Special Feature
主要SIerの上期決算 IT需要、引き続き好調を維持 AIやIoT、5Gの新しいSIニーズが後押し
2018/12/19 09:00
週刊BCN 2018年12月10日vol.1755掲載
野村総合研究所(NRI)
初の年商5000億円超を目指す
NRIの上期決算は、連結売上高、営業利益とも増収増益を達成した。とりわけ製造や流通・サービス業の産業向け事業が、前年同期比22.5%増と大きく伸びた。オーストラリア(豪州)のSIerをグループに迎え入れたM&A(企業の合併と買収)効果も後押しした。今年度(19年3月期)の連結売上高は前年同期比8.2%増の5100億円の見込みで、達成できれば初の年商5000億円超となる。
上期のサービス別売上高を見ると、コンサルティングサービスは前年同期比36.7%増の437億円と大幅に伸びた。豪州のM&A効果もあるが、既存ベースでも顧客からのコンサルティングやシステムの上流設計の依頼が増加。主に上流工程を占めるコンサルティングサービスの売り上げが高まると、下流工程に相当する「システム構築やソフトウェア開発、運用サービスの受注増につながっていく」(此本臣吾社長)ことが期待できる。
豪州のASGグループを迎え入れたことで、上期の海外売上高は前年同期比73.1%増の275億円に増えた。この金額はNRIの大口顧客である野村ホールディングス向けの286億円に相当する大きなボリュームである。ASGグループの業績は堅調に推移。23年3月期に向けた経営ビジョンで掲げる海外売上高1000億円に向けて一段とドライブをかける。
TIS
IT投資が減速する兆候は見られず
TISの上期連結売上高は前年同期比4.2%増2030億円、営業利益は14.4%増の155億円で、いずれも期初予想を上回った。上期としては過去最高の業績を達成している。桑野徹会長兼社長は、「中期的に見てもIT投資が減速するは考えにくい」と、良好な受注環境が当面は続く見通しだと話す。IoTやAIに代表される新しいデジタル領域への投資意欲は業種を問わず活発化していることが背景に挙げられる。
21年3月期までの3カ年中期経営計画では、売上高に占める注力事業の比率を18年3月期の35%から50%へ高める目標を掲げている。決済システムやAI/ロボット、ERPなどでTISの独自のノウハウをパッケージ化、サービス化した商材群や、ユーザー企業と経営目標を共有し、ビジネスパートナーとして共に事業を伸ばすタイプのビジネスなどを注力事業に設定。この上期には注力事業の売上高比率が42%へと拡大している。
また、TISは旧式となったデータセンター(DC)を閉鎖し、エネルギー効率の高い最新式のDCへ切り替えを推進している。旧式DCを利用しているユーザー企業には、新式DCへ移転してもらうことが必要だが、その際に発生する移転費用を一部負担。88億円の特別損失を出している。特損は有価証券の売却益で相殺するものの、顧客と経営目標を共有し、ビジネスパートナーとして顧客のビジネスに深くコミットしているがゆえのリスクと見なすことができる。桑野会長兼社長は、「中長期的に見れば、今回の移転費用は、今後のビジネスの成長によって回収できる」と判断している。
JBCCホールディングス
収益力を高める構造改革を推進
JBCCホールディングス(JBグループ)は、ディストリビューション会社のイグアスを連結対象から外したことから、上期売上高は前年同期比17.7%減となった。だが、営業利益は29.0%増の13億5500万円で、「収益力は着実に強まっている」(JBグループの山田隆司社長)と手応えを感じている。上期売上高ベースでも、イグアスの要因を除けば2.4%増と伸びている。
この伸びた主な要因が、IBM Power Systems(旧AS/400)の更改需要と、Windows 10への移行需要に支えられたハードウェア/システム販売。いずれも販売のピークを過ぎれば平準化していく性質であるため課題が残る。
JBグループでは、クラウドベースのシステム開発や、高速開発ツールのGeneXus(ジェネクサス)を使ったアジャイル型の開発などを「New SI」と定義。IoTやAI関連のシステム開発に応用していくことで、新しいデジタル領域のビジネスに勢いをつけようとしている。
このNew SIの案件数は前年同期比4.1%と増えているものの、デジタル新領域は試行錯誤を繰り返しながら徐々にシステム規模を大きくしていくスタイルが多くを占めるため、受注当初の単価は小ぶりになる傾向が強い。このため上期SI事業の売り上げは、New SIの案件単価が影響して前年同期比5.7%減となった。
