Special Feature
「デジタル・アダプション」でDXを支援 新たなビジネスとして広がりに期待
2022/11/03 09:05
週刊BCN 2022年10月31日vol.1944掲載
多くの企業が目指すDXを実現する上で、ITをしっかりと使いこなすことが必須の状況になっている。しかし、企業の間では、導入した製品やサービスを思うように扱えず、成果につなげられないケースが発生している。製品やサービスの定着化が課題として浮上する中、それを支援する「デジタル・アダプション」の考え方が注目されている。デジタル・アダプション・プラットフォームを提供する主要ベンダーは着実にニーズの取り込みを進めており、新たなビジネスとして広がっていくことが期待されている。
(取材・文/齋藤秀平)
特に柔軟な働き方を後押しするWeb会議ツールやチャットツールなどのSaaSは急速に普及した。ITビジネスでは、商談を進める際、DXが非常に有効なキーワードになり、クラウドサービスを中心に他の製品やサービスの導入も広がっている。
実際、企業のIT投資はおおむね堅調に推移している。調査会社富士キメラ総研の調査結果「業種別IT投資/デジタルソリューション市場 2022年版」によると、22年度の国内企業のIT投資額は、前年度比4.6%増の20兆1972億円となる見込み。DXの浸透とともに、新規事業開発に向けたバリューアップ投資が活発化し、26年度は同比21.7%増の23兆5131億円になる見通しだ。
ただ、製品やサービスを導入したからといって、一足飛びにDXは実現できない状況がある。情報処理推進機構が20年5月に発表した「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」では、DXに積極的な従業員1001人以上の企業(290社が調査対象)のうち、「業務効率化による生産性向上」について38.3%の企業が「成果あり」と回答した。一方、「既存製品・サービスの高付加価値化」で成果ありとした企業は17.6%、「新規製品・サービスの創出」では14.5%となった。
このような状況を踏まえ、企業は、DXを実現するための対応策の一つとして、新たに導入した製品やサービスの定着化に着目し、デジタル・アダプション・プラットフォームを採用する動きが増えているとみていいだろう。
調査会社アイ・ティ・アール(ITR)は、デジタル・アダプション・プラットフォームについて「新たに活用を開始したビジネスアプリケーションや、Webシステムなどの利用の定着を支援する製品・サービス」と定義し、「ユーザー視点では生産性の向上やヘルプデスク業務の削減などを、ベンダー視点では利用ユーザーやシステムの拡大、利用定着率の向上などを期待できる製品・サービスとしてデジタル・アダプションプラットフォームが注目されている」と説明する。
さらにITRの水野慎也・シニア・アナリストは「デジタル・アダプション・プラットフォームは、導入済みアプリケーションの既存機能に影響を与えることなくアドオンが可能であり、ユーザーの利便性を高め、定着化を促進するツールとして注目されている」と付け加える。
ITRの「ITR Market View:デジタル・アダプション市場2021」では、19年の市場規模は1億円だったが、20年は4億円になった。21年度は12億円、22年度は20億円と引き続き拡大し、25年度は20年度の10倍となる40億円に達すると予測している(下図参照)。
盛り上がりつつある市場の中で、各ベンダーは、他社との違いをどのように出し、ビジネスを進めているのか。ここからはWalkMeの日本法人とPendo.io Japan(ペンド・ジャパン)、テックタッチの3社について見ていこう。
WalkMe日本法人
WalkMeは、イスラエルで創業し、現在は同国と米国の2本社体制を敷く。主に北米を中心にビジネスを展開しており、日本法人は19年に東京に設立した。デジタル・アダプションに注目が集まる前からソリューションを提供しており、日本法人第一営業本部の中川哲・ディレクターは「この領域でのパイオニアというポジションだ」と自負する。
