ティファナ・ドットコム
人手不足をサポート「AIさくらさん」、スタッフの代わりに多言語対応
JR東日本は「案内AIみんなで育てようプロジェクト」と題した共同実証実験を、18年12月7日から19年3月15日を「フェーズ1」、19年8月5日から11月10日を「フェーズ2」として実施した。駅構内や商業施設内に参加企業のロボットやサイネージを設置し、それぞれのシステムに搭載されたAIが利用者からの問い合わせに回答・案内する。特にフェーズ2ではフェーズ1での課題を受けて、4カ国語への対応を基本設定とすることで、外国人訪日客への対応の有効性を検証。また、乗換案内や飲食店情報などの情報を扱う外部サービスと連携し、利用者が満足するような案内ができるかを確かめた。
JR東日本の実証実験「案内AIみんなで育てようプロジェクト(フェーズ2)」で品川駅に設置した
AIさくらさん。観光客を案内する(写真提供:ティファナ・ドットコム)
この実証実験の両フェーズに参加したティファナ・ドットコムは、AIを活用した接客システム「AIさくらさん」を搭載したデジタルサイネージを、フェーズ2において東京駅・品川駅に各5台ずつ設置した。AIさくらさんに話しかけたり画面をタップすることで質問でき、それに対してAIさくらさんが回答してくれる。この実証実験では8カ国語に対応し、日本人や外国人観光客に切符の買い方や駅構内の設備、おすすめの観光スポットなどの情報を「人(駅員)に代わって案内」(ティファナ・ドットコム AI戦略室の淺井絵美子氏)した。また、自己学習機能や自然言語処理を活用し、利用者の言葉の揺らぎや言い回しなどを学習して回答を最適化する。このような形で駅員の外国人観光客を含む駅利用者への対応や業務の効率化を支援したという。
2020年に向けて引き合いが増加
AIさくらさんは、もともとウェブ制作会社である同社が企業サイト制作を手掛ける中で、「サイト上での問い合わせなどをAIでカバーし、人手不足などの課題を解決していく」(淺井氏)ことを目指して生まれたもので、そのためヘルプデスクや問い合わせ対応などで多く利用されており、これまでに約300社の導入実績がある。
AI戦略室・淺井絵美子氏
AIさくらさんは外国人も集まるイベントや商業施設などでも利用実績があり、また、来年春開業予定の「高輪ゲートウェイ駅」でも試行導入されることが決まっている。淺井氏によると、多言語対応が可能なことからインバウンド対策に活用しようと、「今年1年は以前に比べても問い合わせは多い」という。特に20年に向けたインバウンド対策としての需要を感じているといい、「ブラウザー上で動くため、インターネットにアクセスできる環境であればどこでも使える。人手不足や多言語対応の課題は地方にもニーズがあり、地方からの問い合わせも増えている」と話す。
Payke
多言語の商品説明で販売機会を逃さない、小売店・メーカーのインバウンド対策を支援
土産物などを求めて多くの外国人が訪れる小売店で、外国語での商品説明など「正しいセールスができないことが機会損失につながっている」と指摘するのは、Paykeの古田奎輔代表取締役CEO。同社ではそうした課題を解決するインバウンド支援ソリューションとして、主に四つのサービスを展開している。
一つが、スマートフォンアプリの「Payke」。アプリから商品のバーコードを読み取ることで、ユーザーの母語で商品情報を見ることができる。言語は英語、中国語(繁体字・簡体字)、韓国語、ベトナム語、タイ語、日本語に対応。商品情報はメーカーが登録画面からテキストや画像、動画を用いて登録・編集できる。古田氏によると現在までに、食品や化粧品、医薬品、日用雑貨など「35万点以上の商品情報が登録され、400万人の訪日外国人ユーザーがいる」という。
二つめが、小売店を対象とした店舗に設置するタブレット端末の提供。訪日客がスマホアプリをもっていなくても、タブレット端末に商品のバーコードをかざすことで商品情報を閲覧できる。
三つめが、同社が保有する商品情報やPaykeユーザーの属性情報や利用情報などインバウンドデータの分析。
四つめが顧客のデータ分析を支援するプロモーション戦略、マーケティング戦略コンサルティングだ。データは主にメーカーや小売店が、外国人客の消費動向や競合商品・店舗などを分析するために利用するという。
「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」全ての領域をカバー
小売業の中ではドラッグストアやディスカウントストア、家電量販店、土産物店などでPaykeが導入されている。古田氏によると、一番の導入理由は、「機会ロスを減らすため」という。「基本的に外国人観光客は財布のひもがゆるく、商品のストーリーや買うべき理由を説明することができれば買ってもらえるのにセールスができておらず、潜在的な機会損失になっている。売れるチャンスをつかみきれていないことがいまの小売店の課題」だと指摘する。また、外国語を話せる人材の不足に対しても多言語での商品説明を機械が担うことで、「省人化・効率化できる」と話す。
