Special Issue

日本IBM 真のハイブリッド環境を実現するIBM Bluemixイノベーションを実現する「バリュー」をクラウドで提供

2016/12/22 19:54

週刊BCN 2016年12月19日vol.1658掲載

 「コグニティブソリューションとクラウドプラットフォーム企業」を標榜する日本IBMが、いよいよクラウド市場の開拓に本腰を入れて乗り出した。狙いは、従来のクラウドベンダーが開拓できていない一般企業の基幹系システムのクラウド移行やハイブリッド環境によるデータ、アプリケーション連携など、本格的なエンタープライズのニーズだ。「IBMクラウド」が提供する価値、導入実績、販売戦略について、三澤智光・取締役専務執行役員に聞いた。

IBMクラウドの導入が進む大規模案件の獲得に手応え

三澤智光
取締役専務執行役員
IBMクラウド事業本部長
 「この3か月間で、日本でも多くのIBMクラウドの導入が進んでおり、大きな手ごたえを感じている」と三澤専務執行役員は強調する。

 日本のクラウド市場では今、AWSやMicrosoft Azureの存在が目立っている。だが、これまでのパブリッククラウドは、エンタテインメントやゲームなど、クラウドネイティブ企業のインフラとしての採用が多くを占めている。一般企業での本格的なクラウド活用はこれからで、そこに日本IBMは注力し、すでに実績をあげているのだ。

 クラウドネイティブ企業のクラウド利用は、IaaS、PaaS、SaaSという切り口である。一方、一般企業のクラウド導入はそれだけで完結できない。既存システムをクラウドに移行するにしても100%クラウドになるわけではなく、既存システムとクラウド上のデータやアプリケーションとの連携に、必ずハイブリッド環境が必要となる。そうした時にデータのロケーションをどうやってマネージするかという課題が残る。また、セキュリティポリシーについてもクラウドとオンプレミスをどう統合していくのか、アプリケーションのポータビリティをどうするのかといった点も問題となる。

 「当社は、ハイブリッドクラウドの重要性を提唱しており、こうした課題への対応にこそ、われわれの価値があり、得意とする分野」と前置きしたうえで三澤専務執行役員は、「パブリック、デディケイテッド、ローカルと、ユーザーが好きな場所にアプリケーションを展開し、マネージができる真のハイブリッド環境を提供できるのはIBMクラウドだけだ」と力説する。


 基幹業務のハイブリッドクラウド事例では、すでにJFEスチールが鉄鋼生産管理システムや経営管理システムなどの業務をJFEスチールの企業内クラウド「J-OSCloud」上に順次、移行させている。構築基盤に「IBM Bluemix Infrastructure(旧SoftLayer)」を活用し、ハイブリッドクラウド環境の実現を推進している。加えて、複数のインフラ管理を目的に「IBM Control Desk」を、クラウド・サービスの標準化と自動化を推進するために「IBM Cloud Orchestrator」を、それぞれ採用している。

 「現状、国内でこれほど大規模なハイブリッドクラウドの導入事例は見当たらない。他にも金融分野をはじめとして、さまざまな企業が大規模ハイブリッドクラウドの導入を検討している」と三澤専務執行役員はエンタープライズ分野での実績を示す。

基幹系システムやHPCにベアメタルは必須

 もう一つ、IBMクラウドが強みとするのがベアメタルだ。

 「ミッションクリティカルシステムのクラウド活用にベアメタルは必須。4大クラウドベンダーのなかでベアメタルをもっているのは当社だけであることから、独占ともいえる状況だ」と三澤専務執行役員は話す。

 HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)用途で選択する顧客が多い理由も、ベアメタルが寄与している。加えて、ゲーム系企業のプラットフォームとしての採用も増えているという。こうした企業のサービスは何よりもスペックを重視するため、最新GPUが利用できるベアメタルが必須となるのだ。

 また、2016年2月にはヴイエムウェアとの戦略的提携を発表した。これにより、VMware製の仮想化基盤をIBMクラウドで提供し、オンプレミスとIBMクラウドをシームレスに接続する環境を可能にする。現在のオンプレミスの仮想環境に変更を加えず、ハイブリッドクラウド環境を実現できる。しかも、東京のIBMクラウドに仮想環境をのせてしまえば、世界に50拠点以上あるグローバルのIBMクラウド・データセンター(DC)間の通信は無料で、どこへでも無償で移行させることができる。グローバル展開している日本のメーカーにとって、システム統一などに大きなメリットが生まれる。

 IBMクラウドで、VMware製ソフトウェアが稼働する顧客はグローバルで1000社以上。今回の提携によって、日本でも取り組みを加速させていく。「AWSも、ヴイエムウェアとの提携を発表したが、それが現実のものになるのは1年後だ。だが、当社はすでにレディになっている」と三澤専務執行役員は違いを強調。「こうした提携を急ぐのは、他のクラウドベンダーもベアメタルの必要性を認めていることが背景にある」と語る。