WalkMe日本法人 中川 哲 ディレクター
グローバルの導入実績は2000社超となっている。国内では、同社の製品「WalkMe」のイメージをしっかりとつかんでもらうことに注力。徐々に認知が拡大し、今では従業員数数千人から数万人規模の大企業を中心に、約80社が導入している。
製品では、正しい操作方法を指示するガイダンス機能や入力されたデータの正誤や抜け漏れをチェックする機能、ユーザーの振る舞いを分析する機能などを提供する。ブラウザー上に表示されるHTMLコードを認識するため、WebのUIであれば、SaaSでも、カスタムメイドの製品でも対応可能だ。開発や導入、運用の各業務に適用することで、高いレベルで品質を維持でき、全社のDXにつなげられるという。
特徴的な機能としては、事前にセットした操作を自動化するオートメーション機能がある。中川ディレクターは「本来、ユーザーが行うクリック操作やデータの転記などは、事前にセットしておけば自動化でき、サービスをまたいだ利用も可能だ」と説明し、「例えば、数クリックが必要な操作でも、1クリックで対象のページに飛ぶことが可能で、そこでは既にデータが転記されている状態になっている」と補足する。
コロナ禍の影響で、企業は以前のように全国各地で導入研修などを開催することが難しくなった。直接、会わなくても定着化をサポートしたいとのニーズが増え、製品の活用を始める企業が多くなった。中川ディレクターは「ビジネスは拡張フェーズの段階にあり、今年の業績は昨年に比べて80%増の水準での着地が見えている」と胸を張る。
販売は、案件紹介でパートナーの力を借りており、契約はほぼ日本法人が管轄している。現在は大企業を主なターゲットとしているが、導入が先行している北米では、中堅・中小企業の領域に展開している。国内でも、数年後には同じ状況になる可能性があるとみており、パートナービジネスについて検討を進める考えだ。ペンド・ジャパン
ペンド・ジャパンは昨年10月、マクニカの社内カンパニーであるネットワークス カンパニーと国内初の一次販売代理店契約の締結を発表し、ビジネスを拡大している。ペンド・ジャパンの高山清光・カントリーマネージャー日本法人代表は「パートナーシップの広がりによって、ユーザー数が増えている」と手応えを感じている。
ペンド・ジャパン 高山清光 カントリーマネージャー 日本法人代表
同社の製品「Pendo」では、分析やガイダンス、アンケートなどの機能が利用できる。アプリの分析から事業が始まったことに加え、「ソフトウェア体験を劇的によくする」(高山カントリーマネージャー)というミッションを掲げていることから、分析に関しては競合優位性があるという。
高山カントリーマネージャーは「よく使われている機能や使われていない機能について、いかに生産性やユーザーの行動にひも付けてリポートを出せるかという部分に特化している」とし、「ソフトウェアの機能ごとの見える化ができるため、次の開発計画の段階で不要な機能を減らすことにもつなげられる」と紹介する。
グローバルでは、これまでに2500社以上が導入している。国内の導入社数は非公開だが、順調に推移しているといい、高山カントリーマネージャーは「新しいツールがどんどん使われている中、生産性の向上を目指すだけでなく、普段、利用しているツールの操作状況から社員の幸福感を把握するといったニーズも出ている」と語る。
米国本社は昨年3月、ペンド・ジャパンの開設と国内市場への進出を発表した。早い段階からパートナービジネスに注力している理由について、高山カントリーマネージャーは「社内にエンジニアがいて、内製化が多い米国と比べると、日本はSIerの存在が重要になるため、パートナーとビジネスを進めるほうが成長を実現する上で効果的だと判断した」と説明する。
マクニカは、取り扱う別の商材と組み合わせた活用を提案するなどして販売を進めている。ネットワークス カンパニー第4営業統括部の米満慎悟・第2営業部長は「一つの製品で活用してもらえば、活用の効果がイメージしやすくなる」とし、顧客の活用状況について「別の製品や社内のポータルサイトで活用する事例が出始めている。また、ソフトウェアの利用率向上に加え、社内のセキュリティポリシーに合致したかたちで安全にソフトウェアを使うために活用する事例も出ている」と話す。
