AIモデルと外部のデータソースの接続を標準化する「Model Context Protocol(MCP)」の導入支援サービスが広がりつつある。AIモデルをインターフェースに社内の複数のデータ基盤を活用できる点が最大の特徴で、企業におけるデータ活用の切り札になるとの期待も高まっている。MCPを巡るサービスは開始間もないものも多く、各社がユースケースづくりに奔走。セキュリティーやガバナンスといった課題への対応も進めている。今後の伸長が見込まれるビジネスの現状を探る。
(取材・文/春菜孝明)
MCPは2024年11月、米Anthropic(アンソロピック)が発表したオープンプロトコル。同社の「Claude」のほかに、この1年の間に主要な生成AIモデルでも利用できるようになったほか、多数のSaaSやアプリケーションがMCPに対応しており、存在感が高まっている。
エコシステムの拡大を受け、ユーザー企業のシステムに組み込むニーズの開拓が本格化している。利用シーンは、AIモデルを通じて社内システムのデータにアクセスし、データ分析やエージェントを実行することがメインだ。普段使いしているAIチャットにやり取りが統合されるため、複数のツールを行き来する手間が省けるなどのメリットがある。
多くの企業が生成AIを導入する中、汎用AIは一般的な質問応答や文章生成に優れているものの、社内知識を持たないため回答が限定的になりがちという欠点がある。企業固有の情報を組み込んでAI活用を高度化しようにも、既存システムとの連携や認証は個別開発が必要で、多数のツールが乱立する環境ではデータ連携のボトルネックとなっていた。こういった課題を乗り越える存在として期待を集めている技術であり、ITベンダーは、AIとシステムの間を仲介するMCPサーバーの構築や、マネージド型などのかたちで導入支援を打ち出している。
ビジネスデータのハブに
CData Software Japanは10月、マネージドMCPプラットフォーム「CData Connect AI」を発表した。データ連携ソリューションを手掛けてきた強みを生かし、主要なSaaSやアプリケーションなど300種類以上のデータソースに対応している。汎用コネクターで顧客社内で開発したシステムとも連携できる。4段階の設定で接続が可能な点も売りだ。同社の杉本和也・マーケティング&パートナーサクセスチームマネージャーは「全ての情報を生成AIと組み合わせながら利用できる基盤にしようという取り組みだと解釈している」と、MCPの役割を解説。「今までつながらなかったビジネスデータのハブになるという意味で(MCPは)重要なファクターになる」と期待を込める。
CData Software Japan
杉本和也 マネージャー
専門商社で行ったPoCでは、5100万アイテムに上る商品の売上分析に活用した。販売管理システムをMCPで連携。メーカーごとに異なっているカテゴリー名についてSQLを用いて統一、分類することで、自然言語による分析の指示が可能になった。
ほかにも営業商談前のアジェンダ作成や、請求メールの作成の自動化などのユースケースを想定している。ベータ版はユーザーのPCにインストールするローカルサービスだったが、クラウド上にホスティングすることで、多数の端末への展開やスマートフォンからのアクセスが容易になった。
杉本マネージャーは従来の大規模言語モデル(LLM)でカバーできなかった社内データの活用に意義があると強調。「ビジネスデータのタッチポイントが全てAIになると思う」と見通している。
テラスカイは11月に発表したAIサービス「mitoco Buddy」でMCPを中心の機能に据える。特定のAIモデルに依存せずに切り替えてMCPを利用できるほか、繰り返しの作業をスケジュールして自動で実行する機能もある。取締役専務執行役員の山田誠・製品事業ユニット長は「業務の相棒(バディ)になる」との思いを込めたと明かす。
テラスカイ
山田 誠 専務
50種類以上のSaaSなどとのコネクターを提供し、提供外のサービスともカスタム設定で連携する。サービスは米QueryPie(クエリパイ)日本法人との協業で実現した。12月の提供開始を予定し、金融、製造、サービス業など幅広い業界に導入する計画で、28年までの3年間で300社への導入を目指している。