 また、IBMクラウドは後発である分、オープンな業界標準テクノロジーを積極的に採用している。そのため、クラウドのベンダーロックインがなく、オンプレミスやクラウド間との親和性にも強みがある。

これからはPaaS上のサービスが大きなバリューになる

 2016年10月には、SoftLayerの名称で提供していたIaaSを、PaaSのサービス名称のBluemixに統合して、「IBM Bluemix Infrastructure」として提供を開始した。これにより、SoftLayerのユーザーIDは統一され、すべての機能がBluemixのコンソールから呼び出せるようになり、PaaSとIaaSのレイヤを一体化して提供することが可能となった。

 「クラウドにおいて、コストとスピードの追求は、今やあたりまえとなっており、今後は、クラウドプラットフォーム上にイノベーションを実現するためのバリューをのせることが重要になる」と三澤専務執行役員は説明する。クラウドプラットフォームにおいて、IBMクラウドが差異化点としているのがPaaSであり、PaaSにのるサービスが大きなバリューというのだ。「アナリティクス、コグニティブ、IoTなどをプラットフォーム上にのせ、ソリューションとして提供していくことがIBMクラウドの最大のバリューになる」とアピールする。

 また、コグニティブの代表となるのが「IBM Watson」だ。すでに、Watsonの28種類ものAPIがBluemix上で稼働している。メガバンクや証券などの金融系企業が導入を進めていることに加え、今までIBMクラウドを扱っていないパートナー企業からも、Watsonの活用を望む声が多くあがっているという。

 さらに、Watsonを活用したユニークなクラウドビデオサービスの活用事例として保険会社の例をあげる。これは保険会社が台風などの被害を予測するため、ドローンを飛ばして被害にあった家の屋根を撮影。その画像認識をもとに被害の度合いを判断して、保険金の支払額を予測する使い方が、Bluemix上のサービスを組み合わせてすべて実現できるようになる。

オールインワンアプライアンス「IBM Bluemix Local System」

 日本IBMでは、Bluemixの拡販に向けて11月7日にアプライアンス製品「IBM Bluemix Local System」を発表した。アプリケーション環境の導入の自動化と簡素化を可能にする「IBM PureApplication System」とBluemixを組み合わせたプライベートクラウド向けの製品だ。

 既存のIT資産をパターン自動化によって迅速にクラウド化するプラットフォームとクラウド・ネイティブサービス、クラウド対応アプリを実行できるプラットフォームを1台で提供する。企業の技術資産を継承しながら迅速な開発と統一した運用環境を提供し、ビジネスの多様化や変化の要件に柔軟に対応できる。また、クラウド化においてセキュリティとコンプライアンスに関する重要な要件に対処するため、オンプレミスで保持しなければならない機密データやワークロードを抱える企業の課題にも対処できる。

 さらに、Bluemixの140を超えるサービスや、APIの一部も提供する。企業はこれらを組み合わせることでプログラミング工数を大幅に削減し、短期間で高機能なアプリケーションの開発と稼働が実現できる。

 このほか、販売チャネルの拡大として、VMwareのトップディストリビュータであるソフトバンク コマース&サービス(ソフトバンクC&S)と協業することも発表している。ヴイエムウェアとの戦略的な提携も含めて、「ヴイエムウェアで豊富な実績をもつソフトバンクC&Sとの提携によって、オンプレミスのVMware環境とBluemix Infrastructureとの親和性をさらに高めていく」(三澤専務執行役員)ことを狙う。ソフトバンクC&Sでは、提携に合わせて「Bluemix相談センター」をオープン。このセンターでは、Bluemix Infrastructureの販売を手がけるリセラー各社に向けて、製品・サービスに関する各種資料などの提供をはじめ、見積支援、営業やSE向けトレーニングプログラムを用意するほか、案件に対して最適なスキルをもつパートナー企業を紹介する。さらに、ヘルプデスク対応やOSパッチ適用などを行う運用・監視サービス(有償)を提供し、パブリッククラウドの取り扱いに慣熟していないリセラーもスムーズにクラウドビジネスを立ち上げられるよう支援を強化していく。

 三澤専務執行役員は、「既存システムのクラウド化を検討されているお客様とのビジネスを考えている方々にとって、IBMクラウドのバリューを活用してもらえば、IaaSの再販より魅力的なビジネスにつなげていくことができる。ハイブリッド、ハイパフォーマンス、ベンダーロックインがないというメリットをぜひ、アピールしてほしい」と力を込める。
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外部リンク

日本IBM=https://www.ibm.com/jp-ja/