Special Feature

なぜITベンダーはリスキリングに注力するか ビジネス成長と社会課題解決を両立

2023/06/22 09:00

週刊BCN 2023年06月19日vol.1973掲載

 ITベンダーが非デジタル人材のリスキリングを推進している。新型コロナ禍を背景にしたDX需要を追い風とし、各社のビジネスは好調に推移しているものの、膨らみつづけるニーズに対して、人材不足は顕著となっている。これまでITに縁がなかった層をリスキリングにより取り込み、さらなる成長を目指すとともに、日本社会の急務とされるデジタル人材の拡大に貢献する考えだ。特徴的な取り組みを展開する企業を取材した。
(取材・文/齋藤秀平、岩田晃久、藤岡 堯)
 

SAPジャパンなど3団体 女性を対象に就労まで支援

 SAPジャパンは2022年5月、女性向けテクノロジー教育支援などを手掛けるMAIA、マイクロファイナンス(小規模金融)事業を展開するグラミン日本と共同で、デジタル技術を活用できる女性人材の募集から育成・教育、就労支援までを一貫して行う連携組織「でじたる女子活躍推進コンソーシアム」を発足した。それぞれの知見やサービスを掛け合わせ、女性に対してITスキルを提供し、就労につなげている。これまでに390人ほどの人材を輩出しているという。
 
SAPジャパン 吉越輝信 エヴァンジェリスト

 活動の背景には▼政府が目標とするデジタル人材230万人の育成▼新型コロナ禍による女性の就労機会の喪失▼SAP自身が抱える人材難──がある。何かしらの理由で就労できていない女性にITスキルを身につけてもらうことは、社会課題の解決だけでなく、SAPの本業にとっても大きなメリットがある。コンソーシアムの立ち上げメンバーである、SAPジャパンの吉越輝信・エヴァンジェリストは「本業に近いところで社会課題の解決を目指すことは、継続性が高く、本気度も上がる」と話す。

 吉越エヴァンジェリストは取り組みの特徴として「就労の機会をつくるところからスタートしている」点を挙げる。SAPのパートナー企業などと連携し、受け皿となる就労部分を創出している点が一般的なリスキリング事業との大きな違いだ。雇用を受け入れる企業には求める人材像を聞き取り、それに適した教育カリキュラムを設計。ニーズに即したかたちで人材育成を図っている。

 トレーニングは完全オンラインで、受講者は約4カ月にわたり、ITの基礎やSAPテクノロジー、RPAなどについて学ぶ。金融教育や開業・起業支援、コーチングなどマインドセットに資する内容も盛り込んでいる。

 受講後の働き方にも工夫がある。学習を受けたからとはいえ、即戦力にはなりにくい。そこでソフトランディングできるよう「ワークシェアリングOJT」と呼ぶ仕組みを取り入れている。複数人でチームを組んで業務を共有し、プロジェクトマネージャー(PM)による教育・指導を受けながら、キャリアを積む。

 チームでの運用は、1人月の仕事を複数人で共有できる利点があり、フルタイムでは就労できない人でも働きやすい環境が整えられる。業務内容については、テストやユーザー教育、データ移行、運用保守などのサポートを中心とする。受講者が定型的な業務を担うことで、採用企業はより難しい業務に高いスキルを持つ人材を充てることが可能となる。

 コンソーシアムは地方自治体と積極的に連携し、プログラムの周知に努めている。卒業生によるコミュニティづくりにおいても、自治体の協力を得ており、地域主導でさらにプログラムに人を呼び込みたい考えだ。

 将来的には受講生が地域のデジタル化やDXに貢献できる人材となることも見据える。吉越エヴァンジェリストは「SAPを学ぶ過程で、お金の流れや企業経営についても基礎を指導している。SAPから得た業務スキルは他社のテクノロジーでもきっと生かせる」と力を込める。

 今後は受講生や雇用側である企業の声をカリキュラムに反映させ、さらなる充実に努める。業務内容に関してはSAPのパートナーだけでなく、エンドユーザー企業のIT部門支援にも対象を広げたい考えで、現在トライアルを進めている。さらに、雇用先の業務を取り仕切るPMを担う人材の育成も検討していく方針だ。
この記事の続き >>
  • 日本IBMデジタルサービス 地域一体の育成に注力
  • グーグル・クラウド・ジャパン クラウドスキル取得を後押し

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