古田奎輔代表取締役CEO
同社では今後、旅マエから旅アトまで一連のマーケティングのサポートにも力を入れていく方針。「これまでは日本に訪れたユーザーの買い物を助ける旅ナカに事業のコアを置いていたが、今では、日本に来る前に商品を認知し買い物リストに入れてもらったり、帰国後も商品やメーカーのファンになってもらったりというように、旅マエと旅アトの領域にも事業を広げている」と古田氏は話す。
また、海外展開も視野に入れる。「言葉が伝わらないという課題は日本だけではない」と話し、世界でも同様のサービスを展開したいとしている。
イー・ビジネス
MAU11億人の「WeChat」で中国人観光客を取り込む
18年に3119万人を記録した訪日外国人。国別で最も多いのは中国で、日本政府観光局(JNTO)によると、同年に日本を訪れた中国人観光客の数は前年比13.9%増の838万人で、全体の4分の1を占める。また、観光庁が今年発表した「訪日外国人消費動向調査」によると、18年の訪日外国人旅行消費総額4兆5189億円のうち、中国人は1兆5450億円と全体の34.2%に達した。数年前に見られた中国人観光客による「爆買い」は沈静化し、訪日外国人1人当たりの旅行支出でみると、18年はオーストラリア、スペインに次ぐ3位ではあるが、依然として日本の観光産業における中国の影響力は大きい。インバウンド需要のさらなる拡大には、中国人観光客をいかに取り込むかが、カギの一つとなるだろう。
こうした中国人観光客にフォーカスしてビジネスを展開するのがイー・ビジネス。11月25日、宿泊事業者向け接客・集客支援サービス「QRHOTEL」の提供を開始した。
11月25日に「QRHOTEL」発表会を開催。イー・ビジネスの花東江社長(左)と東京海上火災保険の
豊田恒雄・名古屋営業第2部長
イー・ビジネスは07年設立のSIerで、中国人スタッフが多いのが特徴。主力事業としてシステムの受託開発やエンジニアリングサービスなどITソリューション事業を手掛ける。約2年前からは、AIソリューション事業やインバウンドソリューション事業に力を入れており、中国・テンセントとパートナーシップを結び、同社の製品・技術を活用したサービスを展開。テンセントが今年7月に国内クラウド事業への参入を発表した際にもパートナーとして名を連ねており、花東江社長によるとテンセントからは「テンセントの文化や日本の商慣習を理解していること、対応の柔軟性が評価・期待されている」という。
新たなインバウンドソリューションとして発表したQRHOTELは、テンセントのSNS「WeChat」上でサービスを提供できる「ミニプログラム」を活用したサービス。QRコードを読み込むことで利用できる。パスワードを入力することなくワンクリックで館内Wi-Fiに接続できる機能や、中国語と日本語の会話を音声で自動通訳する機能、施設や周辺スポット、交通案内などの情報を提供する機能などがあり、宿泊施設のスタッフの接客対応の支援・時間削減を図ることが可能。また、オプション機能として、館内ECや宿泊予約なども提供し、集客や客単価向上を図ることもできる。
東京海上日動の保険を付帯、レピュテーションリスクに備える
このサービスのポイントは、月間アクティブユーザーが11億人という巨大なプラットフォームであるWeChat上で提供することだ。花社長は「中国人観光客の需要をつかむには、中国のユニークな習慣に合わせないといけない。中国人が普段使いするWeChatを活用することで、頻度高くサービスを利用してもらえる」と説明。11月の正式版リリースに先立って、7月からベータ版を提供し、約20施設で3カ月間の試験運用を実施。「平均滞在2日間の中で、半分ほどの顧客が利用し、いい反応をいただけた」話す。
花 東江社長
また、QRHOTELでは管理画面からユーザーの属性や行動などのデータ分析も可能。宿泊事業者の「サービスの向上やマーケティング、経営改善などに活用できる」と花社長は話す。
さらに、QRHOTELの提供に当たり、東京海上日動火災保険の「レピュテーション費用保険」を付帯した。SNSでの炎上などレピュテーションリスクへの対策によって生じる費用について、50万円を限度に補償する。
東京海上火災保険の豊田恒雄・名古屋営業第2部長は「万が一、炎上が発生したら、コンサルティング会社などへの相談費用や初期対応費用を支払う。保険があることで、迅速に対応する事業者増える。安心して観光客を集客できるツールになると考えている」と説明する。
QRHOTELの利用料金は1部屋当たり月額100円。イー・ビジネスでは20年7月までに1000施設10万室への導入を目指す。