、クラウドで徐々に上積みを図るのが基本戦略だ。
freeeの戦略
法人ユーザー向けの機能向上に注力
会計/税理士事務所との連携強化策も
●行政手続きもクラウドで 
佐々木大輔
代表取締役 freeeは、新機能として、政府がe-Gov(電子政府ポータル)のAPI公開を進めていることを受け、申告から納付まで、労働保険の更新手続きをfreee上で完結する機能を、5月末にリリースする。自動で労働保険料の計算や申請書の作成、保険料の振り込みまででき、今後、e-GovのAPI公開状況に合わせて、他の手続きにも随時対応していく予定だという。佐々木代表取締役は、「e-GovのAPIを利用した初めてのプロダクト」と胸を張る。
また、改正電子帳簿保存法の電子保存要件への対応や、税理士を含む法人を対象としたマイナンバー管理のサポート機能、給与支払いと経費精算の連携機能のリリースなども年内に行う予定だ。行政手続きなども含めてクラウドでバックオフィス業務をすべて完結させるためのプラットフォームとして、freeeを改めて位置づけている。佐々木代表取締役は、「法人“も”大事なお客様としてしっかりサポートしていくということ」と、法人向け市場を重視すると明言はしないが、法人でよりメリットを得られるような機能向上の計画が目立つ。
●1000事務所を超えるパートナー freeeは、法人ユーザー獲得のチャネルとなる税理士事務所や会計事務所などのパートナー網として、認定アドバイザー制度を設けている。今年4月現在、この認定アドバイザーは1000事務所を超えていて、登録ユーザーの伸びとほぼ同様の成長曲線を描いている。法人ユーザーの獲得に向けた販路整備も、着実に進めている。
さらに、会計事務所、税理士事務所を取り込むための施策として、アカウンティング・サース・ジャパンのクラウド型の会計事務所専用システム「A-SaaS」(1700以上の事務所に納入済)との仕訳データ連携も始めていて、法人ユーザー獲得のためのエコシステムの拡大策を多方面で進めている。
マネーフォワードの戦略
ライバルはfreeeから弥生に
会計/税理士事務所のサポート体制強化
●量販店チャネルが好調 
辻庸介社長
CEO 先行するfreeeのライバルとして語られることも多いマネーフォワードだが、辻庸介社長CEOは、「freeeは個人事業主向けがメインという印象で、設計の思想が少し違う。MFクラウド会計は、経理の専門家でも使い込めるしっかりとした製品であることが特徴で、想定した水準以上に中小企業での利用が増えている」と話す。クラウド会計も棲み分けが進んでいて、がっぷり四つで争う競合ではないと分析している。辻社長CEOは、「今はfreeeよりも弥生を意識している」とも明言しており、法人向けにより重きを置いてビジネスの拡大を図ろうとしている印象だ。
そのためのチャネルは、インバウンドによるウェブ経由の契約を除けば、三つだ。まず、ソースネクストと提携し、家電量販店での展開を始めた。弥生と真っ正面からぶつかるフィールドだが、辻社長CEOは、「量販店の店頭にディスプレイされている商品はこれまで確かに弥生が多かったが、MFクラウドに置き換わっているケースもかなり出てきていて、予想以上に量販店チャネルでの売り上げは好調」と手応えを語る。
●大阪支店の開設で関西を攻める 二つめは、業務提携しているソリューションパートナー経由の提供だが、これは、中小介護事業者向けの経営支援サービスを展開するエス・エム・エスの商材のなかにMFクラウドを組み入れて提供するというルートしかまだない。やはり、同社が法人向けのチャネルとして最も重視しているのは、会計/税理士事務所だ。「中小企業は単独で経理を締めるのは難しい。会計士、税理士の先生との連携は絶対に必要」というのが、辻社長CEOの率直な見方だ。
2月時点で、会計/税理士事務所のパートナーは500~600事務所の規模になっており、同月、大阪支店を開設して、関西の会計/税理士事務所もサポートしやすい体制を整えた。これを機に、西日本でのユーザー拡大を加速する考えだ。クラウドベンダーではあるものの、会計/税理士事務所とのリアルな接点を重視し、販売パートナー網の拡充を強力に推進する。
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