和暦における「平成」の時代は来年4月30日に終了し、翌5月1日から新元号に切り替わる。新元号の公表時期は未定だが、改元1カ月前とすれば今から約半年後。SI業界では今のところ大きな混乱は生じていないものの、画面表示や帳票出力に和暦が用いられているシステムでは、来年にかけて何らかの対応が必要となる。改元とITをめぐる動きと、システム改修の要点をまとめる。(取材・文/日高 彰)
「平成最後の年末年始」が近づく
書店や文具店の店頭に、2019年版のカレンダーや手帳が並び始めた。例年と異なるのは和暦の表記。来年は4月30日までが「平成」で、5月1日以降は未公表の新元号となる異例の年とあって、和暦を省略している商品が多いという。西暦と和暦を併記しているカレンダーも、当然のことながら5月以降は西暦のみ。今販売されている商品が、平成最後のカレンダーとなる。
「生前退位」の議論の中で、新元号については当初「18年中にも公表」と言われていたが、今年5月に政府の省庁横断で開催された「新元号への円滑な移行に向けた関係省庁連絡会議」では、新元号の公表時期を改元の1カ月前と想定して準備を進める方針が決定された。ただ、これも法令化されたスケジュールではないため、改元と新元号の公表が同時に行われるという可能性も消えてはいない。
連絡会議の決定を受けて経済産業省は6月、「改元に伴う情報システム改修等への対応について」と題する文書を、省内の部局が管轄する各業界団体に送付。システム改修と事務・運用での対応の両面で、民間企業においても新元号への移行がスムーズに行われるよう協力を求めた。
目下大きな混乱はなし
マスメディア上においては、新元号の公表が早くとも改元1カ月前となることについて、システム改修が間に合わないのではないかと不安視する報道が相次いだ。しかし、今のところSI業界内ではそれほど大きな混乱にはつながっていないようだ。もちろん、準備を進めるのに際して新元号が早く公表されるに越したことはないが、突発的な法令改正への対応とは異なり、改元はいつか発生することがあらかじめ分かっている出来事であり、一定の品質レベルが担保されているシステムであれば、改元は織り込み済みで設計されているからだ。
「昭和から平成への改元は、消費税導入に向けたシステム改修と時期が重なって大変だったと聞いている。事前に準備できる今回は、それに比べれば難題ではない」(大手ITベンダー技術職)
一部が元号抜きで印刷された2019年版のカレンダーや手帳
JR各社は切符の日付印字を和暦から西暦へ順次移行している
また、日本社会で発生する業務全体の中で、和暦が用いられるシーンが減っているという側面もある。例えば、JR各社は今年、旅客営業規則を一部改正し、乗車券類の様式規定に「元号表示のものを西暦表示に、西暦表示のものを元号表示とすることがある」の一文を加えた。実際に発行される切符の券面においては、順次和暦(もともと元号は記載せず「30」などの表示のみ)から西暦に切り替えている。警察庁も有効期限だけではあるが、運転免許証に西暦を記載する方針だ。帳票などでも西暦表記を採用する企業が広がっており、システム対応が必要な範囲自体が狭まりつつある。
「平成31年5月」も法的には有効だが……
とはいえ、元号マスターを更新するだけで済むというほど楽観視もできないのが実情だ。富士通では、SI事業に関連する部署を横串にして、新元号対応における技術的な課題を調査・検討する作業部会を設置。サービステクノロジー本部システムインテグレーション技術統括部の五十嵐一郎統括部長は「改元に伴うシステム上の問題は、基本的には表示に関連する範囲であり、動作そのものに深刻な影響が出ることは考えにくい。ただし、“昔の常識”で作られているレガシーシステムなどで、和暦の処理がテーブル化されていないなど、対応に手間がかかるケースが発生する恐れはある」と指摘する。
特に、ユーザー企業側で開発した資産の中には、そのようなプログラムが含まれている可能性が高い。ツールによって影響範囲を網羅することも難しいため、コードを一通りレビューする必要があり、システムの規模によっては作業量は大きなものになる。また、レガシーシステムの場合、それを扱える技術者がユーザーの社内にはすでにいないこともある。
「平成31年5月1日」という日付は厳密には存在しないものの、契約書や官公庁への提出書類では自動的に新元号に読み替えられるため、特に法的な問題が発生するわけではない。新元号にどのタイミングでどこまで対応するのかは、顧客の要求次第となる。ただ、和暦対応が必要とされる金融機関や官公庁のシステムでは、5月1日での切り替えを求められることが多いという。
保険会社を顧客にもつあるベンダーでは、保険証券や官公庁への提出文書を扱うシステムを優先してテストを行い、来年5月1日以降の日付で仮の新元号(例えば「改元」)が表示されることを確認しているという。新元号が公表され次第、正式な元号に差し替えて最終的なテストを行う。ただし、保守を担当する全システムの新元号対応時期は未定。社内向けの画面などでは、改元以降も平成表記が混在する可能性があるという。
「突然の改元であれば、当面、新元号対応が間に合わなくても顧客の理解は得られる。しかし今回は期日が決まっているので、5月1日に間に合わせることが期待される。それにしては、正式な公表時期が1カ月前というのは厳しい」(大手ITベンダー技術職)という声もあり、改元のスケジュールが決まっているのは痛し痒しのようだ。
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