販路拡大の動きも活発化
遠隔会議システムのベンダーは、ニーズの高まりに合わせて他ベンダーとのパートナーシップや販路の拡充にも力を入れている。シスコシステムズは18年10月にソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズとの提携を発表。ソニー製のカメラを採用したビデオ会議ソリューション「Cisco Webex Room Kit Plus PTZ」の提供を開始した。同時にソニー製のビデオ会議ソリューションを提供していたソニービジネスソリューションを新たなマスターリセラーパートナーとして認定し、販路を広げている。もともと自社で通信設備などを提供してきた同社としては「通信やセキュリティまで含めたリモートカンファレンスに関連するソリューションをわれわれ単体で提供できることは、ユーザーやパートナーから見たとき、サポートなどの面で他社にない大きなメリットになる」(石黒業務執行役員)とするものの、裾野が広がりつつある市場に対してパートナーによる新たな付加価値を訴求していきたい考えだ。
一方、ブイキューブは19年8月、遠隔会議システムの黎明期からソリューションを提供してきたNTTテクノクロスとの提携を発表。その第一弾として両者が持つコミュニケーション関連ソリューションをお互いの顧客に対して提供していくことを明らかにした。間下社長は「老舗であるNTTテクノクロスの深いノウハウは当社にとって大きな価値となる」と語る。
19年7月にオフィスを増強し、日本国内での本格的な活動を開始したZVC JAPANは、日本の商慣習に対応するため6社と販売パートナー契約を結んだ。佐賀カントリーゼネラルマネージャーは「自社内にシステムを検討するリソースを持たないユーザー企業も少なくないが、そうしたユーザーは付き合いの深い販社に相談することが多い。日本のユーザーが求める形で売っていきたい」と意気込む。
パートナーには定着支援も求められる
ニーズの高まりとともに、使いやすさや通信品質に対しての要求もシビアになっている遠隔会議システムでは、他の多くのビジネス向けソリューション以上に「実際に使ってみないとその品質やメリットが伝わらない」という課題がある。ZVC JAPANの販売パートナーの一社であるCTCエスピーは、「サービスを導入したものの使い続けられずに塩漬けになってしまうケースがある。PoCを乗り越えてスケールしてもらうことが必要。当社は品質の高いサポートサービスを絶対的な強みとしてユーザーを支えている」(渡辺裕介・ソリューション推進第1部部長)という。
同社がZVC JAPANの米国本社とのリレーションを開始したのは、18年2月。以来、担当営業内での活用から始め、ノウハウを蓄えていった。19年6月から本格的な外販サービスを開始し、大企業を中心に数十社に提案、PoCを進めている。自社でしっかりと使い倒しているからこそ、そのサービスが持つメリットを具体的な形で伝えることができるのだという。
左からCTCエスピー 片岡幸嗣課長、同じく渡辺裕介部長
また、遠隔会議システムを提案すると、関連製品・サービスの導入も検討するユーザーが増えてきたという。片岡幸嗣・同ワークスタイル改革推進課課長は「以前からビデオ会議システムを使っていた会社がマイグレーションする場合、周辺機器を一気に取り換えるケースがある。また、Zoomに関しては高い連携性能もメリットの一つになるため、当社が扱っている他のSaaSと合わせて検討する企業も多い」と語る。オンラインコンテンツ共有サービスのBoxや名刺管理のSansanなどはその代表だという。「ワークスタイル変革というとその言葉がさす範囲は非常に広い。遠隔会議サービスを起点にビジネスを変えようとしている企業のニーズを拾うことで新たなビジネスチャンスを見つけられる」と片岡課長は強調する。
今後の方向性として片岡課長は、「遠隔会議システムはまだまだ市場が成長段階にあるので、本来は競合である遠隔会議システムの販売代理店とノウハウを共有するような場づくりも進めていきたい。エンドユーザー層を増やすきっかけになる」と語る。
イマドキのハード1
PC・周辺機器込みのパッケージが登場
遠隔会議の導入にあたっては、サービス事業者各社が提供するアプリケーションだけでなく、カメラやマイク、モニターといったハードウェアも当然必要だが、質の高いサービスを導入したとしても、周辺機器の品質が悪いと、会議システムの価値が削がれることになってしまう。
ロジクールはコンシューマー向けハードウェアのイメージが強いメーカーだが、PC周辺機器の法人向け販売も行っており、遠隔会議に関連した製品を法人事業の柱の一つに位置付けている。同社では、国内企業の会議室のうち、遠隔会議用の機器が設置されている会議室は全体の5%未満にとどまるとみており、市場の伸びしろは大きいと判断。実際に、会議用カメラの販売は順調に成長しており、全社的に投資を強めていく方針だ。
同社が今年7月18日に発表した新製品が「Tapルームソリューション」。あらかじめリモート会議アプリケ―ションをプリインストールしてある専用PCに、会議に適した品質のカメラ、マイク、コントローラーが付属したパッケージ型のソリューションだ。会議室にPCを設置し、アプリケーションをインストールするといった初期設定を簡略化できる。会議サービスは「Google Hangouts Meet」、「Microsoft Teams Rooms」、「Zoom Rooms」の3種類に対応しており、会議室の広さに応じて小・中・大規模用を用意した。ユーザーは使いたいサービスと自分のオフィスの大きさを選択するだけでよく、SI作業なしで導入後すぐにリモート会議を始められる。
機器選定・検証の手間に加え、設定作業も簡略化することによって、これまで二の足を踏んでいた層を取り込んでいきたい考えだ。
イマドキのハード2
会議参加者のやる気を促す
参加者が多い会議では、どうしても発言をしない、居眠りしてしまうなど、会議に対して消極的な社員が発生してしまう。対面以上にスムーズなコミュニケーションが取れない遠隔会議では、消極的なメンバーが発生する可能性はさらに上がってきてしまう。限りある時間の中でよりよい成果を生み出すためにも、参加者にはどうにかやる気を出してもらいたいというのが会議主催者の本音だろう。
GNオーディオジャパンの安藤靖社長は、遠隔会議で積極的にコミュニケーションに参加しようとしなくなる要因を、「カメラに映らないこと」だと指摘する。カメラが撮影できる範囲に限界がある以上、人数が多くなったときに死角に入ってしまう社員がどうしても出てきてしまう。そうなってしまうと存在感が薄れてしまい、発言もしなくなるのだという。
そこで同社は9月20日、180度という広い視野を確保できるリモート会議用カメラ「Jabra PanaCast」の販売を開始した。主に10人以下のハドルミーティングと呼ばれる小規模な会議での活用をターゲットとしている。
三つのカメラが特徴的なJabra PanaCast。
内蔵する専用チップで映像を合成し180度の視野を確保する
手のひらサイズに収まる小さなボディーに3台の13メガピクセルカメラを内蔵、それぞれのカメラで撮った映像を「PanaCast Vision Processor」という独自技術によりリアルタイムに合成、180度の視野を確保した。AIによる自動スケール機能が搭載されているため、少人数の会議では表示画面を自動で小さくしてくれる。また、特殊な機能としてはホワイトボード認識機能があり、カメラが捉えたホワイトボード上の文字を特別な枠を作り見やすい形で表示してくれる。メジャーな遠隔会議システムにはおおむね対応しているほか、Slackなどとも連携できる。
安藤社長は「これまで大きく変化しなかったカメラのアーキテクチャーをアップデートすることができた。目標販売数は1年で2000台」と意気込む。拡販に向けては、教育分野などの領域でのパートナーを拡充していく方針だという。