日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)は、Webサイトで「2024年JCSSA新春セミナー」を実施し、IT製品の主要メーカー9社のプレゼンテーション動画を掲載した。9社の製品やサービスは、AIの活用などで独自色が強くなっており、市場での差別化が進む可能性がある。一方、付加価値の提供によって複雑さが増している面もあり、ビジネスの拡大に向けてメーカーとパートナーの関係はより重要になりそうだ。
(取材・文/週刊BCN編集部)
VAIO
「かっこいい、賢い、本物」のPCを届ける
VAIOの山野正樹社長は、使い勝手や性能にこだわったPCを提供していると説明し「かっこいい、賢い、本物のPCを多くの方に使っていただくためには、パートナーの協力が必須・不可欠だ」と呼びかけた。
山野社長は、軽量でありながら片手で簡単に開閉できることなどを挙げて「当社のPCは、見かけだけでなく、ユーザーに寄り添ったかっこよさを実現している」と解説。機能面では「各社ともにAIノイズキャンセリング機能をそろえてきているが、チューニングに関しては当社が業界最高水準だと自負している」と胸を張った。
広域営業統括部の矢野勝也・統括部長は「販売店(パートナー)の皆様のご支援もあり、23年は大きな成長を記録し、法人市場に軸足を移した成果を目に見えるかたちで示せた」と話した。
その上で「市場でのポジショニングはまだ小さいが、PCで日本を元気にしていきたい」との考えを示し、安曇野工場(長野県)の見学を通じて、VAIOのものづくりに触れてもらうことが提案のポイントになると強調した。
レノボ・ジャパン
AIソリューションをあらゆる人に
レノボ・ジャパンは「AI for ALL インテリジェントな変革に向けて」をテーマに、生成AIが企業の活用フェーズに入るとみる24年に、AIソリューションをどのように顧客に届けるかについて説明した。
同社は、AI活用を「パーソナル」「プライベート」「パブリック」の三つのレイヤーで解説した。パーソナルは、特定の従業員向けのAIワークロードで、PCなど個人のデバイスで完結する。プライべートは、企業内にアクセスが限定された組織向けのAIワークロード。パブリックは「ChatGPT」に代表される公開・共有型のAIワークロードだ。
パーソナルのレイヤーでは、重要性が高まっているAI処理に特化したNPUが、既に同社のPCで活用されていると説明。クライアントデバイスの中で生成AIが活用されるようになると、時間の使い方が劇的に変わると見通した。
安田稔・執行役員副社長は「AIはあくまで手段。一人一人が本質的な価値創造に集中できるようAIをあらゆる人に届けていく」と決意を述べた。
NEC
NDPのビジネスをパートナーと拡大
NECは、顧客のDXを支援するための共通基盤「NEC Digital Platform(NDP)」上で提供するソリューションについて説明した。
同社が開発した大規模言語モデル「cotomi」については、モデルサイズが軽量である強みを生かし、コストを抑えられることや、カスタマイズが容易な点をメリットとして訴求する。オンプレミスで活用するための専用サーバーの製品化も進めているという。
Corporate SVPの木村哲彦・インフラ・テクノロジーサービス事業部門長は「パートナーとともにNDPのビジネスを拡大させたい」と話し、パートナーが得意とする製品やサービス、業種ごとのノウハウを組み合わせて顧客を支援するとした。
このほか、セキュリティソリューションの提供にも力を入れる。ID管理と生体認証のマネージドサービス環境をグローバルで提供しており、現在、米国ハワイ州でホームレスの身元の確認などで利用されている。加えて社内での利用で得たノウハウをもとにした、ゼロトラストセキュリティを前提とするオファリングメニューを提案する。
日本マイクロソフト
生成AI元年にする
日本マイクロソフトは、24年の注力領域として、大企業、中堅・中小企業、公共領域を挙げ、生成AIやクラウドの活用で生産性の向上を支援する。執行役員で常務の浅野智・パートナー事業本部長は「24年を生成AI元年としたい」と意気込んだ。
大企業向けには、ビジネス成長に直結する生成AIの活用を支援し、ビジネスリーダーへの戦略支援の機会を強化する。中堅・中小企業向けには、生成AIの利用において、クラウド環境を利用したデータ活用の仕組みが不可欠と強調した。現在、顧客の半数がクラウドを導入しているといい、顧客数のさらなる拡大を狙う。公共領域に対しては、生成AIを活用した行政サービスの向上により、人口減少に対応できるよう支援する。
事業を推進する上で、引き続きパートナーを重視する方針も示し、テクノロジーの活用と、ビジネス変革を支援するとした。
日本ヒューレット・パッカード
ベンダーニュートラルな機能を提供へ
日本ヒューレット・パッカードは、24年度のパートナー戦略について説明した。“as a Service”ビジネスの推進と、エリアビジネス拡大の両軸で取り組む。常務執行役員の田中泰光・パートナー・アライアンス営業統括本部長は「サービスも提供するが、われわれのベースビジネスとなっているサーバーとストレージ、ネットワークは引き続ききちんと投資してお届けする」と訴えた。
