Special Issue

<プリンティングソリューション特集> 第一部 プリンタメーカー座談会 後編

2008/03/17 19:56

週刊BCN 2008年03月17日vol.1227掲載

リコー

販売事業本部ソリューションマーケティ
ングセンタープリンタ販売計画室 室長
藤川康弘 氏

ミッドレンジとローエンドのレーザープリンタを担当する。07年4月から現職。

 リコーは、モノクロ/カラーのA3/A4レーザー、複合機、ジェルジェット、ハイエンドプリンタなどをラインアップ。同社が現在注力しているのはカラーのタンデム機で、A3フロアタイプの「IPSiO SP C810」(モノクロ/カラー共に32枚/分)、A3デスクトップ型の「IPSiO SP C710 /SP C711」(モノクロ32枚/分、カラー26枚/分)などである。
 07年度、リコーはモノクロ、カラーともに好調に推移した。モノクロは業種展開、カラーは大口案件が取れるようになってきたのが要因だ。JDパワーの07年度のレーザープリンタ顧客満足度調査で、リコーはモノクロ、カラーの両分野で第1位になった。モノクロでは初、カラーは2年連続で、これ以外の部門も含めリコーグループとして5部門で評価された。08年1月にはA4ローエンドのIPSiO SP C220を発売しカラーの充実化を図る。

http://www.ricoh.co.jp/

石川 活性化策には2つあると思います。1つは、我々メーカーがシングルファンクションだけでなく、マルチファンクションも含めて販売パートナー様が売りやすい製品ラインアップを提供していくこと。2つ目は、我々メーカー自身もダイレクトにもっとエンドユーザーのもとに行ってニーズを具現化させて市場を開拓し、パートナー様との協業をさらに推進し、お互いのビジネスを拡大していく。この2つが必要ではないでしょうか。

 HPでは、「プリンタ」から「プリンティング」、「もの」から「こと」という考え方に頭を変えようとしています。すなわち、コンピュータ上で保管、管理されるデータを価値のある情報に変換し、必要な部署に、必要な形で届けられるようにアウトプット環境を最適化することです。このような考え方によって、パートナー様のビジネスモデルも変わってくるし、弊社とパートナー様との協業体制も変わってくるのではないでしょうか。我々もそれに対して、しっかりとしたメッセージ訴求と市場活性化の提案を進めていく必要があると考えています。

藁谷 昨今、モノクロプリンタを買うよりカラープリンタのほうが安いというケースもあります。営業戦略上かもしれませんが。それでも簡単にはカラーにシフトしないという現実もあると思うんですね。この理由として考えられるのは、先ほどからもお話が出ていますが、ランニングコストに対する決裁者側のアレルギーがあるのかなと。先ほどの例で言いますと、消耗品の代金に保守料金を含めるといった商材で納得していただいたお客様の例もあります。また私どものプリンタですと、モノクロ専用モードをご用意しております。そうやってモノクロのお客様に、いかにカラープリンタを使っていただくかに取り組んでいますが、正直に言ってそれでも厳しいものがある。カラー化を促進するための決定的な切り札にはなっていないのが現状です。キーワードとしては環境とセキュリティだと思いますが、もう一ひねり必要かなと…。

小野 皆さんのご指摘にもあるように、モノクロに対してカラーのランニングコストは高いというイメージがお客様にあることが、カラー化が進まない大きな要因としてあると思います。したがって、ユーザーが実際に印刷する際のカラーのランニングコストがどれくらいかをより具体的に訴求していく必要があると考えています。例えば、インクジェットプリンタではデジタル写真の画像が数十種類ほどあり、それを印刷したときのランニングコストが定義されています。業界団体でそういったことをきちんと決めていくことが重要ではないでしょうか。このデータだったらコストはいくらであるとか、コストに含まれる要件とか。そうしないと、カラーページプリンタのランニングコストが高い印象はなかなか払拭できないと思います。

[セキュリティ]

標準搭載機能の有効活用を

――いろいろとご指摘いただきましたが、セキュリティとグリーンITについてもう少し掘り下げたいと思います。まずセキュリティですが、プリンタを絡めたソリューションをどのようにお考えですか。

小野 セキュリティは、「印刷物の取り間違いを防止する」、「誰が印刷したかわかる」といった段階から、少しずつステップアップしていけるわけですね。当社では、IDカードやパスワードによる印刷管理から、アクティブディレクトリ(Active Directory)やシンクライアントシステムとの連携など、いろんなステップに応じた提案ができます。また、FeliCaに代表されるICカードや指静脈などを用いた生体認証といったように個々のお客様に応じた認証デバイスも用意しています。我々メーカーが「これですよ」と押し付けるのではなく、お客様のニーズに合わせたセキュリティレベルを提供したい。また、将来へのステップアップを見越した上での拡張性のあるセキュリティソリューションを提供したいと思っていますし、実践もしています。

