市場環境がめまぐるしく変わるIT市場において、2024年も新たな技術や政府の施策に合わせて商機がさらに拡大し、ITベンダーはその開拓に挑み続けた。生成AIに関しては23年から継続して新たな発表が相次ぎ、話題性が先行しがちだったソリューションは、具体的なユースケースの創出へとフェイズが移りつつある。ITビジネスは都市部だけにとどまらず、地方の多様なプレイヤーと密接な関係を構築し、日本各地の課題解決を図る動きも活発化した。「週刊BCN」の紙面を通じて1年を振り返る。
(構成/大畑直悠、日高 彰、堀 茜、藤岡 堯、岩田晃久)
Review 1
新領域でのIT活用が進む
24年は新たな領域でのIT活用が進んだ。7月8日・2021号の「
通信不感地帯はITビジネスの『フロンティア』になるか 『Starlink』が切り開く新たな商機」は米SpaceX(スペースエックス)が開発した衛星ブロードバンドインターネット「Starlink」の法人向けサービス「Starlink Business」の日本市場での動きを大手3社の取り組みから探った。KDDIは、海上向けの「マリタイム」の間接販売を強化。4月には船舶用の電子機器・サービスなどを提供する古野電気(兵庫県西宮市)との業務提携を発表。7月にはダイワボウ情報システムをStarlink Businessの販売パートナーに迎え、販路の拡大に取り組んだ。
7月8日・2021号掲載
NTTコミュニケーションズは6月に建設DXに取り組むスタートアップARAVとの協業で建設機械の遠隔操作・自動化ソリューションを発表。今後も業種特化のソリューションの展開に期待を寄せる。ソフトバンクも総合建設機械レンタルのアクティオと業務提携を結んだ。アクティオはStarlink Businessと関連機材のパッケージレンタル事業を開始し、山岳地域や離島、電波が届かない高層ビル建設の現場などにインターネット環境を整備する。3社ともに業種に特化したパートナーとの協業がビジネス拡大に弾みを付けているようだ。
マイナンバーカードを利用したビジネスも動き出した。国民の多くがカードを持つようになったことで、公的個人認証に関するビジネスが広がっている。9月9日・2029号「
マイナンバーカードで広がる商機 公的個人認証の民間活用需要高まる」では、国の認証を受けてほかの企業に認証サービスを提供する「プラットフォーム事業者」としてサイバートラストとNTTデータの取り組みを掲載。スマートフォンへの機能搭載に向けた迅速な対応や、新たな需要を喚起する独自のソリューションの提供などでビジネス拡大を目指しており、すでに対応するAndroid端末に加え、25年春に予定するiPhoneでも商機を見込んでいる。
Review 2
AIエージェントの存在感が高まる
23年に市場の話題を席巻した生成AIに関しては、24年には具体的なユースケースが生まれた。8月5日・2025号の「
顧客対応で活用広がる生成AI ユーザー満足度を高め省人化も」では、NTTコミュニケーションズとトランスコスモスのコンタクトセンター向けの生成AIソリューションやトゥモロー・ネットのオープンモデルの大規模言語モデルにより音声対応を実現したサービスを紹介。FAQシステムの検索性を生成AIで高めるHelpfeelのビジネスも掲載した。いずれも省人化に加え、スムーズな対応でユーザーの満足度を高めるといった価値を訴求している。
8月5日・2025号掲載
特定のタスクや業務を生成AIに実行させる「AIエージェント」の考え方も市場で存在感を増した。12月2日・2039号「
1人の社員が何千のAIと協働する世界に米Microsoftが『Ignite』開催」は、米Microsoft(マイクロソフト)の年次イベントで発表された内容を読み解いた。サティア・ナデラ会長兼CEOはAI関連のビジネス支援の方向性を拡大し、「Copilot」をユーザーインターフェースとしたエージェント機能の提供に重点を置く方針を強調。イベントでは「Microsoft 365」のアプリケーション内にエージェントを組み込み、福利厚生や給与情報の取得、IT部門へのリクエストができる機能などが示された。各顧客の業務に合わせてカスタマイズしたエージェントを構築するソリューションも発表された。エージェントの登場によって、さらに業務に即した形で生成AIが活用される未来が近づいたとも言えるだろう。
Review 3
地方活性化の動きが広がる
ITベンダーによる地域への支援の動きも目立った。10月14日・2033号の「
各地で取り組む観光DX ITベンダーと共同で地域の活性化目指す」では、観光DXを支援するITベンダーの動きを取り上げた。日立システムズは神奈川県箱根町や地元団体と協力し、AIカメラの設置で観光地の混雑状況の改善を図っている。観光客がいつ、どこから来たのか、リピート客かといった詳細なデータを取得。より収益性を高めるための洞察も可能になるという。
10月14日・2033号掲載
九州地域ではセールスフォース・ジャパンがJTBや九州観光機構と包括連携協定を結び、観光客の情報の収集や分析を展開している。これをもとにモバイルアプリを通じたレコメンドを出せるようにするといった機能拡張も見据える。取り組みを通じて、セールスフォース製品を扱えるデジタル人材の創出も支援している。観光DXは地方創生の軸となりそうだ。
12月9日・2040号「
ITベンダーの地方拠点戦略 働き方の選択肢を増やし人材確保」では、ITベンダーの地方拠点設立の動きを紹介した。各ベンダーは人材確保に加えて、地域への貢献で密接な関係を構築し、地方ビジネスの拡大につなげている。
テラスカイは17年に新潟県上越市、24年に秋田市と松江市にサテライトオフィスを開設。上越市内の小中学校で「IT出前授業」を18年から無償で開催し、同社の紹介やプログラミングの授業を提供している。クラスメソッドは上越市や那覇市など国内に8拠点を展開しており、上越地域ではIT産業や地域の活性化目指すNPO法人に参加するなど、物理的なオフィスがあることを生かして行政や地域コミュニティーとのつながりを拡大している。Sansanは徳島県神山町、京都市、新潟県長岡市にサテライトオフィスを設置。神山町では同社の寺田親弘社長が発起人の1人となり、起業家の育成を目的とした私立の高等専門学校「神山まるごと高専」を開校。地方を盛り上げる取り組みが企業認知度の向上や価値の向上にもつながっているようだ。