ファイアウォール、IPS(侵入防止システム)、アンチウイルス、フィルタリングなどさまざまな機能を包括的に提供するUTM(統合脅威管理)製品は、ゲートウェイセキュリティー対策の定番だ。ただ、市場で大きなシェアを占める外資セキュリティーベンダーの製品の場合、中小企業にとっては「コストが高い」「運用できない」といった理由で、導入のハードルが高いものもある。ここに注目した国内メーカーは、ルーターのオプションとして安価でUTM機能を提供したり、充実したサポート体制を構築したりして、中小企業でのUTMの普及を目指している。
(取材・文/岩田晃久)
NEC
シンプルな設計とクラウド管理を訴求
NECは、ルーター製品「UNIVERGE IXシリーズ」のオプションとして「UTMライセンス」を提供することで、中小企業のUTM利用を推進している。シンプルな製品設計と、クラウド型のネットワーク管理サービスにより容易に運用できる強みを訴求し、顧客の拡大を狙う。
IX2107
UNIVERGE IXシリーズは、中小規模向けの「IX2000シリーズ」と大規模向けの「IX3000シリーズ」を展開しており、UTMライセンスはすべての機種に適用可能だ。ただ、大手企業や対策が進んでいる企業では、既にほかのベンダーのUTMや次世代ファイアウォールを導入しているケースが大半であることから、UTMライセンスは、低価格の「IX2106」や「IX2107」を導入する中小企業、本社以外の拠点などでの利用が中心だと見ており、年間ライセンス料を5万円と安価にしている。
UNIVERGE IXシリーズは、累計130万台以上の出荷実績があるが、UTMライセンスを利用している企業はまだ少ない状況だという。しかし近年は、中小企業のセキュリティー意識も高まりつつあるため、同社のプラットフォーム・テクノロジーサービス事業部門デジタルネットワーク統括部IX製品統括グループの佐藤友紀・主任は「利用は右肩上がりで伸びている」と手応えを示す。
NEC 佐藤友紀 主任
多くのUTM製品に組み込まれているファイアウォール機能はUNIVERGE IXシリーズに標準搭載されているため、UTMライセンスでは、IPS、アンチウイルス、URLフィルタリング、Webガードの四つの機能を搭載する。機能を絞ることで複雑な設定を必要とせず使用できるため、セキュリティーの専任担当者がいない場合でも使いやすいのが特徴だ。そのほかにも、ユーザーやサーバーごとに適用するセキュリティー機能やポリシーの設定などが行える。
同社は、クラウド型ネットワーク機器管理サービス「NetMeister」の基本機能を無償で提供している。UTMライセンスをNetMeisterに連携させることで、ネットワークの診断結果、ウイルスをはじめとした脅威の詳細などを自動でレポーティングする「UTM脅威レポート」や、ログ解析機能を利用できる。佐藤主任は「セキュリティーの状況を見える化することで、経営層が投資を判断する基準にもなる」と説明。続けて、「NetMeisterの認知度は年々上がっており、利用も増えている。今後は、NetMeisterを軸にルーターやスイッチ製品を普及させていく」と力を込める。
同社の特約店を販路に拡販を進めている。UTMの知識がない販売店には、各拠点の製品担当者が説明したり、商談の場に同席したりして販売しやすい体制を整えている。佐藤主任は「UTMライセンスからセキュリティー対策の強化を開始して、その後、レベルアップした対策を求める場合は、当社が扱うさまざまなセキュリティー製品を提案していく」と述べ、UTMを入り口に中小企業のセキュリティー対策を長期で支援していく方針だ。
バッファロー
2月からUTM機能を提供、販売店の声を機能に反映
バッファローは2月、法人向けVPNルーター「VR-Uシリーズ」のオプションとしてUTMライセンスパック「VR-UTMシリーズ」を発売した。安価な価格設定や、開発段階で販売店から意見を募り機能に反映するなど、中小企業が使いやすいかたちを追求した。
VR-U300W
VR-UTMシリーズは、ファイアウォール、IDS(侵入検知システム)・IPS、アンチウイルス、アンチスパム、アンチボット、Webフィルタリング、アプリケーション制御のセキュリティー機能を搭載する。年間ライセンス価格は2万1780円で、対象となる機器は、11~50人規模の組織向けの有線VPNルーター「VR-U500X」と、10人以下の組織向けの「VR-U300W」の2機種。ルーター本体とUTMのライセンス料を合わせても10万円以下となり、中小企業や、小売りなどの小規模施設で導入しやすい価格設定にしている。
