NPシステム開発
デジタコのノウハウを農業に転用、“地元への恩返し”という側面も
新たなビジネスの柱
運輸業でトラックなどに搭載するデジタル式運行記録計(デジタコ)やその管理システムの全国的な有力ベンダーであるNPシステム開発も、松山市で創業し、現在も本拠を置くベンダーだ。同社はデジタコ関連ビジネスのノウハウを転用し、農業IoTソリューションを新たなビジネスの柱に育てようとしている。
小松周平・IoT事業部営業部長は、「創業者の小田(勝也社長)のトップダウンで、農業IoTに挑戦することが決まった。これまで当社は全国の市場でビジネスをやってきたが、愛媛県はみかん農家をはじめとして農業が盛んな土地であり、地元への恩返しという意味も込めて新事業を立ち上げようという意図があった。農業IoTのシステムのベースはデジタコ関連のソリューションを転用している」と説明する。
一気通貫型のスタイルが強み
同社はデジタコ関連ビジネスにおいて、車載のハードウェアから運行管理システム、車両の動態管理システムなどまで一貫して自社で製造・開発・保守を行ってきた。農業IoTでもこのスタイルは継続し、最大五つのセンサーを同時接続できるIoTセンサーノードの「i-Node」や、i-Node以外にも多様なセンサーノードのデータを集約してクラウドサーバーに中継する「i-Gateway」といったハードを提供しつつ、データの蓄積や集計、解析、加工、参照、レポートのシステムなどを一気通貫で提供している。小松部長は「農業IoTのような新しいソリューションは、お客様と二人三脚で現場のニーズをいかにスピーディーに機能強化に反映させていくかが重要。その意味で、一気通貫型の当社のビジネススタイルは有効だと考えている。県内のユーザーも徐々に増え始めている」と手応えを語っている。
IoTセンサーノードの「i-Node」やIoTゲートウェイ「i-Gateway」といった
ハードも自社で開発・製造している
松山市の地場市場の課題、保守的?なユーザーをどう切り崩すか
愛媛県、松山市の地場企業や地方自治体のIT活用を促進するためのイベントとして、「えひめITフェア」が8月30日、31日の2日間にわたって松山市内で開かれた。展示・セミナーを核に、2000年から毎年、愛媛県や松山市、地元IT業界団体などが連携して開催してきたイベントだ。今年は9月1日、2日にG20の労働雇用大臣会合が松山市で開かれたため、これに合わせてその関連イベントである「えひめ未来のしごと博」と合同開催のかたちを採った。事務局の愛媛県G20労働雇用大臣会合推進室の重松圭介・担当係長は、「例年のようなICTの切り口だけでなく、先進のテクノロジーが仕事をどんなかたちに変えていくのかという観点での展示やセミナーも多数用意したことで、来場者への訴求力は強まったと感じている」と手応えを語った。
愛媛県 重松圭介担当係長
ただし、本来の趣旨である地場企業・自治体のIT活用促進という目的を達成できているかは疑問が残る。本特集で登場したアイサイト、ウイン、NPシステム開発はいずれもえひめITフェアに出展しているが、このほかに地元松山市に本拠を置くベンダーで同イベントに出典した企業数は片手で数えても余るほど。出展している地元ベンダーは、独自商材を持ち全国にビジネスを展開しているベンダーにほぼ限られていたというのが実情だ。
アイサイトの仙波代表取締役は、地場市場への期待感がそれほど大きくないという実感を隠さない。「地元のユーザー企業は、働き方改革やAI、IoT、5Gといったトレンドのキーワードに興味がないわけではない。しかし、保守的な市場であることは間違いなく、先進技術を活用したソリューションを実際に導入するというところまで到達するユーザーは非常に限られている」。
こうした声は、仙波代表取締役に限らず、多くの出展ベンダーから共通して聞かれた。一方で、ある出展者からは、「愛媛県内はITベンダーも受託開発系のSIerが多く、先進技術を活用した画期的なパッケージなどを、ユーザーの課題を踏まえて有効に提案できるチャネルが十分に整っていないのも確か」だと指摘。地場の中小企業にフィットするパッケージ製品の有効活用と、ユーザー企業の業務課題をしっかり捉えた提案ができるベンダーが増えると、松山市や愛媛県内のIT市場も変わるのではないかと期待を寄せる。アイサイトの仙波代表取締役も、「愛媛では年商100億円を超えれば大企業と言っていい。こうした企業への提案ではパッケージをいかにうまく使うかがカギになる」と話す。
G20労働雇用大臣会合の関連イベント「えひめ未来のしごと博」と併催した「えひめITフェア」
パッケージ活用で地場市場開拓
コンピューターマネージメント、SAP Business ByDesignを核にソリューション構築
大阪市に本社を置くSIerのコンピューターマネージメントも「えひめITフェア」に出展したベンダーの1社だ。同社は東京、仙台にも拠点を構えているが、地の利がある西日本をよりきめ細かくカバーしており、松山市内にも四国営業所を置いている。常深雅稔・取締役兼執行役員は、「これまで地方市場ではSESや受託開発が中心だったが、パッケージを中心としたプライム案件の開拓を進める一環で、四国営業所への投資を拡大している。だから、えひめITフェアへにも出展した」と話す。
常深雅稔取締役
同社が地方市場開拓の核に据えるのが、SAPの中堅中小企業向けクラウドERP「SAP Business ByDesign」だ。現状、西日本の同製品案件は同社がほぼ一手に引き受けている状況だという。また、Business ByDesignと同社の自社ソリューション、サードパーティーのRPAソフトなどを組み合わせてユーザー企業の業務改革を実現する「CMK GROWTH」というパッケージソリューションを構築し、これがSAPのパートナーソリューション認定である「SAP Qualified」を取得した。SAP Qualifiedは、短納期で導入可能な高品質なソリューションに限られた認定であり、常深取締役は、「まずはCMK GROWTHで愛媛県を含む全国の中堅・中小企業の業務改革を支援し、プライム案件と利益率の高いビジネスの拡大を目指す」と意気込む。