Windows向け開発・運用ビジネス
守備範囲の拡大が求められる
Windows 10によってPCとモバイルの境目がなくなる時代を見越し、クロスプラットフォームをキーワードにビジネス拡大をねらう企業が現れ始めている。Windows 10搭載デバイスの導入が本格化するのは、来年からとみられるが、デバイスが入り始める時点で、Windows 10向けのサービスを提供するのであれば、準備は今からでも早くはない。
ジェーエムエーシステムズ
提案の幅がモバイル単体からトータルへと広がる

傳寳幸宏
マネジャー Windowsタブレット端末がシェアを伸ばしている理由の一つとして、既存の業務システムとの親和性の高さがある。一口に「親和性」といってもさまざまな側面がある。一例として、「PCと共通の業務アプリケーションやウェブブラウザが利用できるので、動作検証が容易」「Active Directoryでユーザーやアクセス権を管理可能」「既存PCに導入済みのセキュリティ製品をタブレット端末にも適用できる」「プリンタやカードリーダーなど周辺機器の対応が充実している」といった点がメリットとして挙げられる。
とはいえ、単にデバイスの形状がノート型からタブレット端末型に変わるだけでは、導入によって得られる効果は限られる。日本能率協会グループの独立系SIer・ジェーエムエーシステムズでは、2011年よりスマートデバイスに注目し、導入支援やアプリケーション開発を行っている。iPadやAndroid向けのアプリ開発で蓄積したノウハウを生かし、Windowsタブレット端末向けにも、Windows 8から導入されたタブレット端末用UIをフル活用した各種アプリを提供している。Office 365と連携可能な社内情報共有ソリューション「Any3」や、カタログやアンケートなどタブレット端末向けでニーズの高いアプリケーションをクラウドで提供する「seap for Windows」などを用意するほか、個別の受託開発も行っている。
同社の傳寳幸宏・産業ソリューション事業部企画グループマネジャーは「約2年前のWindows 8.1登場以降、Windowsタブレット端末向けの開発案件数が大きく伸びた。デバイス間でのプラットフォーム共通化が大きくうたわれているWindows 10が普及すると、次は提案の“幅”が広げられるのではないか」と話し、今後はスマートデバイス向けの開発案件が、タブレット端末単体からより広範囲をカバーする形に変わっていくと展望する。
多様な形態のデバイスに対応したアプリを開発することによって、例えば販売管理のアプリなら、社員のノートPC上では、従来通り1件1件の取引データが入力・編集できるが、経営者がもつタブレット端末からアクセスすると、経営判断に必要な業績数値がグラフィカルに表示されるといったように、役割によって最適なユーザーエクスペリエンスを提供できるようになる。
もちろん、それぞれのデバイスごとに個別のアプリケーションをつくり込めば現在でも同じことを実現できるが、Windows 10のプラットフォームを利用すると、アプリケーションの開発・配布、端末の管理・運用を一元化できるのがメリットとなる。傳寳マネジャーは、「タブレット端末かPCかという境目がなくなることで、トータルの提案ができるようになる」と語り、Windows 10は、同社がスマートデバイス向けの開発で積み重ねてきたノウハウを生かす土台になるとの期待を示した。
エンバカデロ・テクノロジーズ
業務アプリ開発者もモバイルへの対応が必須に

藤井 等
カントリーマネージャー PC、タブレット端末、スマートフォン、IoTデバイスなど、さまざまなデバイスで共通のアプリケーションを動作させるWindows 10の技術は、「ユニバーサルWindowsプラットフォーム(UWP)」と呼ばれている。UWP用にアプリケーションを書くことにより、デバイスの種類の壁を越えられるようになるだけでなく、Windowsストアを利用したアプリの配布が可能になるほか、セキュリティの強化、タッチUIへの対応が容易になるなどのメリットが得られる。
とはいえ、開発者にとってみれば、サポートしなければいけないプラットフォームがまた一つ増える格好だ。しかも、当分の間はWindows 7/8.1用の開発も継続する必要がある。場合によってはiOSやAndroid用のモバイルアプリも開発しなければならない状況下で、これ以上取り扱うプラットフォームを増やしたくないという開発者も少なくないだろう。
エンバカデロ・テクノロジーズは9月、このような問題に対応する統合開発環境「RAD Studio 10 Seattle」を発売した。RAD Studioは、単一のコードからWindows、Mac、iOS、Androidのネイティブアプリケーションを生成できる開発ツールで、最新バージョンの10 Seattleでは、Windows 10用のUWPアプリケーション開発機能を強化した。このツールを利用して開発することで、既存のWindows環境のサポートを継続しながら、UWPや他のモバイルプラットフォームへの対応も行える。また、端末を縦向き/横向きにもち替えたときの挙動や、カメラ・GPSなどへのアクセス、ノーティフィケーション(通知)など、モバイル端末でよく利用される機能も、共通のコードを書くだけでツールがWindows、iOS、Androidの違いを吸収し、自動的に各プラットフォームに対応してくれるのがポイントだ。
同社の藤井等・カントリーマネージャーは、「Windows 7/8.1がWindows 10へ置き換わるスピードはかなり速い。遠くない将来、開発者は自分のアプリケーションがWindows 10で正しく動作するか、ユーザーから問われる時代になる」と話し、PC用の業務アプリケーションだけを手がけてきた開発者にとっても、今後はマルチプラットフォーム対応が人ごとではなくなると警鐘を鳴らす。タブレット端末や2ーinー1デバイスの普及により、タッチスクリーンが有効な環境でWindowsを使うユーザーが増えているため、「少なくとも、従来のデスクトップ画面に加え、タブレット端末モードでも使えるように、開発者は準備を進めておく必要がある」と指摘する。