マクニカ ネットワークス カンパニー 米満慎悟 第2営業部長
両社は、販売パートナー計20社の獲得を当面の目標に掲げる。パートナーの開拓に際しては、製品や中堅・中小企業などの領域に特化したSIerなどと戦略的に連携していく考えで、米満第2営業部長は「パートナーに製品の魅力やメリットを理解してもらい、顧客に展開できる体制をまずはつくり、両社でタッグを組んでパートナーや顧客をサポートしていく」と意気込む。テックタッチ
国産ベンダーのテックタッチは、デジタル・アダプションの機能を提供することに加え、ユーザーの実装を後押しするコンサルティングサービスに力を入れている。井無田仲代表取締役は、各社の製品の機能差はなくなりつつあると認識しており、製品以外の付加価値を強みに顧客の獲得を進めている。
同社は18年に設立し、Webシステム画面上でナビゲーションを作成・表示できる製品「テックタッチ」を提供している。
井無田代表取締役は「ナビゲーションをつけられる機能に加え、ユーザーがどういう使い方をしているかを分析できる機能もある。導入してもらえば、全社横断的にシステムを可視化し、利用状況を基に最適なアクションにつなげることができる」と説明する。
テックタッチ 井無田 仲 代表取締役
他社も似たような機能を提供する中、井無田代表取締役は「デジタル・アダプションの製品やツールは、自由度が高く、何でもつくれることは特徴だが、課題の抽出などが必要で、実装にたどり着くまでに時間がかかるケースがある」と指摘する。実装時間の課題を解決するため、コンサルティングサービスを立ち上げたところ、これが他社と比較した場合の「一番の優位性」になっているという。
サービスは、コンサルティング会社の出身者ら約10人でつくる専門のチームが対応する。顧客へのヒアリングやKPIの設定、アドバイスなどを実施し、しっかりと実装まで伴走できるようになっている。
製品は、直接販売と間接販売の両方で展開。直近の1、2年は、従業員数3000人以上の大企業を主なターゲットに設定している。導入社数は「百数十社」(井無田代表取締役)で、製品やサービスの質のほか、国産製品であることの安心感も顧客から評価されているという。
現時点では、直接販売のほうが若干比率は高いが、今後、製品をさらに普及させるためには、間接販売も強化していく必要があるとみている。販売パートナーは現在、大手のSIerなど10社弱となっており、既存のパートナーとの連携をさらに強化しつつ、公共など引き合いが増えている領域でパートナーの獲得を狙う。
国内で導入拡大を目指す一方、海外での展開も見据える。比較的距離が近いアジアや、市場の規模が非常に大きい米国を調査しており、来年にはテストマーケティングを実施し、将来的な進出の可否や進出先について検討する。
井無田代表取締役は「今後、機能の差別化はどんどん難しくなるとみている。定着化の課題は万国共通に近いため、しっかりとした製品であれば、海外でも勝機はあるはずだ」と展望する。
(取材・文/齋藤秀平)

関連の市場は拡大傾向
この約2年半で、企業のデジタル化は大きく進展したといっても過言ではないだろう。コロナ禍に対応するため、多くの企業がテレワークを導入したり、ITを活用してこれまでの業務の進め方を変えたりしてきたからだ。特に柔軟な働き方を後押しするWeb会議ツールやチャットツールなどのSaaSは急速に普及した。ITビジネスでは、商談を進める際、DXが非常に有効なキーワードになり、クラウドサービスを中心に他の製品やサービスの導入も広がっている。
実際、企業のIT投資はおおむね堅調に推移している。調査会社富士キメラ総研の調査結果「業種別IT投資/デジタルソリューション市場 2022年版」によると、22年度の国内企業のIT投資額は、前年度比4.6%増の20兆1972億円となる見込み。DXの浸透とともに、新規事業開発に向けたバリューアップ投資が活発化し、26年度は同比21.7%増の23兆5131億円になる見通しだ。
