SI事業を手がける大手電機メーカー3社の2024年度上期決算(24年4~9月)が出揃った。上昇基調が続く国内のニーズを取り込み、各社とも堅調な結果を残している。当面は安定した景況が見込まれる中、各社は採算性の向上やリソースの最適化に注力するなど、より高い水準の業績確保に向けて動き出している。
(取材・文/藤岡 堯、大畑直悠、堀 茜)
富士通
主力の採算向上で大幅増益Uvanceは成長続く
富士通は売上収益が前年同期比0.9%減の1兆6966億円とほぼ前年同期並みだったものの、調整後営業利益は56.6%増の795億円と大幅に上振れした。主力の「サービスソリューション」セグメントでの増収効果と採算性の改善が大きく寄与した。オファリングを中核とする事業モデル「Fujitsu Uvance」は、サービスソリューション全体に占める売上構成比が20%に達し、中期経営計画の最終年度となる25年度の目標である構成比30%の実現も具体性を帯びている。磯部武司・副社長CFOは「受注、売り上げとも好調。目標に向けて力強いペースの進ちょくだ」と手応えを示した。
富士通
磯部武司 副社長CFO
サービスソリューションの売上収益は3.4%増の1兆175億円、調整後営業利益は252億円増の887億円で、調整後営業利益率は8.7%と前年同期の6.4%から上積みを果たした。国内市場でのDX・モダナイゼーション需要が力強く、国内で7%の増収だった。特にモダナイゼーションはDXやクラウド移行への導線としてのニーズが拡大し、Uvanceを除いた売上収益は69%増の828億円に上った。セグメントの売上総利益率は前年同期の32.5%から35.1%へと伸長し、利益面では252億円のプラス効果となった。開発の標準化、自動化、内製化、オフショア活用の拡大に加え、受注時の採算管理の強化も奏功し、磯部副社長は「上期だけ見ると少しできすぎくらいのレベル。このまま継続できるかが一つのポイントだ」と述べた。
Uvanceは売上収益が31%増の2007億円と好調。テクノロジー基盤の3分野で構成する「Horizontal」領域は14%増の1375億円と堅実な伸びを見せた一方、社会課題解決に重きを置くクロスインダストリー4分野の「Vertical」領域は93%増の632億円と2倍近い成長を記録した。上期の受注実績は30%増で、着実に規模を拡大している。中期計画では24年度で売上収益4500億円の目標を掲げている。現時点で目標値の引き上げは示していないが、磯部副社長は「計画を上回る水準にしたいと強く考えている」と期待を寄せた。
このほかのセグメントでは「ハードウェアソリューション」が売上収益で4.4%減の4566億円、調整後営業利益は31億円で143億円の減益。前年の国内公共系におけるサーバー・ストレージ関連の大型商談の反動や、為替影響による部材調達コストの上昇などが響いた。「ユビキタスソリューション」は欧州でのビジネス終了を受け売上収益が16.9%減の1086億円だったが、国内への集中で採算性が改善し、調整後営業利益は23億円増の113億円。「デバイスソリューション」は為替によるプラスなどで3.3%増の1474億円、調整後営業利益は44.1%増の134億円だった。
上期では社外転進者に対する支援制度の拡充費用として約200億円を計上した。間接部門の幹部社員を対象とするが、具体的な人数は明らかにしていない。費用計上に伴い、通期の調整前営業利益は当初計画から200億円減の3100億円に下方修正した。調整後営業利益は3300億円から変更しない。
NEC
パブリック領域がけん引 組織再編でリソース最適化
NECの売上収益は前年同期比4%減の1兆4866億円で、調整後営業利益は33.2%増の610億円だった。日本航空電子工業の非連結化の影響を除いた売上収益は前年同期比3.5%増となり、実質的には増収増益という。森田隆之社長兼CEOは「上期の実績は想定線であり、年間予算の達成に向けて順調に進ちょくしている」と評価した。国内ITサービスが好調で、特にパブリック領域の受注増が成長をけん引した。
NEC
森田隆之 社長兼CEO
国内ITサービスの売上収益は4.3%増の7355億円、調整後営業利益は59億円増の484億円。パブリック領域における受注が大型案件や自治体標準化案件の好調を受けて38%増となり、大型案件を除いても10%増加した。森田社長は「今後の予想される案件に対応する上で、むしろリソースが心配だ」と好調ぶりをアピールした。エンタープライズの領域では流通・サービスの受注が14%増、製造が11%増。金融は11%減だったが、前年同期の大型案件の反動を除けば増加しているとし、旺盛な需要が続いているという。