マイクロソフトも「Office 2016」ではマルチデバイス対応を強化している。デスクトップ/タブレット端末の両環境で同じ機能を利用できるが、タブレット端末モード(右)ではタッチ操作が行いやすいよう、カラーパレットなどのサイズが大きくなっているのがわかるアイキューブドシステムズ
iOSの定番MDMがWindows市場に進出
ここまでみてきたように、従来Windows PCを中心にビジネスを展開してきたマイクロソフトのパートナーにとって、Windows 10の登場はタブレット端末をはじめとする新たな市場に進出する契機となる。
一方、PCとモバイルの境界が薄くなることによって、モバイル側からWindowsの世界に接近するプレイヤーも今後増えると考えられる。象徴的なのが、10月2日に発表された、アイキューブドシステムズと日本マイクロソフトの協業で、アイキューブドシステムズの主力商品であるMDMサービス「CLOMO MDM」のWindows対応を強化するとともに、同サービスの提供基盤をAmazon Web ServicesからマイクロソフトのAzureへ全面移行するという内容だった。
発表会には日本マイクロソフトの平野拓也社長に加え、平野社長の上司にあたるマイクロソフト インターナショナルのプレジデント、ジャンフィリップ・クルトワ氏も同席するなど、マイクロソフトとしてもこの協業が、重要な意味をもつと考えている様子だった。CLOMO MDM自体は、主にiOSとAndroidに対応しているが、とくにiOSの最新仕様への対応が早いことで知られ、iPhone/iPad導入企業の間で定評のあるサービスだ。iOSに近いイメージが強かっただけに、2社の協業発表は意外性のある組み合わせだった。
アイキューブドシステムズの佐々木勉社長によると、Windowsは法人市場で圧倒的なシェアをもつことから、同社のユーザーやパートナーからは「Windows端末もCLOMO MDMで管理したい」という要望が多く寄せられていたという。従来、Windows端末はActive Directory(AD)で管理し、iOS/Android端末はMDMで管理する必要があったが、業務や従業員の要望に応じて、さまざまな端末を使い分けるのがあたりまえになった今、すべての端末を一元的に管理したいというニーズが生まれるのは当然だ。
Windowsは、8.1からMDMの標準プロトコル「OMA DM」に対応しており、CLOMO MDMも対応OSにWindows 8.1を追加していた。ただし、Windows 8.1では、デバイスがADの傘下に入っているとMDMの管理機構と競合してしまうという問題があり、すでにADで管理を行っている組織においては、MDMとの共存が難しかった。Windows 10ではADとMDMの両立が可能となり問題が解決されたほか、「MDMで制御できるAPIが、システムレベルまで踏み込んだ形で提供されるようになった」(佐々木社長)ことから、全面的なサポートが可能になった。
また、佐々木社長は「今後Windows 10がさまざまなものに搭載される可能性が、私たちの背中を大きく押した。IoTデバイスを含めて、もっと多くの成果を出していきたい」とも話す。同社では、CLOMO MDMの既存ユーザーに対してWindows端末の管理を追加提案していくほか、マイクロソフトと営業面でも連携し、マイクロソフトのパートナー網や顧客基盤も活用して販売を拡大していく。

両社の協業発表では、アイキューブドシステムズの佐々木 勉社長(中央)。日本マイクロソフトの平野拓也社長(右)に加え、マイクロソフト インターナショナルのジャンフィリップ・クルトワ・プレジデントも出席した
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