20年度に向けた4カ年の中期経営計画では、New SIをはじめクラウド、セキュリティー、ヘルスケアなど7つの注力事業を設定。粗利益の半分近くを注力事業で稼ぎ出す計画を立てている。クラウドやセキュリティーなどは上期の利益目標をクリアしており、今後もこうした施策を継続していくことで収益力を高めていく。
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)
5GとIoTの連携で強みを伸ばす
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の上期決算は、連結売上高が前年同期比1.0%増、営業利益が0.9%増と増収増益。今年度(19年3月期)売上高予想は4.7%増の4500億円、営業利益は7.3%増の350億円。菊地哲社長は目標に向けて「順調に進捗している」と話す。
20年度に向けた3カ年中期経営計画の指標では、クラウド・ITアウトソーシング関連ビジネスと、グローバル関連ビジネスでそれぞれ600億円を目標に掲げている。
前者のクラウド・ITアウトソーシング関連ビジネスの上期実績は、CTC独自の基幹システム特化型IaaS「CUVICmc2(キュービックエムシーツー)」などが好調で、前年同期比17.9%増の283億円に達した。「通年で600億円の目標は射程距離内に入っている」と手応えを感じている。一方、後者のグローバル関連ビジネスの上期売上高は9.2%増の178億円と、目標達成にはまだ距離がある。北米や欧州での資本提携や業務提携などを視野に入れる。
CTCは下期の注力ポイントとして「5G」への投資増を挙げる。国内大手通信キャリアは向こう数年で兆単位の投資規模を想定しているとされ、通信キャリア向けのビジネスに強いCTCは、この需要を着実に取り込んでいく構え。同時に、「産業系のIoTと通信系の5Gの人材をうまく連携させることで、CTCならではの強みを発揮していく」と、IoTと5Gを組み合わせたSI需要にも応えていく。
主要SIerの上期業績は増収増益を維持
NTTグループは海外での一体感を強める
好調な受注環境を背景に、主要SIerはおおむね増収増益を維持している。SIerトップのNTTデータは、国際会計基準ベースで連結売上高2兆円を突破。うち海外売上比率がおよそ半分を占める規模まで拡大している。一連のNTTグループの再編では、2019年7月をめどにNTTコミュニケーションズとディメンションデータを再編するかたちで、新しく海外事業会社と国内事業会社を発足。海外事業会社とNTTデータの海外ビジネスをより密に連携することで、海外におけるNTTグループの相乗効果を一段と高めていく。
NRIも今年度(19年3月期)に初の5000億円を超える売り上げ見通しで、豪州のSIerをグループに迎え入れたことで勢いがついている。22年度に向けた長期経営ビジョンで海外売上高を直近の約2倍に相当する1000億円の目標を掲げる。NRIはこれまで利益目標は強く意識してきたが、売上目標を明確に設定することは少なかった。だが、進出先の国や地域で一定の規模感がないと有力案件の受注が難しいことから、海外ビジネスについては規模の追求を優先順位の上位に位置付けている。
キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は、全体で見ると上期は減収減益の決算だが、主にコンシューマー事業が伸び悩んだ。だが、キヤノンITソリューションズを中核事業会社とする企業向けITソリューションが伸びたことなどで、同社エンタープライズ事業は増収増益。キヤノンMJグループ全体の企業向けITソリューションは今年度(18年12月期)売上高は前年度比6.6%増の1960億円の見込み。20年度には2370億円、将来的には年商3000億円規模に拡大することで、上位SIerとしての存在感を一層高めていく。
主要SIerの上期決算は、引き続き好調だ。ほぼ全業種にわたってIT需要は拡大。AIやIoTといった新しいタイプのIT需要の高まりに引っ張られるかたちで、既存の基幹系システムの刷新需要も出てきている。通信キャリア向けビジネスに強いSIerは第5世代移動通信システム(5G)とIoTを連携させて新しいSIニーズに応える取り組みを加速。大手を中心にグローバル進出も活発化している。一方、中堅・中小SIerでの人員確保が困難を極めており、情報サービス業界全体が成長していく上での“大きな阻害要因”になる危うさも見え隠れする。(取材・文/安藤章司)
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