ただ、製品やサービスを導入したからといって、一足飛びにDXは実現できない状況がある。情報処理推進機構が20年5月に発表した「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」では、DXに積極的な従業員1001人以上の企業(290社が調査対象)のうち、「業務効率化による生産性向上」について38.3%の企業が「成果あり」と回答した。一方、「既存製品・サービスの高付加価値化」で成果ありとした企業は17.6%、「新規製品・サービスの創出」では14.5%となった。
このような状況を踏まえ、企業は、DXを実現するための対応策の一つとして、新たに導入した製品やサービスの定着化に着目し、デジタル・アダプション・プラットフォームを採用する動きが増えているとみていいだろう。
調査会社アイ・ティ・アール(ITR)は、デジタル・アダプション・プラットフォームについて「新たに活用を開始したビジネスアプリケーションや、Webシステムなどの利用の定着を支援する製品・サービス」と定義し、「ユーザー視点では生産性の向上やヘルプデスク業務の削減などを、ベンダー視点では利用ユーザーやシステムの拡大、利用定着率の向上などを期待できる製品・サービスとしてデジタル・アダプションプラットフォームが注目されている」と説明する。
さらにITRの水野慎也・シニア・アナリストは「デジタル・アダプション・プラットフォームは、導入済みアプリケーションの既存機能に影響を与えることなくアドオンが可能であり、ユーザーの利便性を高め、定着化を促進するツールとして注目されている」と付け加える。
ITRの「ITR Market View:デジタル・アダプション市場2021」では、19年の市場規模は1億円だったが、20年は4億円になった。21年度は12億円、22年度は20億円と引き続き拡大し、25年度は20年度の10倍となる40億円に達すると予測している(下図参照)。

盛り上がりつつある市場の中で、各ベンダーは、他社との違いをどのように出し、ビジネスを進めているのか。ここからはWalkMeの日本法人とPendo.io Japan(ペンド・ジャパン)、テックタッチの3社について見ていこう。
WalkMe日本法人
大企業を中心に導入を拡大
WalkMeは、イスラエルで創業し、現在は同国と米国の2本社体制を敷く。主に北米を中心にビジネスを展開しており、日本法人は19年に東京に設立した。デジタル・アダプションに注目が集まる前からソリューションを提供しており、日本法人第一営業本部の中川哲・ディレクターは「この領域でのパイオニアというポジションだ」と自負する。
グローバルの導入実績は2000社超となっている。国内では、同社の製品「WalkMe」のイメージをしっかりとつかんでもらうことに注力。徐々に認知が拡大し、今では従業員数数千人から数万人規模の大企業を中心に、約80社が導入している。
製品では、正しい操作方法を指示するガイダンス機能や入力されたデータの正誤や抜け漏れをチェックする機能、ユーザーの振る舞いを分析する機能などを提供する。ブラウザー上に表示されるHTMLコードを認識するため、WebのUIであれば、SaaSでも、カスタムメイドの製品でも対応可能だ。開発や導入、運用の各業務に適用することで、高いレベルで品質を維持でき、全社のDXにつなげられるという。
特徴的な機能としては、事前にセットした操作を自動化するオートメーション機能がある。中川ディレクターは「本来、ユーザーが行うクリック操作やデータの転記などは、事前にセットしておけば自動化でき、サービスをまたいだ利用も可能だ」と説明し、「例えば、数クリックが必要な操作でも、1クリックで対象のページに飛ぶことが可能で、そこでは既にデータが転記されている状態になっている」と補足する。
コロナ禍の影響で、企業は以前のように全国各地で導入研修などを開催することが難しくなった。直接、会わなくても定着化をサポートしたいとのニーズが増え、製品の活用を始める企業が多くなった。中川ディレクターは「ビジネスは拡張フェーズの段階にあり、今年の業績は昨年に比べて80%増の水準での着地が見えている」と胸を張る。
