データ活用のためのAIプラットフォームを提供する米Dataiku(データイク)が、国内でのビジネスを加速させている。先行する欧米市場では、すでに多くの顧客から高い評価を得ており、国内でも着実に顧客の獲得を進めている。「Everyday AI, Extraordinary People ─日々のAIで、皆が一歩先へ─」を掲げる新たなプレイヤーは、これまでの世界をどう変えていくのだろうか。
(取材・文/藤岡 堯)
データイクは2013年に仏パリで創業し、15年に本社を米ニューヨークに移した。国内市場には21年に進出し、22年に日本法人Dataiku Japanを設立。顧客数はグローバルで600社を超え、ARR(年間経常収益)は米国、欧州でそれぞれ1億ドルほどの規模に成長している。パートナーには50カ国以上で3000社以上が加わっており、国内からは野村総合研究所やインテック、NTTデータ先端技術といった大手SIerのほか、小規模ながらもAIやデータ活用の専門的な知見を有するIT企業が名を連ねる。
プラットフォームの「Dataiku」はSaaSでの利用のほか、プライベートクラウド、オンプレミスにも対応する。料金体系は基本料金とユーザー1人当たりの料金で構成され、ユーザー上限などが異なる「ディスカバー」「ビジネス」「エンタープライズ」の三つのプランと無料プランが用意されている。
社名は「データ」+「俳句」
社名は「データ」と「俳句」を合わせた造語だ。俳句の有する五・七・五というシンプルな構造性、円滑な流れをデータの世界でも実現したいとの思いが込められており、ソリューションもその思想が大きく反映されている。
データイクのプラットフォームには、大きく分けて二つの特徴がある。一つはエンドツーエンドのワンプラットフォームであること。もう一つは徹底されたビジュアライゼーションだ。
一般的にAIを使ったデータ分析では、データソースへの接続、データの加工・準備、機械学習モデルの構築、テスト、本番環境へのデプロイ、運用監視と多くのプロセスを経る。ここで問題となるのは、工程ごとに異なる部署・担当者が別々のツールで対応していることだ。人やツールが分断されれば、データの共有が難しくなったり、部署ごとの個別最適やサイロ化によって企業全体へのAI・データ利用の拡大が困難になったりする。
データイクは後発の強みを生かし、これらの課題に対して、すべての機能をワンプラットフォームに集約するという回答を示す。一つのソリューションで全体の工程をカバーし、チームのサイロ化、ツール間での分断を減少させた。加えて、ツールを一つに集約できたことで、結果としてユーザーのコスト削減につながり、競合優位性も生まれる。
ビジュアライゼーションについては、まず操作面が挙げられる。データ接続から運用管理までの一連のプロセスのすべてが、GUI操作によって完結できる。エンジニアでなくビジネス側の人間であっても、コーディングなしで機械学習モデルの開発や、AIによるデータ分析が可能となる。もちろん、コードによる操作やカスタマイズにも対応する。
データの流れや処理は「ビジュアルフロー」と呼ばれる形式で可視化される。どこで、どのようなデータが、どういうかたちで接続・変換されたかなどを容易に把握できる仕組みだ。取り込んだデータの詳細、複数の学習モデルの比較などのほか、モデルが示した予測の根拠についても、予測に影響を与える特徴量などの要素を視覚的に示してくれる。
ダッシュボード上ではグラフなどを使って分析結果の可視化・共有も行えるほか、Webアプリケーション化、外部のBIツールとの連携などアウトプットも豊富だ。
AIユーザーを育てるツールに
データイクが目指す「Everyday AI」とは、データエンジニアやデータサイエンティストだけではなく、組織内のあらゆるユーザーが、日々の業務でAIとデータを活用できる世界を意味する。プラットフォームは機械学習モデルの開発、デプロイ、運用・監視を効率化するだけでなく、AIをさまざまな局面で使いこなせる「AIユーザー」を育てるツールになりうるのだ。
「100%、パートナーとビジネスをしたい」
佐藤豊カントリーマネージャー
国内市場の販売戦略とパートナー戦略はどう進めるのか。23年4月に日本法人のカントリーマネージャーに就いた佐藤豊氏(前セールスフォース・ジャパン常務執行役員Tableau事業統括カントリーマネージャー)は「100%、パートナーとビジネスをしたい」と述べ、販売面だけでなく、伴走型支援や人材育成など、多様な領域でパートナーと協力していく姿勢を強調する。
佐藤 豊 カントリーマネージャー
──日本法人のビジネス状況はどうか。
