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<セキュリティソリューション特集>「セキュリティ=保険」から「セキュリティ+付加価値」の時代に(上)

2008/10/13 19:56

週刊BCN 2008年10月13日vol.1255掲載

 「サブプライム住宅ローン問題」に端を発し、世界経済が混乱し始めている。日本経済は輸出に支えられているが、その基盤も揺るぎ始めている。景気の減速感が強まるなか、利益の最大化はすべての企業のテーマになり、「保険」に資金を投入する余裕がなくなってきている。これまでセキュリティは「保険」として扱われてきたが、こうした状況を考慮すると、セキュリティは「保険」から脱却し、新たな付加価値を提案していかなければならない局面を迎えているのだ。

生産性の向上やコスト削減にも寄与する「セキュリティ」

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景気回復傾向は続くか?気になる世界経済の影響

 内閣府の「国民経済計算」によると、2002年以降、実質GDPは伸長し続けている。07年第4四半期には565兆円を超える実質GDP値となっており、高い水準で推移していることがわかる。この経済成長は、海外の景気拡大に伴う輸出の高い伸びと、企業の収益改善に伴う設備投資の伸びに牽引されている部分が大きい。しかし07年には「サブプライム住宅ローン問題」「原油価格高騰」などの問題が発生し、その成長に大きな影を落とした。特に「サブプライム住宅ローン問題」はその影響が非常に大きく、08年には米証券大手リーマン・ブラザーズの経営が破綻し、アメリカ経済の減速という懸念が高まりつつある。世界の金融市場は大混乱の様相を呈しており、「世界恐慌」という言葉も聞こえ始めている。「サブプライム住宅ローン」に端を発した事象もこの影響に増幅され、世界経済の本格的な減速をもたらしつつあり、日本の輸出が大きく減少することが考えられる。

 また「原油価格高騰」は、ガソリン価格の値上げにとどまらず、窯業・土石製品、石油製品、パルプ・紙製品、出版・印刷、クリーニング、運輸、繊維工業など、幅広い業種に影響を及ぼした。中小企業庁・全国中小企業団体中央会・財団法人 全国中小企業取引振興協会などの「原油価格上昇による中小企業への影響調査」によると、06年9月には、(1)収益を大きく圧迫している=26.9%、(2)収益をやや圧迫している=49.8%、(3)収益への影響はほとんど無い=23.3%だった。07年11月には、(1)収益を大きく圧迫している=37.5%、(2)収益をやや圧迫している=55.0%、(3)収益への影響はほとんど無い=7.5%となっており、9割を超える企業の収益を圧迫していることが明らかになった。原油価格高騰によるコスト上昇分を自社の製品・サービス価格に転嫁することが困難な企業も多く、利幅が悪化している現状が浮き彫りになっている。

 02年より「景気が回復した」といわれてきているが、中小企業における景況感は大きく異なる。企業数の推移を見ると、01年には469万社あった中小企業数が06年には420万社まで減少している。廃業企業が非常に多いことがここからも明らかとなっている。

ITを活用し利益の最大化を

 利幅が悪化しているなか、コスト削減・生産性を向上し、利益を最大化させようとする動きは顕著となっている。これは、あらゆる中小企業の課題と言えるだろう。そこで注目されているのがITの活用である。

 ITは、PCの低価格化や通信環境の整備などに伴い、企業活動でも浸透している。ネットワークは企業の重要なインフラとなり、なくてはならない存在になった。また、インターネットは日常生活にも浸透し、インターネットを活用したオンラインショッピングなどの電子商取引も利用され始め、新たなビジネスの場としても期待されている。

 ITを活用すれば、業務プロセスの合理化や業務生産性を向上させることも可能だ。「2008年版中小企業白書」(中小企業庁)によれば、中小企業がIT活用により得られている効果として(1)業務プロセスの合理化=87.4%、(2)生産性の向上=67.6%、(3)コストの削減=65.1%、(4)ノウハウなどの明示化・共有化=62.0%、(5)省人化=61.3%――という結果になっている。

情報セキュリティツール導入でセキュリティ以外の効果も

 そのなかで課題となっているのが「セキュリティ」である。セキュリティ対策は、売り上げ拡大に直接影響しない。しかし、万が一のセキュリティインシデントを防止できるというメリットは大きい。一度でもセキュリティインシデントを引き起こせば、これまで培ってきた信用が揺らぎ、企業経営まで危ぶまれるケースもあるからだ。また、情報漏えい事故の場合、顧客や取引先にも多大な迷惑がかかり、その賠償に莫大な費用がかかるほか、その後のシステム強化などの投資も必須となる。