販売は、案件紹介でパートナーの力を借りており、契約はほぼ日本法人が管轄している。現在は大企業を主なターゲットとしているが、導入が先行している北米では、中堅・中小企業の領域に展開している。国内でも、数年後には同じ状況になる可能性があるとみており、パートナービジネスについて検討を進める考えだ。
ペンド・ジャパン
パートナー開拓は領域特化で
ペンド・ジャパンは昨年10月、マクニカの社内カンパニーであるネットワークス カンパニーと国内初の一次販売代理店契約の締結を発表し、ビジネスを拡大している。ペンド・ジャパンの高山清光・カントリーマネージャー日本法人代表は「パートナーシップの広がりによって、ユーザー数が増えている」と手応えを感じている。
同社の製品「Pendo」では、分析やガイダンス、アンケートなどの機能が利用できる。アプリの分析から事業が始まったことに加え、「ソフトウェア体験を劇的によくする」(高山カントリーマネージャー)というミッションを掲げていることから、分析に関しては競合優位性があるという。
高山カントリーマネージャーは「よく使われている機能や使われていない機能について、いかに生産性やユーザーの行動にひも付けてリポートを出せるかという部分に特化している」とし、「ソフトウェアの機能ごとの見える化ができるため、次の開発計画の段階で不要な機能を減らすことにもつなげられる」と紹介する。
グローバルでは、これまでに2500社以上が導入している。国内の導入社数は非公開だが、順調に推移しているといい、高山カントリーマネージャーは「新しいツールがどんどん使われている中、生産性の向上を目指すだけでなく、普段、利用しているツールの操作状況から社員の幸福感を把握するといったニーズも出ている」と語る。
米国本社は昨年3月、ペンド・ジャパンの開設と国内市場への進出を発表した。早い段階からパートナービジネスに注力している理由について、高山カントリーマネージャーは「社内にエンジニアがいて、内製化が多い米国と比べると、日本はSIerの存在が重要になるため、パートナーとビジネスを進めるほうが成長を実現する上で効果的だと判断した」と説明する。
マクニカは、取り扱う別の商材と組み合わせた活用を提案するなどして販売を進めている。ネットワークス カンパニー第4営業統括部の米満慎悟・第2営業部長は「一つの製品で活用してもらえば、活用の効果がイメージしやすくなる」とし、顧客の活用状況について「別の製品や社内のポータルサイトで活用する事例が出始めている。また、ソフトウェアの利用率向上に加え、社内のセキュリティポリシーに合致したかたちで安全にソフトウェアを使うために活用する事例も出ている」と話す。
両社は、販売パートナー計20社の獲得を当面の目標に掲げる。パートナーの開拓に際しては、製品や中堅・中小企業などの領域に特化したSIerなどと戦略的に連携していく考えで、米満第2営業部長は「パートナーに製品の魅力やメリットを理解してもらい、顧客に展開できる体制をまずはつくり、両社でタッグを組んでパートナーや顧客をサポートしていく」と意気込む。
テックタッチ
製品外のサービスにも注力
国産ベンダーのテックタッチは、デジタル・アダプションの機能を提供することに加え、ユーザーの実装を後押しするコンサルティングサービスに力を入れている。井無田仲代表取締役は、各社の製品の機能差はなくなりつつあると認識しており、製品以外の付加価値を強みに顧客の獲得を進めている。同社は18年に設立し、Webシステム画面上でナビゲーションを作成・表示できる製品「テックタッチ」を提供している。
井無田代表取締役は「ナビゲーションをつけられる機能に加え、ユーザーがどういう使い方をしているかを分析できる機能もある。導入してもらえば、全社横断的にシステムを可視化し、利用状況を基に最適なアクションにつなげることができる」と説明する。
他社も似たような機能を提供する中、井無田代表取締役は「デジタル・アダプションの製品やツールは、自由度が高く、何でもつくれることは特徴だが、課題の抽出などが必要で、実装にたどり着くまでに時間がかかるケースがある」と指摘する。実装時間の課題を解決するため、コンサルティングサービスを立ち上げたところ、これが他社と比較した場合の「一番の優位性」になっているという。