24年度の通期の売上収益は3兆3700億円、調整後営業利益は2550億円を狙う。国内ITサービスでは売上収益1兆6500億円、調整後営業利益は1680億円を目指す。パブリック向けビジネスの伸長を見込んでおり、決算発表に合わせてグループを再編し、リソースを集中して需要に応える方針を示した。
具体的には、ネットワークソリューションやインフラ工事・保守などを手がけるNECネッツエスアイを完全子会社化する。中間持ち株会社を新設してNECネッツエスアイと、自治体などにITサービスを提供する100%子会社のNECネクサソリューションズを傘下に配置し、自治体や中堅・中小企業向けのITサービス関連のリソースを最適化する。森田社長は「ITやネットワークを統合したDXソリューションをコンサルからSI、工事、保守まで一気通貫して提供可能なユニークな事業体制を構築できる」として期待を示した。
成長領域と位置づけている、共通基盤上で商材を展開するビジネスモデル「BluStellar」では、上期の受注は前年同期比40%増だった。エンタープライズに加えパブリックの大型案件も獲得した。今後は業界・業種に特化した商材の拡充に力を入れるとし、先行するエンタープライズに加え、パブリック向けにも業種に特化した商材を充実させる考え。AIやセキュリティー関連の商材を活用したビジネスの拡大も図る方針で、森田社長は「高収益案件を拡大し、売り上げの成長だけではなく収益性の改善も図る」と説明した。
生成AI関連のユースケースも拡大し、ビジネスの伸長を目指す考えも示した。特にAIが人間の業務を代替する「AIエージェント」に関して、森田社長は「NECは3年ほど前から『AIオーケストレーター』という名前でAIエージェントに関する技術の開発・実用化を進めており、CXやSIの効率化などの点で実際に動く姿を準備している。(AIエージェントは)今後、当たり前になるだろう」との見通しを示した。
日立製作所
旺盛なDX需要が追い風 Lumada事業が拡大
日立製作所のIT関連セグメントである「デジタルシステム&サービス」の売上収益は前年同期比10%増の1兆3124億円、調整後営業利益に一部の償却費を足し戻すなどしたAdjusted EBITAは、25.3%増の1691億円となった。旺盛なDXやモダナイゼーションの需要が追い風となったほか、Lumada事業が引き続き拡大してけん引した。
日立製作所
加藤知巳 専務CFO
デジタルシステム&サービスセグメントの上期の受注高は、9%増の1兆5222億円となり、同セグメントに含まれるフロントビジネスとITサービス、サービス&プラットフォームの3領域の受注高はいずれも前年同期を上回った。加藤知巳・執行役専務CFOは「エネルギーや公共分野、ITサービスが堅調だった」と説明した。フロントビジネスは、紙幣の改刷に伴うATM事業の反動があるものの、大口システム更新案件への対応などが好調。ITサービスでのクラウド関連やセキュリティー高度化の需要増によって、第2四半期で各領域が増収増益になったことも示した。米子会社のGlobalLogic(グローバルロジック)については、欧州で投資の抑制が続いてるものの、北米で案件を複数獲得するなどデジタルエンジニアリング事業が伸び、売上収益が18%成長したことも奏功した。
Lumada事業は、第2四半期の売上収益が25%増の7200億円となった。IT関連セグメントのデジタルシステム&サービスの売上収益は前年比14%増。次世代データセンターやGPUクラウド分野で、アジア圏の大手通信事業者であるシンガポールのSingtel(シングテル)と戦略的提携を拡大し、顧客のAI導入サポートを強化したことなどが成長要因となった。加藤専務は「Lumada事業の好調と収益性の向上が、日立全体の成長をけん引している」と手応えを語った。Lumada事業の24年度売上収益見通しについては、前期比18%増の2兆7500億円とし、全社事業における比率を30%とした。
全社連結の通期見通しは、売上収益が前回の9兆円から上方修正して9兆1500億円、Adjusted EBITAは1兆305億円で据え置き、純利益は6000億円を見込む。デジタルシステム&サービスでは、引き続きデジタル需要の刈り取りとLumada事業の拡大を進め、通期での増収増益を狙う。売上収益は8%増の2兆8000億円、Adjusted EBITAは445億円増の3780億円を目標とし、グローバルロジックは、売上収益で14%増の2914億円を目指す。
加藤専務は、DX関連について「国内は引き合いが多く、人材リソースの手当てが難しい面もある」とする一方、それらも含めて業績見通しを立てているとし「国内のIT需要は強い状態が続くとみている」とさらなる成長に自信を見せた。エネルギーなどインフラ関連事業は、外的要因として、政策の影響を受ける可能性があることから「安定的な政治体制と中長期的に政策を進めていただけるよう希望しており、注視していきたい」と述べた。