武田薬品工業は、医薬品製造の効率性と安定性の向上、品質やコンプライアンス強化、付加価値の創造促進を目的としたグローバルプログラム「Factory of the Future」を掲げている。Factory of the Futureでは、「デジタルと自動化」を柱の一つと定め、製造設備の自動化やAI、デジタルツイン、ビッグデータ解析、データの統合と民主化、予測などへの投資を加速しており、製造プロセスやオペレーションのさまざまな側面でDXを推進している。DXによって、▽高品質な医薬品を安定供給し患者に貢献する▽社員とデジタルを連携し、生産性と働き方を改善する▽ビッグデータの活用で環境への負荷や影響を見える化し最適化する―の三つの姿を目指している。
ヘルスケア業界全体でデジタル技術への期待感が高まる中、中外製薬では2016、17年ごろからAIやデータを活用した価値創出に関する議論を全社で始めた。19年には、DX推進の中心となる部署であるデジタル戦略推進部を立ち上げ、20年から「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を掲げて全社DXを推進している。独自のサイエンス力や技術力にデジタル技術を掛け合わせることでビジネスを変革し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するとしている。
中外製薬 関沢太郎 グループマネジャー
CHUGAI DIGITAL VISION 2030に関して、デジタルトランスフォーメーションユニットデジタル戦略推進部企画グループの関沢太郎・グループマネジャーは、「デジタルはあくまでもツールであり、自分たちの意志が明確にないと道具を使ってみただけで終わってしまう。目指すところをきちんと定めるため、また(社員が)同じ目線で同じ目標を持てるようにと、ビジョンがつくられた」と説明する。
社内でのデジタル人材創出も目指している。デジタル人材を体系的に育成する仕組みとして「CHUGAI DIGITAL ACADEMY」を21年から開講しており、社内のそれぞれの部門から参加者を募り、データサイエンティストや、デジタルプロジェクトを推進するリーダーを育てている。また、社員が主体となってデジタルを活用したビジネス課題の解決策や新規ビジネス創出のアイデアをかたちにする仕組みである「Digital Innovation Lab」を設けている。関沢グループマネジャーは「トライできるような環境をつくらなければならないということで、風土改革の一環として、社員が自分のやりたいことをやってみる場としている」と語る。