【米ラスベガス発】米Oracle（オラクル）は米国時間の9月9～12日、米ラスベガスで年次カンファレンス「Oracle CloudWorld 2024」を開催し、米Amazon Web Servises（アマゾン・ウェブ・サービス、AWS）との戦略的パートナーシップをはじめとしたマルチクラウド・分散クラウド戦略の強化、AIやセキュリティー領域での新機能など、さまざまな取り組みを発表した。10日のサフラ・キャッツCEOによる基調講演を中心に概要をレポートする。
（藤岡 堯）
 

強調されたオープン性

　キャッツCEOは講演の冒頭、新型コロナ禍以前の同社のカンファレンス名が「OpenWorld」だったことを引き合いに出し「私たちのルーツに戻る」と述べた。10日の別の基調講演に登壇したラリー・エリソン会長兼CTOも同じ趣旨の発言をしたように、オラクルのデータベース製品はメインフレームやPCでOSを問わず動作するオープン性に特徴があった。オラクルが推進するマルチクラウド、顧客やパートナーによる専用リージョンの設置を含め、パブリック、プライベートといった形態を問わずクラウドを活用できる分散クラウドの戦略は、このオープン性に回帰する動きと言える。
 

長年のライバルと手を結ぶ

　この流れをめぐり、会期中に発表されたAWSとの協業には特に大きな関心が寄せられた。オラクルは先行して米Google（グーグル）のGoogle Cloud、米Microsoft（マイクロソフト）と協業に乗り出しており、これで主要ハイパースケーラー各社と手を結んだことになる。キャッツCEOは「長年のライバルの多くがパートナーになった」とアピールした。

　AWSとの提携で提供する「Oracle Database＠AWS」では、AWS内に設けた専用インフラストラクチャーの上で、「Autonomous Database」と「Exadata Database Service」を展開する。ユーザーはAWS上の「Oracle Database」（Oracle DB）とAWSアプリケーションの間で、低遅延のネットワーク接続を利用できるようになる。さらにサービスを通じてOracle DBとAWS Analyticsサービス間のゼロETL統合、「Amazon S3」とのシームレスな統合によるデータベースのバックアップ、リストアの簡素化といったメリットも得られるとする。「AWS Marketplace」から調達でき、既存のオラクル・ライセンスの持ち込みにも対応する。年内にプレビュー版が提供され、2025年には顧客のニーズに合わせて新しいリージョンに拡大する計画だ。

　また、CloudWorldの開催に合わせ、マイクロソフトやグーグルとの協業に関して新たな展開が見られた。「Oracle Database＠Azure」については、日本や米国、欧州、南米、中東など15リージョンへの拡大が決まり、「Oracle Database＠Google Cloud」は、米国、英国、ドイツの計4リージョンでの一般提供開始がアナウンスされた。先行する2社との協業も着々と強化されつつある。

　「私たちは顧客が望む場所で実行できるようにテクノロジーを構築している」（キャッツCEO）との言葉通りに、マルチクラウドだけでなく、専用リージョンも含め、環境を問わずソリューションを展開でき、顧客に複数の選択肢を与えられる点、つまり、オープンかつ相互運用性に優れた面がオラクルのこれからの強みになるようだ。

顧客のパートナーに

　キャッツCEOの基調講演では、顧客との対話を通じて、オラクルのクラウド基盤やSaaSアプリケーションが顧客のビジネスをどう支えているかを示した。壇上に招かれたのは、ラスベガスを拠点とする統合型リゾート運営企業のMGM Resorts International（MGM）、米国政府の対外情報機関である中央情報局（CIA）、欧州のメガバンクBNP Paribas（BNPパリバ）、CDN（コンテンツデリバリーネットワーク）などを提供する米Cloudflare（クラウドフレア）、そしてチリの電気通信事業者Entel（エンテル）だ。

　MGMはオラクルの不動産管理システムや「Fusion Cloud Applications」などを活用して業務効率化を図り、AIによるパーソナライゼーションを通じた顧客体験向上も見据えている。CIAはオラクルと連携して、情報活動の支援、物流・サプライチェーンプロセスの自動化、人事機能の支援といった面で生成AIを取り込んでいく考えを示した。

　ワークロードをオラクルのクラウドへ移行しているBNPパリバは、EMEA（欧州・中東・アフリカ）でのリーダーとしての地位を高め、さらに北米での法人向け市場を取り込む上でテクノロジーがかぎを握ると指摘。クラウドフレアはオラクルのマルチクラウドを評価したほか、世界各地のデータプライバシー要件に準拠するために協力していることを明かした。エンテルはクラウドによってコストを大幅に削減でき、利益率や顧客パフォーマンスの向上につながっているとした。

　キャッツCEOは講演の中で、オラクルは単にテクノロジーを提供するだけの企業ではなく「テクノロジーを活用する皆さまのパートナーだ」と大勢の聴衆に語りかけた。このメッセージが表すように、顧客と共に歩む姿勢が強く打ち出された基調講演だったと言えるだろう。

　Oracle CloudWorld 2024については、同時開催されたOracle NetSuiteの年次カンファレンス「SuiteWorld 2024」と合わせ、次号以降、本紙で詳報をお届けする。