パブリッククラウドサービスの勢力図が大きく変わろうとしている。「IBM SoftLayer(SoftLayer)」が、世界の主要大手ベンダーが提供するパブリッククラウドサービスのなかで、唯一、ベアメタルサーバー(物理サーバー)を前面に押し出して、勢力を伸ばしているのだ。年内には、待望の日本初のデータセンター(DC)を開設し、日本市場でのビジネスを本格的に推し進める。SoftLayerが強みとするパブリッククラウドでのベアメタルサーバーには、いったいどんな優位性があるのだろうか。


IBM SoftLayer
世界主要都市にDCを開設へ

 米国テキサス州ダラスで2005年に創業したホスティング会社、SoftLayerは、2013年7月にIBMグループに加わってから、世界市場への進出のスピードを加速。米IBMは、今、SoftLayer事業のDCを含むクラウドDCを世界40か所に拡大する計画を進めている。現在のSoftLayerのDCは約20か所なので、2015年までにSoftLayerを含むIBMクラウドDCは一気に倍増することになる。こうした世界のDCの整備・増強とDC間を結ぶネットワークなどの関連設備投資に、IBMはおよそ12億ドル(約1200億円)を投じるという。

パブリッククラウド勢力図を塗り変える ベアメタルサーバーの優位性

●効率のいい「物理サーバー」が売り

 誰でも自由に使うことができ、利用料金が安いパブリッククラウドサービスに分類されるSoftLayerは、ITインフラ部分に相当するIaaS領域を提供するサービスだ。パブリッククラウドといえば、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなどが知られるが、SoftLayerには、こうした同カテゴリのサービスと決定的に異なる部分がある。それが「ベアメタルサーバー」を前面に押し出したサービスを売りにしていることだ。

 ベアメタルとは、物理サーバーを直接利用する方式のことで、コンピュータのパフォーマンス(処理性能)を最も効率よく引き出すことができる。開発した米SoftLayerが、もともと物理サーバーを貸し出すホスティング会社だったこともあって、ホスティングサービスのノウハウを、パブリッククラウドへ応用した。

 本来であれば、効率のよい物理サーバーをいつでも、どこからでも、安く入手・利用するのが理想だが、物理サーバーはそう簡単にはコントロールできない。そこで、サーバー仮想化技術によって、仮想サーバーをいつでも、どこからでも、安くオンラインで入手・利用できるようにしたところ、ユーザー企業に高く評価されるようになり、ある意味、仮想化技術はパブリッククラウド発展の原動力になった。ソフトウェアの塊である仮想サーバーのフットワークのよさは、物理サーバーにはなかった特徴だ。ただし、利便性が高い反面、パフォーマンスには限界がある。

●物理・仮想のいいとこ取り

 物理サーバーは、ホスティングサービスとして古くから貸し出されており、今でもホスティング会社は多数存在する。だが、仮想サーバーのフットワークのよさには遠く及ばないのが現状だ。ホスティング会社の物理サーバーを使おうとすれば、例えば、ホスティング会社の営業担当者から見積もりを取り寄せ、発注を確定させたのち、数日から数週間後にようやく物理サーバーが稼働。なかには「最低1年~2年間は契約してもらわないと困る」といわれるケースもあるという。

 ホスティング会社も、物理サーバーという「在庫」を抱える以上、1日、2日で解約されては採算に合わない事情がある。この点、仮想サーバーはオンラインで発注すれば数分後に稼働し、1時間単位で借りることができる。いらなくなれば、その場で解約してしまえばいい。

 SoftLayerは、このホスティングと仮想サーバー型パブリッククラウドのギャップに着目し、「物理サーバーのメリット」と「仮想サーバーのフットワークのよさ」のいいとこ取りをした。標準的な物理サーバーなら最短30分後から稼働し、セミオーダーのカスタマイズ込みの物理サーバーは4時間以内に稼働する。もちろん営業担当者を呼んで見積もりを出してもらったり、年単位で契約したりする必要はない。標準的な物理サーバーなら1時間単位、セミオーダータイプは1か月単位で借りることができる。パブリッククラウドの仮想サーバーの使い勝手、フットワークのよさを、物理サーバーに採り入れたのだ。

●スイートスポットは「4コア以上」

 仮想サーバーの利点はフットワークのよさにあるが、実は仮想化機構(ハイパーバイザー)を駆動するときに発生するオーバーヘッドロスが、パフォーマンスの足を引っ張る。また、ハードウェアをほかのユーザーと共有しているので、ほかのユーザーの仮想サーバーの負荷が高まったときに、自分の仮想サーバーのパフォーマンスも低下してしまう「道連れ現象」も無視できない。


 費用の面でも、ベアメタルはバランスが取れている。ベアメタル(物理)サーバーと仮想サーバーのパフォーマンスと月額費用を合わせた指標をみると、CPUコア数が1~3個の比較的小規模なサーバーだと、仮想サーバーのほうがよいケースが多い。しかし4~8コアになると、仮想サーバーと有意な差が出る(上図参照)。SoftLayerの1コア仮想サーバーの指標が15であるのに対し、4コアは10に低下。一方、4コアの物理サーバーは30を超える。パフォーマンスと月額費用のバランスが最もいいスイートスポットが、仮想サーバーと物理サーバーとでは異なるのだ。

 最初は小規模で始めたサービスが、予想を上回るヒットでユーザーが激増。仮想サーバーを増やし続ける……といったケースでは、パフォーマンスと月額費用の指標はどんどん悪化していく。CPU4コアを境に、仮想サーバーから物理サーバーへとシステムを移行し、オーバーヘッドロスを解消するのが理想だ。道連れ現象による不意なパフォーマンスの低下を未然に防ぐことにも役立つ。最も効率のいい物理サーバーを複数台用いて分散処理すれば、パフォーマンスとコストは劇的に改善する。

●セキュリティにも威力を発揮

 SoftLayerのもう一つの強みが、情報セキュリティだ。SoftLayerは、ユーザー単位で物理的にサーバーをもつことが可能だ。だから、万が一、不正アクセスなどが発生した場合、ファイアウォールを通過したログをユーザーが解析し、原因究明や対応策に役立てることができる。ほかのユーザーとファイアウォールを共有する一般的なパブリッククラウドに多い方式では、ほかのユーザーのログを開示するわけにはいかないので、原因究明が難しくなることがある。こうしたユーザー別の専用物理環境は、SoftLayerの大きな特徴だ。

 SoftLayerを含むIBMクラウドDCは、2015年に向けて実質倍になるため、世界の主要都市間のネットワークを拡充する取り組みが加速することになる。これはD2D(データセンター・トゥー・データセンター)ネットワークと呼ばれるもので、海外進出を推し進めるユーザーにとっては欠かせないサービス。海外でビジネスを立ち上げる際、セキュリティを担保しながら、最初は最小コストでスタートし、その後ビジネスが軌道に乗った段階で、利用サーバー台数を増やしていくのに適している。これまでは、海外で物理サーバーを確保するだけでも苦労したものだが、SoftLayerなら、オンラインで最短30分以内に手に入る。また、同時被災の可能性がほとんどない遠隔地にバックアップを取ることで、事業継続計画(BCP)や災害復旧(DR)にも役立つ。