「AIエージェント元年」と呼ばれた2025年。ITベンダー各社はこの技術に向けられる期待を、具体的なビジネスとしてかたちすることに挑んだ。一方でランサムウェアといった攻撃の猛威は止まらず、セキュリティーリスクへの対応が迫られている。人口減少が深刻化する地方では、AIなどを活用した生産性向上の取り組みの重要性は増している。AI技術の進化と共に変化が加速した1年を、「週刊BCN」の紙面を通して振り返る。
(構成・大畑直悠、春菜孝明、南雲亮平、大向琴音、岩田晃久)
Review 1
生成AIはより身近な存在に
AIエージェントが顧客ごとの環境に合わせて真価を発揮できるようにするために、AIモデルと外部のデータソースの接続を標準化する「Model Context Protocol(MCP)」に関する動きが活発化した。 12月8日・2085号「
勃興前夜のMCP導入支援ビジネス AIによるデータ活用の切り札となるか」では、広がりつつあるMCPの導入支援サービスの動きを伝えた。
12月8日・2085号
生成AIやAIエージェントに関しては、一般的な質問応答や文章生成に優れているものの、社内知識を持たないために、出力の精度が限定的になることが指摘されてきた。いち早くサービスを提供するベンダー各社は社内のさまざまなシステムとのデータ連携を一元化するMCPが突破口になると予想しており、セキュリティーやガバナンスを確保した導入に力を入れている。
米Salesforce(セールスフォース)といったベンダーが自社の製品や基盤にAIエージェントを組み込み、提供価値を拡大させる中、生成AIやAIエージェントが組み込まれたアプリケーションを開発できる「Dify」といった新興のツールも現れた。
12月15日・2086号の「
開発ツール『Dify』がもたらす民主化 生成AIのビジネス導入加速へ」では、Difyの販売を手掛けるパートナーの動きを特集した。NTTデータは生成AI導入のハードルを下げ、民主化を推進する製品としてDifyの販売に注力しており、伊藤忠テクノソリューションズは、AIエージェントの開発を一定レベルで内製化できる製品とみている。両社に共通するのは、Difyが生成AIやAIエージェトを、ユーザー企業にとってより身近な商材として期待している点で、今後の動向が注目される。
新しいビジネスの創出が進む中、既存ビジネスのあり方にも変更が迫られている。9月22日・2076号「
パッケージのSaaS化を支援するAWS 技術とビジネスの両面を変革」では、アマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン(AWSジャパン)が展開するパッケージソフトウェアのSaaS化の支援を取材した。SaaS化のビジネスが高まる背景にあるのは急速に発展する生成AI技術に自社製品を合わせたいとするニーズがあるようだ。また、9月15日・2075号「
AIで変わるBPOビジネス エージェントで高難度案件をつかむ」では、AIエージェントの登場で変化するBPO業界を特集した。これまで自動化が難しかった領域を効率化する、高難易度案件の受注に取り組む動きが表面化している。これらに限らず、AIエージェントがもたらす変革は、システム開発業務など、さまざまな領域に波及し始めている。
Review 2
AIの悪用で高まる脅威
7月14日・2067号「
巧妙化するフィッシングメール 従業員アカウントもターゲットに」では、国内企業を標的として拡大するフィッシングメールの現状と対策を分析した。国内が狙われるようになった一因は、生成AIによって、言語の壁がなくなったこと。日本語として違和感がない文章の生成が可能になったため、フィッシングメールの精度が上がっている。AIの便利さがビジネスに恩恵を与えるだけではなく、攻撃者に悪用され、新たな脅威を生んでいる点は肝に銘じておくべきだろう。
7月14日・2067 号
ランサムウェア攻撃をはじめとした脅威は依然として高まっている。その象徴的な事件となったのが、12月8日・2085号「
猛威を振るうランサムウェア 被害最多の中小企業に求められる対策」で詳報したアサヒグループホールディングス(アサヒGHD)への大規模な攻撃だろう。同社の受注・出荷業務に甚大な被害をもたらしたこの一件を機に、改めて拡大する脅威を認識した企業は少なくないはずだ。
一方で、攻撃のトレンドではアサヒGHDのような大企業ではなく中小企業が狙われている。外部のSOC(Security Operation Center)サービスの利用も選択肢に入れつつ、侵入を防ぐ「予防策」と、侵入後の被害を最小限に抑える「検知・対応・復旧策」の両面から強化する必要に迫られており、中小企業も改めて対策を見直す必要がある。
Review 3
地方でも加速するITビジネス
日本の人口減少と労働力不足が加速する中、地方はその傾向がより顕著な傾向にある。こうした課題の解決に寄与すると目されるのがやはりAI技術の存在だ。
7月7日・2066号
7月7日・2066号「
IBMが展開する『地域DXセンター』 SI企業が地域経済に“溶け込む”足掛かりに」では、日本IBMの中核SE会社である日本IBMデジタルサービスが展開する「IBM地域DXセンター」の取り組みに迫った。先進事例を生み出してきた九州DXセンター(福岡県北九州市)は、地場企業やパートナーとの協業のほか、地域の教育機関と連携した人材の育成でも着実に成果を上げている。
九州DXセンターが注力しているのがAIエージェントの活用だ。すでにBPOの自動化で実績をつくっており、今後はAI活用を前提とした業務フローとシステム開発、運用に見直す需要が高まると予想している。AIの時代であっても「テクノロジーの指南役」としてのSIerの役割が重要になりそうだ。
地方企業が蓄積してきた知見にAIを掛け合わせることで、新しい価値を生み出す動きも現れている。7月21日・2068号「
新潟発 AIで地方創生 地域特化の知見から価値を生む」では、新潟の地場企業が取り組む生成AI活用を紹介。新潟日報は自社の新聞記事を活用して、自然言語による質問に応答する新潟特化のサービス「新潟日報生成AI」を提供している。
また、新潟人工知能研究所では首都圏のAI開発企業に依頼するとコストが高すぎるという課題に対し、地方ならではの現実的な価格で提案しているという。教育、医療、建設、スポーツといった専門的な学習データを保有している点などを強みに、事業を躍進させたい考えだ。
新潟市ではスタートアップや地元企業が入居する「NINNO(ニーノ)」を拠点としたイノベーション創出の動きも見られる。同市以外でも、生産性向上や業務効率化へのニーズは高い。AIエージェントといった先端技術の地方への普及は今後もさらに進展するだろう。