UTM機能の提供について、同社の事業本部法人マーケティング部の富山強・部長は「2022年に法人向けVPNルーターを発売して以降、境界型のセキュリティー製品に高いニーズがあるものの、価格面からUTMが導入できない中小企業が多いことが分かった。そういったお客様が利用できるように、ルーターのオプションとして展開することにした」と述べる。実際に、同社が中小企業の情報システム担当者105人を対象に調査したところ、UTMを利用している企業は24.8%にとどまり、UTMを利用していない企業からは、「ランニングコストが高い」「UTMをあまり理解していない/全く理解していない」といった意見が多かった。
バッファロー 富山 強 部長
開発段階から販売店に意見を聞き、国内企業が求める機能を実装した。その一つとして「UTM製品を導入するとネットワークの速度が低下してしまう」といった声が多かったことから、セキュリティーを担保しながら、通信速度が落ちにくい設計にしているという。国の研究機関である情報通信研究機構の脅威情報データベースと連携し、日本独自の脅威に対して迅速に対応できるのも強みとしており、富山部長は「国内の市場にマッチした製品だ」と強調する。
今後は、間接販売による拡販を進める。同社では、販売店向けに「VARパートナープログラム」を展開しており、販売支援、技術情報の提供などを実施。23年3月の時点で約4200社が同プログラムに登録している。また、リモート管理サービス「キキNavi」を無償で提供しており、販売店も同サービスを利用できるため、製品の販売から管理までトータルで提案することが可能だという。富山部長は「他社のUTM製品のリプレースを狙うのではなく、UTMを利用していないお客様に向けた製品だ。販売店にとっても新たなビジネスになるのではないかと考えている。キャンペーンの実施など、販売店とともにさまざまな取り組みをしていきたい」と力を込める。
ヤマハ
メーカーとしての充実したサポートが強み
ヤマハは、中小規模拠点向けのUTMアプライアンス「UTXシリーズ」を提供している。ルーターをはじめとしたネットワーク機器と一元管理できることや、専用窓口による充実したサポートを強みに、中小企業の利用を促進する考えだ。
UTX200
UTXシリーズは、小規模拠点向けの「UTX100」と中規模拠点向けの「UTX200」を用意。同時接続端末数はUTX100で最大50台、UTX200で最大100台を目安とする。セキュリティー機能としては、ファイアウォール、アプリケーションコントロール、URLフィルタリング、IPS、アンチウイルス、アンチボット、アンチスパムを搭載。Webフォームに登録するだけでUTMのライセンスを有効化でき、GUIから各種セキュリティー機能の設定が簡単に行える。
利用形態は、ルーターの配下に設置する「ブリッジモード」、ルーター機能とセキュリティー機能を1台で実現する「ルーターモード」の二つ。ブリッジモードでは、同じ管理画面でネットワークとセキュリティーの両方を管理できるため、運用が容易になるとしている。
同社はルーターの大手として多くの顧客を抱えている。一方で、「ネットワークは強いが、セキュリティーには詳しくないというお客様が多い」と音響事業本部プロフェッショナルソリューション事業部国内マーケティング&セールス部セールスグループの馬場大介・主事は述べる。
ヤマハ 馬場大介 主事
セキュリティーの知識がない顧客を支援するために、UTX専用のサポート窓口「UTXサポートサービス」を設置している。遠隔による機器のログ確認や設定の変更、問い合わせへの迅速な対応が可能となり、中小企業が安心して利用できるようにしている。また、メーカーとして直接サポートすることで、技術者が少なくサポート体制が十分でない販売店が売りやすくなるといった面もあるとする。UTXサポートサービスの利用料は、ライセンスに組み込まれている。
総代理店のSCSKの販路を通じた拡販を進めている。直近ではオフィスでの利用に加えて、介護施設での導入が増加している。介護施設の場合、業務用のネットワークに加えて、入居者、訪問者用にそれぞれWi-Fi環境を完備しているケースが多く、結果、ネットワークの設定が複雑になり、UTMによるセキュリティー対策のニーズは高まっているという。
UTMや次世代ファイアウォールは、ゲートウェイセキュリティー製品として多くの企業で利用されている印象が強いが、馬場主事は「市場は成熟していない」と分析する。中小企業の場合、アンチウイルスソフトとルーターのファイアウォール機能といった昔ながらの対策にとどまっているケースが多く、価格面などの理由から、UTMを利用している企業は少ないという。同社でも、ネットワーク機器の利用者数と比較してUTMの利用者は少ないのが現状のため、対策の重要性を訴求してUTMの導入を進めていく。