SMB向け基幹業務ソフト編進むサブスクリプション型 ビジネスへのシフト 老舗ベンダーと新興クラウド会計が本格的に激突?
SMB向け基幹業務ソフトの市場は、OBCやPCA、応研、OSKといった老舗ベンダーが鎬を削る市場だ。この市場でも近年、大きな変化が起こっており、2020年はそれがさらに加速する可能性が高い。事務機メーカー系販売店や全国の中堅中小SIerなどによるリセールで成長してきた市場だが、クラウド化に伴うサブスクリプション型ビジネスの浸透で、パートナーのビジネスの在り方も着実に変わりつつある。(本多和幸)
フルラインアップ
になった奉行クラウド
オービックビジネスコンサルタント(OBC)は2018年2月、主力であるSMB向け基幹業務ソフトである「奉行i」を全面SaaS化し、「奉行クラウド」シリーズとして販売していく方針を打ち出した。財務会計、給与計算をまずは正式にリリースし、既存の奉行iシリーズの商材を順次クラウド化。19年10月にフルラインアップが出揃った。これに伴い、APIライブラリーを拡充し、奉行クラウドシリーズの主要な伝票の書き込みと参照のAPIも公開した。
さらに、パートナー向けの施策として、ライセンス販売によるフロー型(保守契約で細々とストック型のビジネスが付帯することはあるが)のビジネスから、奉行クラウドによるサブスクリプションビジネスへの本格的な移行を支援する姿勢も見せ始めている。
OBCは奉行クラウドに先立ち、15年から、マイナンバー収集・管理やストレスチェックへの対応など従来の基幹業務システム以外の領域をカバーする独自のSaaS商材(現在の「奉行クラウドEdge」)をラインアップしてきた。これらを含めた同社のクラウドサービスの解約率は平均5%である一方、約20%の顧客はサービスの追加利用やライセンスの追加、プランのアップグレードなどを行い、アップセルやクロスセルが成立しているという。同社はこうした情報をパートナーに公開し、「サブスクリプションビジネスには成長を前提とした強力なビジネスロジックがある」とアピールする。「5%の解約は20%への顧客へのクロスセルやアップセルで十分に吸収できるし、新規の顧客を獲得すればするだけ売り上げはそこに新たに積み上がっていく形になる。多くのパートナーにとって安定した成長の基盤になり得る」(同社)。
具体的なパートナー支援策としては、カスタマーサクセス事例を共有し、「奉行クラウド導入の成功体験を提案ツールとして活用できるようにする」(同社の和田成史社長)ほか、オンラインでのデモや商談、顧客へのオンラインでのサポート・指導を行うための体制づくりに関する教育などを行う。パートナーと顧客の長期にわたる関係構築や、その先のカスタマーサクセスの実現に向けて、基盤となる仕組みづくりを多くのパートナーに波及させたい考えだ。
OBC 和田成史
社長
OBCの和田成史社長は、「SMB向け基幹業務ソフトのユーザーも本格的にクラウドに向かい始めたのが2019年だった。それに伴いパートナーもマーケットの変化を肌で感じ、次のビジネス展開を考え始めたという実感がある」と話す。さらに、「クラウドの大きなメリットは、『つながる・広がる世界』をより簡単に実現して業務の自動化を推進できることであり、多くのサードパーティーベンダーとのAPI連携はすでに実現しているし、APIライブラリーの拡充でより幅広いパートナーが奉行クラウドに自分たちの付加価値を乗せやすくなった」ともコメント。パートナーがクラウドのサブスクリプションビジネスに移行する環境を包括的に整えてきたことを強調する。20年はこうした取り組みの認知度をさらに向上させるべく力を注ぐ。
PCAはパッケージ提供も
サブスクリプション型に
一方、同市場の有力ベンダーで、いち早くクラウドシフトを進めたピー・シー・エー(PCA)は、さらに一歩進んだサブスクリプションビジネスの展開を見せている。2020年4月から、オンプレミスのパッケージソフトも、サブスクリプション型で提供する選択肢を用意する。
同社が主力のSMB向け基幹業務ソフトをSaaS化したのは2008年のことだが、競合ベンダーに先駆けて、サードパーティーベンダーとのAPI連携なども進めてきた経緯がある。パッケージ版のサブスクリプションモデルもラインアップすることで、クラウド、オンプレミスを問わず抜本的にビジネスモデルを変革し、「パートナーのみなさんと一緒に、顧客の課題解決に真に貢献できるサービスを継続的に利用してもらうことで安定した成長が実現できるビジネスを共創していきたい」(佐藤文昭社長)としている。
PCA 佐藤文昭
社長
サブスクリプションモデルでは、従来のパッケージ版と比べ、自動アップデート機能を強化。さらに、ユーザーの利用状況のログ収集機能を付加したり、ユーザーの各種情報をPCAとユーザーが共有するための管理ポータル機能を用意するなど、カスタマーサクセスを重視した取り組みを進める。
ユーザーは完全にクラウドを向き始め、市場が変わりつつあるというのはPCAもOBCと同様の認識だ。ドラスティックな変革に向けた打ち手を、パートナー側がどう受け止めるのか、20年の市場の注目ポイントだ。
上場したfreeeは
新たなパートナー施策を予定
19年12月には、新興クラウド会計ソフトベンダーのfreeeが東証マザーズに上場した。17年に同じく東証マザーズに上場したマネーフォワードと同様に、スモールビジネス向けの基幹業務ソフト市場で弥生に挑んできた同社は、中堅・中小企業向けのビジネス拡大にも注力する方針を示している。弥生の岡本浩一郎社長は、「段々とわれわれの競合ではなくなってきているという感覚はある」とコメントしている。
freee 佐々木大輔
CEO
関係者によれば、これまでOBCやPCAなどとfreeeが真っ向勝負する場面は実際の営業の現場ではそれほど多くなかったという。しかしfreeeの佐々木大輔CEOは週刊BCNの取材に対して、これまで法人向けIT商材の顧客接点を担ってきたメインプレイヤーとも言えるSIerやIT商社などとの協業を拡大すべく、新たなパートナープログラムを近く発表する意向を明らかにした。いよいよSMB向け基幹業務ソフトの既存有力プレイヤーと正面からぶつかることになるのかも注視したい。