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<BCNランキング 09年 上期No.1>トップベンダーの施策・戦略を聞く 09年上期No.1企業の勝因は

2009/07/30 19:56

週刊BCN 2009年07月27日vol.1294掲載

インターコム
顧客の声を真摯に聞く

日本メーカーの強みを生かす

 BCN AWARD通信ソフト部門でナンバー1の常連、インターコム。2009年上期も、40%を超える圧倒的なシェアで1位となった。同社の高橋啓介社長は、「日本製ソフトを支持するお客様が増えている。今後もその期待を裏切らない、使いやすく、品質の高いソフトを作り続けていきたい」と話す。今後についても、「日本のソフトメーカーとして、お客様の声をよく聞いて、よりよいソフトを開発、販売していきたい」と表明する。

“安心”して使える「日本製ソフト」の指名買い

 「最近は、日本製ソフトを指名するお客様が増えている」と、インターコムの高橋啓介社長は、笑顔で話す。

 従来、パソコン用ソフトウェアは米国製の人気が高かった。しかし、事情が変わってきているのだ。「日本製ソフトを望むお客様が増えている理由は明確。米国に限らず、海外製ソフトはバグの修正を求めても、すぐに直してくれないからだ。『なぜ、修正しなければならないのか。このまま使い続けることはできないのか?』と言い返されることすらある。ユーザーの要望を即反映する日本メーカーの良さを認識するお客様が増えているのだろう」と高橋社長は指摘する。

 インターコムでは、日本メーカーの強みとして顧客中心を貫くと共に、「日本製ソフトが良いというお客様の信頼を裏切らないために、さらに高い開発力と、製品品質を保持していかなければならない」と高橋社長は表情を引き締める。

 製品品質管理のための専門部署を設け、ソフトに問題はないかどうかを厳しくチェックしている。「ソフトのバグが与えるダメージは以前よりも大きい。品質管理能力は、開発力と共にソフトメーカーには欠かせないものとなっていくだろう」というのが高橋社長の見方だ。

 自社の製品に絶対的な自信をもっている高橋社長だが、けっして楽観視しているわけではない。市場環境は日本のソフトメーカーにとって一層厳しいものになると捉えている。

 「特に厳しいのが、コンシューマ向けパッケージソフト。販売数量は昔から大きく変わってはいない。が、製品単価の下落で販売金額が落ちている。そのうえ、開発コストは以前に比べて上昇し、返品が当たり前となっているので、その分のコスト負担も増えている。ダウンロードのように新しい販売方法も登場してはいるが、まだまだボリュームは小さく、売り上げの柱とはならない」

 厳しい市場環境から、コンシューマ向けソフトから撤退する企業や、販売を他社に任せる企業も増えた。安定した収益が望める企業向けソフトの開発、販売に企業リソースを集中するソフトメーカーも出てきている。

ユーザーの厳しい意見を商品開発に生かす

 だが、「コンシューマ向けソフトをやめるつもりはない」と高橋社長は断言する。それにはいくつかの理由があるという。「コンシューマユーザーから寄せられる意見は、企業ユーザーの何倍も厳しい。メーカーがお客様の生の意見を聞く機会は案外少ない。厳しい意見は、今後の商品開発につながる貴重なもの」との認識が、撤退しない理由の一つとなっている。

 その一方で、収益を確保するために、「コンシューマユーザーだけが使えるソフトは作らない。コンシューマ、企業内個人、さらには企業全体で利用できるようなソフトを開発する」というのがインターコムの戦略だ。

 通信ソフト部門のナンバー1ソフトである「まいと~く FAXシリーズ」はその代表。店頭向けにはスタンドアロンで利用できる「まいと~く FAX 9 Home」、企業向けには「まいと~く FAX 9 Pro」、さらにサーバー製品「まいと~く FAX Server」、さらに大規模回線用「まいと~く FAX Center」と利用環境に応じて選択できる幅広いラインアップが大きな特徴となっている。

 しかも、「まいと~く」は、使いやすさに定評がある。「現在、当社では通信ソフト以外に、セキュリティ、ユーティリティと新分野の製品拡大を進めている。こうした新製品でも『まいと~く』のように、マニュアルレスで使えるソフトとすることを目指している」という。

 「使いやすく、品質の高いソフトを持っていれば、SaaSのようにオンラインサービス型のソフトが求められても、生き残っていくことができるだろう」というしたたかな戦略によるものだ。

