Special Issue

<期待される企業像 2009>エフセキュア、日立情報システムズ

2009/04/27 19:56

週刊BCN 2009年04月27日vol.1282掲載

エフセキュア
Linux→Windows向け戦略で新たな成長路線に乗る

 フィンランドのセキュリティ対策ソフトメーカーであるエフセキュアの日本法人、エフセキュア(桜田仁隆・日本法人代表)は、今年5月で10周年の節目を迎える。同社は当初から、Linux対応のウイルス対策市場をターゲットとし競合他社と一線を画した戦略で急成長を遂げた。日本市場では、その地位を不動のものにしている。だが、さらなる成長を図るためWindowsクライアント向け戦略サービスをリリース。10周年を契機にこの領域でも市場拡大を目指す。特に、競合他社に先行して「SaaS型サービス」を積極化。今年は、販売促進施策で既存パートナーとの関係を深めつつ新しいパートナーを獲得する方針だ。


既存パートナーと土台作り 営業を業態別組織に変革

 日本法人は、1999年5月にフィンランドのアンチウイルスソフトメーカー、エフセキュアの現地法人として設立された。Linuxサーバー向けビジネスが主力である同社は「本社がLinux発祥地にあり、Linuxビジネスに関しては自信がありました。99年当時、国内Linux市場は数百%の成長を続けていました。日本法人はLinuxサーバー向けのビジネスに注力し、現在の地位を確立できたのです」と、桜田仁隆・日本法人代表は話す。

 日本法人はエフセキュアのグローバルビジネスで重要なポジションにある。調査会社ミック経済研究所の調査によると、国内Linuxゲートウェイ製品市場で35~40%ほどのシェアを占めていることからも分かる。

 桜田代表は昨年5月に就任した。「これまで成長軌道を辿ってきたのは、パートナー様やエンドユーザー様のおかげ。代表者が代わりパートナー様への方針が変わるのでは、と不安を抱かせないことに気を配ってきました」と、心境を語る。

 昨年は1社も新しいパートナーを獲得せず、既存パートナーとの関係を深めてきた。昨年10月には、社内の営業組織を再編した。ディストリビュータ、ハードメーカー、SIer、大手電機メーカーをパートナーに持つ。それまでエフセキュアの営業担当者は、1人でこれらのパートナーを掛け持ちで担当していた。だが業態が異なる分、要望も違う。例えば、ディストリビュータに最も重要なのは、見積や納品などのレスポンスタイムを早めることだ。ハードメーカーには、OEM(相手先ブランドによる生産)製品を開発するため、技術情報の提供が特に重要である。業態別組織にしたことで、担当者の専門性が深まり、各パートナーへの“攻める”営業で、提案力が高まると自信を見せる。

「サービス」提供会社へシフト 新たなパートナーでSaaS拡大も

http://www.f-secure.co.jp/estore/
 
消費者向け「エフセキュア アンチウィルス2009」。1ライセンスに付き、世界の子どもたちに疫病のワクチンを1本提供する試みは社員のアイデア。
 前述の通り、Linux市場のシェアは40%を占める。残り60%にビジネスチャンスが眠っているという。あと1~2年は、Linuxサーバー向けのビジネスが主役なのは間違いないだろう。だが、OS市場ではWindowsが寡占状態にある。セキュリティ対策製品の市場構成比から見ても、88%がWindows、Linuxはわずか9%ほどだ。桜田代表は言う。「Linuxサーバー向けだけでは、将来を見据えた時に成長の弧が描けなくなる」。Linuxサーバー向けを根幹としつつ、Windows向け製品を投入し、次の成長路線に乗る戦略を開始した。SaaS/クラウドコンピューティングが普及し始め、同社は「ソフトウェア」メーカー、「サービス」を提供する会社へとシフトを図る。既存のラインアップを見直し、日本市場のニーズに合致するSaaS型サービスに着目。ウイルス対策ソフトは、パソコンにインストールしたあと、繰り返し最新の定義ファイルを配信する。「それ自体がサービス業です」と、桜田代表は話す。SaaS型で提供することで、「付加価値の高いサービスを提供できるでしょう」(同)とメリットを強調する。それが「プロテクション サービス ビジネス(PSB)」のサービスである。特に、PSBでは、専用ポータルサイトを提供し、GUIをカスタマイズできるようにしたのが特徴。中小企業にはセキュリティ専門担当者やIT管理者が不足しているケースが多い。ウイルスやファイアウォールなどの統合的なセキュリティに加え、ポータルでウイルスの状況や侵入防護履歴を容易に見られる。日本経済の強さの源泉である中小企業にうってつけのサービスだ。

 

 同社はSaaSサービスを「売る」パートナー開拓を視野に入れている。「中小企業にサービスを提供できるISP(インターネットサービスプロバイダ)や、サービス事業に力を入れているSIerなどのパートナーを増やしたい」と桜田代表。既存パートナーにも、商機を生み出す材料になりそうだ。「クライアントビジネスはサーバービジネスに抵触せず、既存パートナー様にも扱いやすいと思います」(桜田代表)とメリットを語る。今後は次々と新しい施策を打ち出す方針で、桜田代表は「(10周年の)5月頃には発表する時が来るでしょう」と含みをもたせる。

 最後に桜田代表は、パートナーに向けメッセージを発信する。「パートナー様を大事にする会社としてパートナー様が求める製品づくりを本国へフィードバックしていきます。引き続き皆様の声に耳を傾ける会社でありたいと思っています」。

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