順調だ。日本法人の設立から2年という短期間で、われわれの製品を導入しているお客様は拡大している。お客様は(AIの)民主化をしたいと考えている。データサイエンスチームに、より高度な分野を担ってもらうため、(AIを活用する)次の層をつくりたいと考えるお客様は非常に多い。そのために他社製品を導入したり、言語を覚えさせようとしたりしたが、実現できなかったため、Dataikuによって改善したいという企業が増えている。
──国内市場での販売戦略は。
エンタープライズ企業を対象としている。参入要件が厳しい公共分野を除いて、あらゆる業種・業態がターゲットとなる。ただ、国内市場では、国際競争力が強く、すでにAIの活用を進めている製造業が重要になる。それに加えて小売業や製薬業にもアプローチしたい。グローバルでは、ビジネスの多くが金融業向けだ。金融業ではデータ活用について、さまざまなツールが入っており、Dataikuによって新しいかたちが生まれるのではと考えている。
──パートナー戦略はどう取り組むか。
究極なことを言えば、100%、パートナーとビジネスをしたい。それは商流を100%パートナー経由にするという意味ではない。デリバリーをはじめとするサービスでもパートナーに絡んでもらい、エコシステムをしっかりと構築したいということだ。
お客様はどのステージにおいても伴走を必要とする。導入したばかりのころは、一緒に成功事例をつくらなければならないし、本当に民主化を目指すのであれば、人材を育成する必要がある。さらに利用が広がってくれば、マネージメントも複雑になってくる。国内ではまだ少ないが、エンタープライズ企業におけるMLOpsや、今後くるはずのLLMOpsも管理することになるとみており、そこもパートナーと一緒に取り組みたいと考えている。われわれが持っているものを惜しみなく提供し、案件に最初から入っていけるような仕組みをつくっている。
「思いがある」リセラーを
──開拓したいパートナーはどのような層か。
製品がエンタープライズ企業向けなので、そこに関与できるパートナーになるが、パートナーが担うテーマは広い。大掛かりな企業変革ができるとなると、大手のコンサルタントやSIerになってくるが、例えばプロジェクト単位でやっていくとなれば、ユースケースをつくるためのワークショップや伴走支援ができるパートナーが重要になる。
現行ソリューションのリプレースとなれば、リセラー的な観点も大事になってくる。ただ、リセラーといっても、「思いがある」人でないと売れない。商流を通すだけでは、互いにハッピーになれないだろう。得意分野や専門性を有して、販売を担ってくれるパートナーにフォーカスしたい。お客様に寄り添って、カスタマージャーニーを一緒に歩むことができるパートナーでなければと考えている。
AIは、予測にしても財務系やサプライ系と分かれるように、使える領域が多様だ。パートナーには得意不得意があるだろう。そういった点からもパートナーの数や種類を広げていかなければならない。パートナーの強化に向け、資格保有者を増やすための基礎づくりも進めている。
──戦略面でほかに取り組みたいことはあるか。
エンタープライズ企業のキーアカウントを、しっかりと次のステージに導いていきたい。ターゲットとなるお客様にハイタッチでアプローチし、企業変革を進めるとともに、われわれのソリューションの有効性を認めてもらうことをパートナーと進めたい。
市場の開拓に向けては、今、使われているソリューションのモダナイゼーションを目指し、既存のマーケットを狙っていく。他方で、ビジネスユーザー側にAI人材をつくり、新しいマーケットもつくりたい。BIツールのときには、自分がデータ人材だと思っていなかった人がBIによってデータ人材になれた。それと同じように、AI人材ではない人たちが、新しいテクノロジーでAI人材になれるだろう。意欲のある人たちをAI人材に変えていけば、BIツール以上の大きなマーケットになる。ここをわれわれのアドレスにしたい。
5年で世界2位の売り上げに
──今後の目標は。
国別の売り上げ規模を3年でグローバルで5番手に、5年で米国に次ぐ2番手にしたい。それだけの機会は国内市場にある。データの活用、AIの活用も日本はこれから。とても楽しく、可能性しかない。
「Tableau(タブロー)」が成功した要因は、ブランドリレーションシップだったと思っている。お客様や自社の社員、パートナー、学生らと一緒にブランドをつくることができた。要は「推し活」だ。データイクも、データサイエンティストやエンジニア、ビジネスユーザー、パートナーから推してもらう。これができれば、Dataikuの利用はもっと広まるだろう。