エージェント普及で真価発揮
市場での需要は生まれているのか。クラウドエースの高野遼・取締役CTOは企業システムへの実装は現段階では限定的とみている。その上で、MCPの真価はAIエージェントの普及によって発揮されると分析している。
クラウドエース
高野 遼 CTO
従来はAIモデルが外部の情報を利用する際、個別のシステムごとに専用のAPIを開発、接続する必要があった。MCPは「AIのためのUSBポート」と例えられるように通信を標準化することでこの手間を解消。複数のエージェントがMCPを介して外部データやエージェント間のやり取りを容易に行うことができるようになる。
同社ではAI開発サービス「Agent Enterprise」を8月に発表した。AIエージェント同士が自律的に連携する「Agent2Agent(A2A)」とMCPの組み合わせを強みに、業務プロセス自動化の事例を掘り起こしている。顧客課題や業界の特性に合わせたAIソリューションを開発しており、高野CTOは「AIエージェントと社内システムを連携するニーズが増えてくれば、MCPサーバーを整備する機運も醸成される」と見込んでいる。
Hakuhodo DY ONEはAIエージェントサービス「ONE-AIGENT」の一環でMCP導入支援サービスを開始した。広告やマーケティングを手掛ける顧客の社内DXが主な需要で、DXコンサルティング本部の野津原竜太・本部長代理は「PoC段階だが、特定のクライアントと取り組みを進めている」と説明。AIチャットから社内システムの情報を呼び出したいといった需要に対してMCPが選択肢になっている。
Hakuhodo DY ONEの黒田英二本部長(右)と野津原竜太本部長代理
テクノロジーR&D本部の黒田英二・本部長は、有料のメディア媒体などクローズドな情報の活用にもMCPが生かせる可能性があるとし、「需要が高まれば新しい情報流通になり得る」と期待感を示す。
セキュリティー確保万全に
社内システムにアクセスするMCPは、機密情報も含まれるデータ資産を取り扱うため、セキュリティーやガバナンスの確保が重要になる。
社内システムによっては管理職や特定の職権者のみがアクセスできる情報がある。CData Software JapanのConnect AIではアクセス権限をユーザーごとに設定。閲覧範囲などシステムで設定した権限をそのまま引き継ぐことも可能だ。MCPを通じたアクセスの履歴は管理者側で閲覧できる仕組みになっている。テラスカイのmitoco BuddyでもMCPと各種データの利用状況を一元管理している。
セキュリティーの確保には、AIとシステムをつなぐMCPサーバーがポイントになる。ユーザーが社内で管理していない外部のMCPサーバーを利用してしまうと、社内情報を外部に送信するリスクがある。クラウドエースの高野CTOはAIツール側で、接続を許可するMCPサーバーを一括管理する仕組みが必要と指摘する。
Hakuhodo DY ONEでは社内でもMCPを利用しながらリスクを認識し、セキュリティー対策に役立てている。認証フェーズではセキュリティーを維持しながら社内システムと接続する仕組みを試みており、確立できれば顧客にも提供を目指すとしている。
開発パートナーに需要
MCP導入時のインテグレーションは、新たな開発パートナーの需要を生みそうだ。CData Software Japanの杉本マネージャーは「コラボレーションを増やしたい」と力を込める。同社のConnect AIを他社サービスに組み込むモデルもあり「協力することでデータ連携をカバーするソリューションにできる」と強調する。
クラウドエースの高野CTOは、MCPコネクターによって接続は標準化されるものの「AI駆動開発を前提にしたエンジニアリングは、求められるスキルセットが従来と変わってくる」と指摘。「パートナーは重要になってくる」と話す。
Hakuhodo DY ONEではオフショアなども含めてグループで開発に取り組んでいる。システムから呼び出すデータが過多にならないような粒度の設計には「お客様とコミュニケーションしながら、データを小さい塊にする作業が必要になる」(黒田本部長)という。