藁谷 私どもではコピー牽制、ログ管理、ICカードによる個人認証の三つでセキュリティ対応をしていますが、「導入を簡単に」という観点から現在、サーバーレスでの認証印刷導入を訴求しています。つまり、専用のサーバーを立てなくても、ICカード認証が運用できる方法です。セキュリティシステムはカシオ社内でも採用しており私も使っていますが、ICカードを導入したことで見られたくない書類の機密が保てるだけでなく、放置プリントが減り、無駄紙の削減効果が高いというメリットもあります。環境貢献の点でも大きな効果です。

石川 HPではプリンタにWebベースのセキュリティ機能を標準搭載しています。セキュリティはいろんなレベルがありますが、お金を使わないとできないという認識が強いのではないかと思います。この標準機能でも、まずは十分なセキュリティレベルを確保できると考えています。したがって、お金をかけずとも標準機能を使うことによってセキュリティ対策が可能ということを、もっと認知してもらえるようにしたいですね。とくにIT投資が限られる中堅中小企業様向けに、こうした機能提案を販売店様とともに進めていきたいと思います。

 さらに、セキュリティに対応した最新のネットワークプロトコルへの対応も、HPとしてはいち早く製品に搭載しています。たとえば、当社のお客様でも官公庁などからは「IPsec(インターネットで暗号通信を行うための規格)対応のプリンタはありますか」という問い合わせが多く寄せられます。このプロトコルレベルでのセキュリティは、企業では金融・証券系が先行していますが、こうしたネットワークプロトコル対応も十分な差別化要因になります。

天野 セキュリティというと、すぐにICカード連携といった話になりがちですが、当社も含めてメーカー各社はもう何年も前からセキュリティに関わる機能をプリンタドライバの中に標準搭載してきました。そうした点はWebなどを使って地道にプロモーションすべきと思います。自分のログインIDが強制的に印字されるだけでも放置プリントは減るし、個人的なプリントの抑止になりますから。

 もちろん大企業を中心として、プリントログ、複合機、入退室管理などを含めたセキュリティを、社員証を兼ねたICカードで統合的に実施したいというニーズもありますので、それにも当然対応しています。

藤川 ドキュメントセキュリティの価値は、セキュリティと情報活用にあると言われますが、そういう意味で私どもは「Operius」で文書の電子化、情報資産の活用に取り組んでいます。先ほど最適配置というお話をしましたが、弊社ではMFPだけでなく、LPも含めて、ICカードによるセキュリティ環境の統一化や、統一の課金システムによるコストの平準化が可能です。またリコーは、@Remoteによるリモートでの保守サポートに力を入れています。お客様のセキュリティ環境は維持しつつ、遠隔で機器の状態や利用状況を把握でき、故障の未然防止やトナーの自動配送等が可能です。これらを総合して、MFP/LPでのトータルセキュリティに対応しています。

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[グリーンIT]

省エネ技術を中核に環境対応

――次はグリーンIT、環境の問題についてです。洞爺湖サミットが開催されるということもありますが、08年はグリーンITがキーポイントかなと思います。グリーンITへの取り組みをお聞かせください。

藤川 リコーグループでは製品のライフサイクル全体にかかる環境負荷を、地球環境を維持できる範囲内に抑えることを目標に取り組んでおり、ものづくりの観点では、QSUという省エネ技術を開発しています。

 これは、省エネモードで待機していても使いたいときにはすぐに使える技術で、今後、これをさらに進化させながら商品ラインアップを充実させたいと考えています。もう1つは、そもそも紙を作ること自体がエネルギーを必要としているわけですから、無駄な紙を使わないようにしようということ。そのためには両面出力やペーパーレスでのワークフローをお客様に提案していく必要があります。こうしたことにより、使いやすさと省エネを両立しながら商品化を進めていく考えです。

天野 より一層の省エネ化は当たり前のこととして、使う素材や部品の環境対応もたいへん重要だと思っています。例えば当社が「C2250」で実現した鉛フリーもそうですし、富士フイルムさんと共同開発したバイオマスプラスチックスもそうです。当社はこれまで「EA-HG」という消費電力の少ないケミカルトナーを開発し、さらにこれを進化させた「EA-Eco」というトナーの開発も進めています。製品への搭載は少し先になりますが、実現すればさらに環境対応は高まります。もちろん製品の回収システムも、日本国内に限らず中国などでも積極的な展開を図っています。

石川 HPはプリンタの省電力設計技術の採用によって50%の電力削減を実現しています。これによって、93年度から05年度までに出荷したプリンタの総累計で410万トンのCO2を削減したことになります。この数字は、年間87万台の自動車の排出したCO2の量に相当します。