サービスは、コンサルティング会社の出身者ら約10人でつくる専門のチームが対応する。顧客へのヒアリングやKPIの設定、アドバイスなどを実施し、しっかりと実装まで伴走できるようになっている。
製品は、直接販売と間接販売の両方で展開。直近の1、2年は、従業員数3000人以上の大企業を主なターゲットに設定している。導入社数は「百数十社」(井無田代表取締役)で、製品やサービスの質のほか、国産製品であることの安心感も顧客から評価されているという。
現時点では、直接販売のほうが若干比率は高いが、今後、製品をさらに普及させるためには、間接販売も強化していく必要があるとみている。販売パートナーは現在、大手のSIerなど10社弱となっており、既存のパートナーとの連携をさらに強化しつつ、公共など引き合いが増えている領域でパートナーの獲得を狙う。
国内で導入拡大を目指す一方、海外での展開も見据える。比較的距離が近いアジアや、市場の規模が非常に大きい米国を調査しており、来年にはテストマーケティングを実施し、将来的な進出の可否や進出先について検討する。
井無田代表取締役は「今後、機能の差別化はどんどん難しくなるとみている。定着化の課題は万国共通に近いため、しっかりとした製品であれば、海外でも勝機はあるはずだ」と展望する。
多くの企業が目指すDXを実現する上で、ITをしっかりと使いこなすことが必須の状況になっている。しかし、企業の間では、導入した製品やサービスを思うように扱えず、成果につなげられないケースが発生している。製品やサービスの定着化が課題として浮上する中、それを支援する「デジタル・アダプション」の考え方が注目されている。デジタル・アダプション・プラットフォームを提供する主要ベンダーは着実にニーズの取り込みを進めており、新たなビジネスとして広がっていくことが期待されている。
(取材・文/齋藤秀平)
特に柔軟な働き方を後押しするWeb会議ツールやチャットツールなどのSaaSは急速に普及した。ITビジネスでは、商談を進める際、DXが非常に有効なキーワードになり、クラウドサービスを中心に他の製品やサービスの導入も広がっている。
実際、企業のIT投資はおおむね堅調に推移している。調査会社富士キメラ総研の調査結果「業種別IT投資/デジタルソリューション市場 2022年版」によると、22年度の国内企業のIT投資額は、前年度比4.6%増の20兆1972億円となる見込み。DXの浸透とともに、新規事業開発に向けたバリューアップ投資が活発化し、26年度は同比21.7%増の23兆5131億円になる見通しだ。
ただ、製品やサービスを導入したからといって、一足飛びにDXは実現できない状況がある。情報処理推進機構が20年5月に発表した「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」では、DXに積極的な従業員1001人以上の企業(290社が調査対象)のうち、「業務効率化による生産性向上」について38.3%の企業が「成果あり」と回答した。一方、「既存製品・サービスの高付加価値化」で成果ありとした企業は17.6%、「新規製品・サービスの創出」では14.5%となった。
このような状況を踏まえ、企業は、DXを実現するための対応策の一つとして、新たに導入した製品やサービスの定着化に着目し、デジタル・アダプション・プラットフォームを採用する動きが増えているとみていいだろう。
調査会社アイ・ティ・アール(ITR)は、デジタル・アダプション・プラットフォームについて「新たに活用を開始したビジネスアプリケーションや、Webシステムなどの利用の定着を支援する製品・サービス」と定義し、「ユーザー視点では生産性の向上やヘルプデスク業務の削減などを、ベンダー視点では利用ユーザーやシステムの拡大、利用定着率の向上などを期待できる製品・サービスとしてデジタル・アダプションプラットフォームが注目されている」と説明する。