 実は、そのほかのメリットもある。経済産業省が08年7月14日に公開した「平成19年情報処理実態調査報告書の概要」によると、「情報セキュリティ対策のセキュリティ向上以外の効果」では、(1)顧客・取引先からの評価の上昇=25.1%、(2)業務効率や資産性の向上=14.8%という結果も出ている。この結果からも、情報セキュリティ対策の効果の広がりを実感している企業が多いということがうかがえる。

クリックで拡大 一方で、情報セキュリティ対策を阻害する要因のひとつに「手間・コストがかかる」という要因があるということが明らかになった。また「どこまでやらなければならないか、わからない」「実施する知識・ノウハウがない」という企業も少なくない。中小企業は、情報セキュリティ対策を施すことでセキュリティ+αといった明確なメリットがあるにもかかわらず、「手間・コスト」を嫌ったり、「知識・ノウハウ」の欠落から導入できないケースもあるようだ。

 情報セキュリティ対策ツールを提供しているベンダーも、このあたりの事情は熟知しているようだ。最近では「セキュリティ」を向上させるという本来の目的に加え、管理・運用コストの低減を実現したり、生産性を向上させるための機能を付加するケースも多い。

 例えば、情報システムの基盤的なソリューションとして知られるID管理であれば、認証基盤の強化に活用されるだけではなく、これまで管理者が手作業で入力していたユーザー情報の更新を自動化し、作業工数の低減も実現する。

 ネットワークインフラという切り口では、無線LANが注目されている。これまでは、無線LANのセキュリティが不安だからという理由で導入に二の足を踏んできた企業も多い。しかし、情報漏えいのリスクがほとんどない製品も提供され始めている。また、無線LANであれば、ケーブルの敷設も不要なので、工期の短縮と工事費用の大幅な圧縮にも寄与する。さらに、ワイヤレスネットワークを活用したVoIPなどの提案も可能となる。企業の多くは、内線用のPHS・携帯電話などを貸与しているが、無線LAN機能を内蔵した携帯電話を活用すれば、トータルコストの低減も実現する。また、インターネットビジネスを行っている企業の場合、Webアプリケーションファイアウォール(WAF)を導入するケースが増えている。WAFは、これまでエンタープライズ市場をターゲットとした製品しか市場に提供されておらず、中堅・中小企業では導入できなかった。最近では、SMB市場を意識した製品が数多く提供され、WAF市場も活性化している。

 クライアントPCについては、IT資産管理ツールやロギングツールなどの情報セキュリティツールが有効だ。これらのツールの多くは、セキュリティを向上させるという本来の目的に加え、新しい付加価値を提案している。例えば、フィッシングサイトへの接続を防止したり、掲示板やSNSを媒介する情報漏えいを防止する目的で利用されるWebフィルタリング機能を活用し、インターネットの私的利用を防止するケースもある。インターネットは、オンラインショッピングやエンターテインメント情報なども提供されており、本来の業務に無関係な情報にも容易にアクセスできる。社員のインターネット私的利用を防止するだけでも、生産性を向上させる効果が見込める。

 また、すべてのクライアントPCの情報を取得できるという機能を活用し、情報システムに「無駄」がないかチェックする機能を付加するベンダーもある。利用時間が極端に少ないクライアントPCや使われていないアプリケーションソフトウェアなどをレポートすることで無駄を省き、効率的に利用する環境を整えることができるだろう。

 一方で、情報セキュリティツールをSaaS・ASP型のサービスとして提供するベンダーもある。SaaS・ASP型のサービスであれば、管理サーバーなどを社内設置する必要がなく、それらの管理・運用をアウトソーシングできる。企業の課題である「手間・コスト」を最小限に抑え「知識・ノウハウ」がなくても実施できるソリューションだ。SaaS・ASP型サービスは、さらなる伸長が期待されている。特に専任の管理者を配置できない中小企業にとって、ITに関する知識が不要で利用できるサービス利用形態はニーズが高い。

 「セキュリティ」は、これまで「保険」にたとえられるケースが多かったが、セキュリティ以外の導入効果も明確になり始めている。さらに、企業システムを「安心・安全」に使えるという心理的な安堵感も得られる。セキュリティは、「防衛」のためだけでなく「攻め」のソリューションとしても活用できるのだ。「防衛と攻め」の両輪を提案に盛り込めば、チャンスは大きく広がるだろう。

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