 グリーン調達に関しても、HPが監査したベンダーでないと承認しないといったガバナンスをきかせた調達に取り組んでいますし、エナジースターなど欧米の重要な国際的環境ラベルも取得しています。ものづくり以外でも、例えばMPS(ManagedPrint Service)による最適配置や関連サービス、運用管理ツールによる休日の電源自動オフなどによって、グリーン統制の実現に取り組んでいます。

藁谷 カシオはCSR企業ランキングで世界81位、国内17位と環境への取り組みを強化しています。プリンタに関しても現在、省電力化やウォームアップの短縮化などに注力しています。また消耗品については、カートリッジのリサイクル率を高め、商品に反映させる取り組みとして「回収協力トナー」を発売し、部品をリユースすることでお客様のランニングコストを定価ベースで下げるといったことも始めています。おかげさまでリユース率は非常に高まってきました。

小野 エプソンも全社的に環境問題に取り組んでいます。商品に関しては、環境配慮も性能の1つと考え、商品の企画段階からReduce(廃棄物の抑制)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)の3Rに配慮し、独自のリサイクルシステムを推進することで資源の再利用、循環型社会の実現に努力しています。

 ページプリンタに関しては、ドライバ機能の「割付印刷」や「両面印刷」の推奨、また、オンデマンド印刷を推奨することで、用紙使用量の大幅削減や無駄な印刷排除、印刷物の輸送経費削減などにつながることをお客様に提案していきます。

 また、もともとインクジェットは環境負荷の少ないプリンタですので、電子写真方式だけでなくインクジェットも併せてご使用いただくことで、環境配慮につながることをお客様にご提案していきたいと考えています。

[販社へのメッセージ]

協業してより有効な提案を

――最後にチャネル戦略、そして販社やディストリビュータへのメッセージをいただきたいと思います。

小野 エプソンはこれまで、どちらかというとプリンタ本体そのものの仕様を中心としたアプローチが強かったのですが、08年度はもっと具体的なソリューション、お客様に対してどのような問題解決が可能かを提案できるようなストーリーを積極的に展開したいと考えています。

 ページプリンタだけでなく、エプソンならではの豊富なプリンタラインアップを活かし、お客様の業務改善をどう支援するかのアプローチをしていきたい。また新製品もより多く提供することで、さまざまな提案ができるようにしたい。既存のチャネルはもちろんのことですが、業種ごとにノウハウをお持ちのSIer様との連携について強化したいと思います。

藁谷 カシオは、従来の戦略は継続したいと思っており、業種に特化したSIer様と取り組ませていただいています。

 これまでカシオの強みは、例えば普通のページプリンタでは印刷が難しい申告用紙や、あるいは逆に新聞販売店様が日々持ち歩くような水に濡れては困る紙へのニーズに定着温度やスピードをコントロールできるようにするなど工夫をしながら対応してきました。08年はこれをさらに進化させたい。そうしたソリューションを考えているSIer様はぜひカシオにお声をかけていただければ幸いです。

石川 先ほどのセキュリティもそうですが、標準搭載している機能をしっかりとした形でパートナー様にご説明していないという反省があります。そうした機能をきちんと説明していけばビジネスチャンスは広がる。例えば、セキュリティ意識が高いシンクライアントを使用しているお客様に対して、こういった機能を説明することで、単にプリンタの価格や仕様だけではない付加価値の訴求が可能です。このように、もっとパートナー様がお客様に従来と違った価値ある提案ができるような環境を一緒に構築していきたいと考えています。

 今、プリンティングビジネスの環境は大きな変局点を迎えています。このようななか、パートナー様と弊社の関係も新たな段階に進もうとしています。お互いのビジネスの拡大に向けて、弊社からもパートナー様にさまざまな提案をさせていただきますし、パートナー様からも率直なご意見をいただきたいと思います。

天野 プロダクトとしては、環境マネジメントとセキュリティが鍵になります。パートナー様も、そこにトータルなソリューションをフォーカスされていますので、その切り口のデバイスとして採用していただきやすいものづくりを進めています。

 ソリューション的な戦略は上記に加えて、ERPを中心とした基幹連携にも注力しています。サーバーベースコンピューティングのデファクトであるシトリックス様の「プレゼンテーションサーバー」との親和性を実現していますし、SAP様の「R/3」においてもバーコード出力や両面を可能にするユーティリティなどをご提供しています。セキュリティやERPに力を入れられているSIer様のソリューション提案に少しでもお役に立ちたいと思っています。また、ゼロックス本来のドキュメントソリューションについてもApeos連携を切り口にパートナー様へご提供していきます。

藤川 08年も魅力的な新製品を投入しますので、ぜひご期待ください。もう1つは、ここ数年続けておりますが、パートナー様に対するサポートプログラムやフォーラムも含めて、パートナー様が販売しやすい環境づくりを、一緒になって強化したいと考えております。

――長時間にわたり、貴重なご意見をありがとうございました

(週刊BCN 2008年3月17日号掲載)

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