“as a Service”ビジネスの推進に関しては、「AI」「ハイブリットクラウド」「エッジ」の三つの領域にフォーカスする。特にハイブリットクラウドを推進するための戦略としては、他社製品に加え、クラウドとハードウェアに関わらず管理する「ベンダーニュートラル」かつ「クラウドニュートラル」なマネージドサービスの提供を24年以降に予定しているとした。
エリアビジネスの拡大については、23年11月に発足した「広域営業部」を活用して地域密着型の営業活動に取り組む。田中常務執行役員は「より皆様に近いところで営業やサポート活動をしたい」と述べた。
日本HP
AI PCで市場を活性化
日本HPは、24年の注力領域を中心に国内の事業戦略を説明した。岡戸伸樹社長は「24年はAI PC元年としてさまざまな製品を出していきたい」とAIが最も注力する分野であることを強調した。
同社は、AIテクノロジーを搭載したAI PCの登場で、PCが「パーソナルコンピューター」から「パーソナルコンパニオン」に変化し、人々のより近くで伴走する存在になると展望。AIがPC市場を拡大していくとの見通しを示した。1月18日に同社初のAIテクノロジー搭載の新PCを発売したほか、24年後半にはより本格的なAI機能を搭載した製品を投入し、市場の活性化を図っていく。
同社の業績を押し上げているハイブリッドワーク支援製品は、eSIMを搭載し通信費込みの法人向けPCやセキュリティを強化した製品などで引き続きポートフォリオを拡大する。プリンティング事業は、付加価値を提供するオンデマンド印刷需要に対応。サプライチェーンは、カスタマイズ製品を5営業日で出荷する体制の強化にも取り組む。「社員がより働きやすい環境を構築し、パートナーと一緒に一層ビジネスを成長させていきたい」(岡戸社長)とした。
Dynabook
デバイスとAIで課題を解決
Dynabookの覚道清文社長兼CEOは、24年はPC「dynabook」が発売35周年を迎えると紹介し「日本のビジネスをエンパワーできる企業を目指す。パートナーにも選んでいただけるように積極的に事業を推し進めていく」と抱負を述べた。
覚道社長は「24年はAIがキーワードになる。AI処理に適したPCやデバイス、これらを活用したソリューションを創出し、他社と差別化を図る」と力を込めた。具体的には、PC、ARグラス、通信型ドライブレコーダーなどの端末に生成AIを組み合わることで、オフィス、スマートファクトリー、テレマティクスの課題解決を目指すとした。
dynabookシリーズの強みとして、「高速処理」「環境調和」「セキュリティ」「堅牢性/ユーザビリティ」を挙げ、「時代のニーズに高いポテンシャルで対応できるPCだ」とアピールした。注力製品として、セルフ交換バッテリを採用した「dynabook X83 CHANGER」、GIGAスクール構想向け端末「dynabook K70」の機能を説明した。
富士通
再編後はトータルソリューションを提供
富士通は、23年末に発表した新会社エフサステクノロジーズの発足に関連し、再編後は富士通のオファリングと、エフサステクノロジーズのハードウェアソリューションを組み合わせたトータルソリューションを提供する方針を示した。
富士通は24年4月1日付で、サーバーやストレージなどを中心としたハードウェア事業をエフサステクノロジーズに統合する。同社がハードウェアの開発、製造、販売から保守までを一貫して手がけることで、経営責任の明確化と、経営判断の迅速・効率化を追求するのが狙いだ。
このほか、富士通の新たな事業ブランド「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」の方針についても説明。Uvanceのオファリング開発と顧客との商談を同時に進行し、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)市場でのリーダーポジションの獲得を目指す。
システムプラットフォームビジネスグループの櫛田龍治・執行役員SEVPは「お客様やパートナーの皆様をはじめとする幅広いステークホルダーとともに、社会にポジティブなインパクトをもたらしていく」と力を込めた。
日立製作所
オフィスIT環境を再構築
日立製作所は、働き方の変化に応じたオフィスITの再構築について講演し、ITツールの活用状況やオフィスに対する考え方や効果を紹介した。
ITツールについては、海外従業員が半数を超えて働き方の多様化が進んだことや、M&Aを含む頻繁な組織改編への対応、育児・介護による離職を抑制するといった目的で、グループウェアの環境をマイクロソフト製品に統一したと解説した。
オフィスについては「毎日、出社するオフィスから、目的をもって出社するスタイルへと変えた」(クラウドサービスプラットフォームビジネスユニットワークスペース基盤サービス部の荒井達郎・シニアストラテジスト)。都市部のオフィス面積を減らし、郊外のサテライトオフィスを増やすことで、従業員の状況に合わせて働く場所を選べるようにした。通信ネットワークはゼロトラスト型に変更し、インターネットベースの社内ITシステムに切り替えている。
その上で、個人の働き方に合わせたIT環境の整備促進や、通信回線にかかる費用の削減、SaaSアプリの積極利用による保守メンテナンス負荷の軽減などを効果として示した。