さらにITRの水野慎也・シニア・アナリストは「デジタル・アダプション・プラットフォームは、導入済みアプリケーションの既存機能に影響を与えることなくアドオンが可能であり、ユーザーの利便性を高め、定着化を促進するツールとして注目されている」と付け加える。
ITRの「ITR Market View:デジタル・アダプション市場2021」では、19年の市場規模は1億円だったが、20年は4億円になった。21年度は12億円、22年度は20億円と引き続き拡大し、25年度は20年度の10倍となる40億円に達すると予測している(下図参照)。
盛り上がりつつある市場の中で、各ベンダーは、他社との違いをどのように出し、ビジネスを進めているのか。ここからはWalkMeの日本法人とPendo.io Japan(ペンド・ジャパン)、テックタッチの3社について見ていこう。
(取材・文/齋藤秀平)

関連の市場は拡大傾向
この約2年半で、企業のデジタル化は大きく進展したといっても過言ではないだろう。コロナ禍に対応するため、多くの企業がテレワークを導入したり、ITを活用してこれまでの業務の進め方を変えたりしてきたからだ。特に柔軟な働き方を後押しするWeb会議ツールやチャットツールなどのSaaSは急速に普及した。ITビジネスでは、商談を進める際、DXが非常に有効なキーワードになり、クラウドサービスを中心に他の製品やサービスの導入も広がっている。
実際、企業のIT投資はおおむね堅調に推移している。調査会社富士キメラ総研の調査結果「業種別IT投資/デジタルソリューション市場 2022年版」によると、22年度の国内企業のIT投資額は、前年度比4.6%増の20兆1972億円となる見込み。DXの浸透とともに、新規事業開発に向けたバリューアップ投資が活発化し、26年度は同比21.7%増の23兆5131億円になる見通しだ。
ただ、製品やサービスを導入したからといって、一足飛びにDXは実現できない状況がある。情報処理推進機構が20年5月に発表した「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」では、DXに積極的な従業員1001人以上の企業(290社が調査対象)のうち、「業務効率化による生産性向上」について38.3%の企業が「成果あり」と回答した。一方、「既存製品・サービスの高付加価値化」で成果ありとした企業は17.6%、「新規製品・サービスの創出」では14.5%となった。
このような状況を踏まえ、企業は、DXを実現するための対応策の一つとして、新たに導入した製品やサービスの定着化に着目し、デジタル・アダプション・プラットフォームを採用する動きが増えているとみていいだろう。
調査会社アイ・ティ・アール(ITR)は、デジタル・アダプション・プラットフォームについて「新たに活用を開始したビジネスアプリケーションや、Webシステムなどの利用の定着を支援する製品・サービス」と定義し、「ユーザー視点では生産性の向上やヘルプデスク業務の削減などを、ベンダー視点では利用ユーザーやシステムの拡大、利用定着率の向上などを期待できる製品・サービスとしてデジタル・アダプションプラットフォームが注目されている」と説明する。
さらにITRの水野慎也・シニア・アナリストは「デジタル・アダプション・プラットフォームは、導入済みアプリケーションの既存機能に影響を与えることなくアドオンが可能であり、ユーザーの利便性を高め、定着化を促進するツールとして注目されている」と付け加える。
ITRの「ITR Market View:デジタル・アダプション市場2021」では、19年の市場規模は1億円だったが、20年は4億円になった。21年度は12億円、22年度は20億円と引き続き拡大し、25年度は20年度の10倍となる40億円に達すると予測している(下図参照)。

盛り上がりつつある市場の中で、各ベンダーは、他社との違いをどのように出し、ビジネスを進めているのか。ここからはWalkMeの日本法人とPendo.io Japan(ペンド・ジャパン)、テックタッチの3社について見ていこう。
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