 メーカーとしてのしたたかさを持ちながら、ユーザー第一主義を掲げていることこそ、インターコムの強さの秘密といえそうだ。




インターコム=http://www.intercom.co.jp/



エレコム
「製販一体」の商品づくりを指向

ラインアップを再考

 エレコムは2009年上期(09年1~6月)でマウスやキーボードなど7部門で販売台数シェアトップに輝いた。トップメーカーとしての“誇り”をかけ、商品コンセプトを再度見直したことが奏功。「顧客の心」を捉え、安定したシェアを獲得することに成功した。経済不況の最中にありながら、販売台数を堅調に伸ばすことができた要因を聞いた。

ラインアップ、さらに幅広く 新グラスト、“USB1円玉”が好評

 エレコムは、マウスやキーボードなどPC周辺機器のトップメーカーとして「デザイン、機能性、斬新さ」で、ユーザーの心に響く高機能な商品開発を続けている。その結果、2009年上期はマウス、キーボード、USB、スピーカ、ゲームコントローラ、10キーボード、携帯オーディオアクセサリの7部門でトップシェアを獲得した。しかし同社は、これで満足などしていない。2008年後半からは「本当に顧客のニーズに合致した商品を出せているのか」(福良卓二・商品開発部部長代理)と、トップメーカーとして追求すべき方向性を改めて見つめ直している。

 この考えに至った経緯はこうだ。「トップメーカーとして、本当にすべての顧客の要求に応えられる商品を出せているのか」(福良部長代理)。こうした社内から出た“アンチテーゼ”を受け、営業部門が得た定性・定量データと開発部門の「製販一体」で商品企画・開発や「売り場づくり」までもを再考しているのだ。

 同社は昨年前半、「卵のような形」をモチーフにした丸く膨らみのあるフォルムで手になじむ「エッグマウス(M-EGURシリーズ)」の新商品を投入し好評を得ることに成功した。マウスの標準機能である3ボタンに光学イメージセンサ方式を採用。改めてデザイン性・機能性・先見性を市場に示した。ただ、これらを含め「商品群が足りているか疑問があった。『お洒落だね!』という評価にとどまっていた。もっと毛色の異なる商品を出し、需要を創造したい」(福良部長代理)と、同社の改革は、細かい顧客ニーズに応える商品を出し「世に問う」ことだった。

 この改革の一環として昨年11月に投入したマウスが、ロングセラーを続ける無線版の「グラストシリーズ(MICRO GRAST)」の新ラインアップである。超小型「マイクロレシーバ」と高精度「レーザーセンサ」を搭載し、2.4GHz帯採用した2シリーズ16モデルだ。

 同モデルのレシーバーサイズは、USBコネクタを含めても“1円玉サイズ”の大きさに抑えられている。これがユーザーの興味・関心を一気に惹きつけた。また、レーザーセンサを採用し、従来の「LED(発光ダイオード)方式」の光学式マウスに比べ、コントラストの低い場所でも精度の高い認識率を誇り、LED方式で起こる「カーソルの飛び」を解消するスムーズな操作性を実現。福良部長代理は「同マウスは家電量販店の『売り場づくり』にも貢献するため、クリアパッケージを採用。商品特性の訴求を含め大ヒットになった」と、マウス全体のシェアで2位と6ポイント弱の差をつけることに成功した。

自作PC向けで初のデザイン・キーボード

 一方、安定したシェアを獲得するキーボードでは、新商品である薄型パンタグラフフルキーボード「TK-FCP004シリーズ」がヒットし、販売台数の伸長に寄与した。同商品のコンセプトは「薄さ、美しさを極めた超薄型キーボード」。高さ14.4mmの薄型コンパクトサイズに11種類の便利なファンクションキーを装備した日本語103キー配列のUSBフルキーボード。福良部長代理曰く、「商品企画・開発のストーリーはマウスと一緒」と、「自作PC向けの商品としてデザインを重視したキーボードはいままでなかった」と、ユーザー指向の追求は尽きない。

 USB関連では、今年1月下旬に16ギガのUSBフラッシュメモリ「MF-NWU2」など5シリーズの新商品を投入するなど、「デザイン性が競合商品に勝り、負ける気がしない」(福良部長代理)と、相次ぐニューバージョンの発売でシェアを獲得。今年3月には、「COLOR STYLE:U2H-ST4Bシリーズ」の“かわいい2モデル”USBバブを出し、カラーバリエーションの豊富さもユーザーに受けた。デザイン性重視の商品で、ハート型ヘッドホン「TIARA(ティアラ)3シリーズ」も女性に人気を博した。デザイン性はもとより、機能性や斬新さの追求は終わることはない。




エレコム=http://www.elecom.co.jp/

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