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日本IBM 特別講演 コグニティブ・ビジネスの実現に最適なクラウド・プラットフォームとはイノベーションのためのプラットフォーム新生「IBM Bluemix」

2017/02/09 09:00

週刊BCN 2017年02月06日vol.1664掲載

 今やクラウドは、ビジネスへの本格的な活用が進むなかで、デジタル・イノベーションを実現するプラットフォームになろうとしている。「BCNフォーラム」の特別講演では、「IBM Watson」に代表されるコグニティブ技術、IoTやアナリティクスなど新しい技術を採り入れ、イノベーションをリードして新たな競争優位性を獲得していくための手法について、日本IBMの田口光一・クラウド・サービス事業部長が先進事例とともに紹介した。

クラウドは変革のための重要なプラットフォーム

田口光一
IBMクラウド事業本部
クラウド・サービス事業部長
理事

 イノベーションの一つの指標となる米国の年間特許件数の推移をみると、直近の5年間は例のない勢いで伸びている。その背景には、爆発的に増加しているデータによって、人間と機械の新しい協調やビジネスの再発明のチャンスの増加、そしてコグニティブ、IoT、クラウドなどのテクノロジーの発展によって、創造的破壊を引き起こすための障壁や経営資源の制約が低くなったことが挙げられる。

 IBMのコグニティブ技術を代表するWatsonは、2011年にクイズチャンピオンに勝ち、そのわずか5年後の16年には、東京大学の医科学研究所で不治の病と診断された患者のゲノム解析を10分で行い、診断方法を示して命を救うまでに進化している。「現在、Bluemixで利用可能なWatson APIは33種類あり、8万人の開発者、1万種類のアプリケーションをもつまでになっている」と田口事業部長は語る。

 クラウドインフラの進化も急速で、過去5年間にCPUは8倍、ネットワークは500倍、ストレージは1000倍になり、誰もがクラウド経由でスーパーコンピュータ並みの性能を活用することができる。加えて、クラウドサービスも従来のコスト削減からビジネスのスピードアップへと移った。そして今は、コグニティブ技術やアナリティクスを統合して、まったく新しいビジネスモデルやアプリケーションを試行/実証できるようになった。

 「クラウドは、これまでできなかったことを可能にする。今や、デジタル・イノベーションを実現するためのプラットフォームである」と田口事業部長は強調する。
 

トップ企業の3分の1は姿を消す情報の的確な選択はますます困難に

 さまざまな業界のトップ20社のうち3分の1の企業は、今後3年間でランキングから姿を消すだろうと予測する調査結果がある。過去にも創造と破壊は繰り返されてきたが、近年、そのペースが上がっているのは、前述のように新技術でビジネス参入の障壁が低くなったためだ。例えば、配車サービスのUBER(ウーバー)、宿泊サイトのAirbnbは自ら設備や施設をもたずにビジネスを成功させた創造的破壊者である。

 「こうした『破壊者たち』に共通するのは、古くからある業界やビジネスの課題をクラウドやコグニティブ技術を駆使して新しいユニークな方法で解決していることだ」と田口事業部長は指摘し、四つの事例を紹介した。

WayBlazer「Watson & Bluemix」活用事例

 旅行会社向けソフト開発会社のWayBlazerでは、WatsonとBluemixを活用してコグニティブ技術によって旅行関連の膨大なデータを収集しながら利用者の嗜好を学習、自然言語による質問に対して適切な旅行を提案するシステムを開発した。従来の検索エンジンとの違いは、全結果の表示ではなく、利用者との関連性の高さに応じてランク付けされた適切な結果だけを返すことである。

DENSOU TRADING DESK「Bluemix & Weather Company」活用事例

 アドテク(広告技術)企業のDENSOUTRADING DESKでは、IBMが買収したWeather Companyの気象データとBluemixを活用して、天候を考慮したリアルタイム広告入札プラットフォームを構築した。天候は、消費者行動に影響を与える2番目に大きな要因とされる。リアルタイムの気象データをピンポイントに反映させ、晴れの場所ではアイスクリームの広告、雨降りならスープの広告を表示することを実現した。

AERIALTRONICS「ドローン & コグニティブ技術」活用事例

 各業界に検査サービスを提供するAERIALTRONICSでは、大きな危険が伴う携帯電話の中継塔での検査作業を、高解像度のカメラレンズを搭載したドローンで行い、Watson IoTの画像認識APIのイメージ解析によって、検査データにもとづいたメンテナンスを助言するシステムを開発した。高所の中継塔の作業で年間数百件の事故が発生しているが、その防止に大きく貢献している。

WHIRLPOOL「Watson & IBM Cloud」活用事例

 白物家電のWHIRLPOOLは、IBMと共同でスマート家電の開発を進めている。WatsonとIBM Cloudを活用し、メンテナンスの必要性を自ら理解して故障前に知らせてくれる冷蔵庫や、洗剤が切れる前に自ら注文する食器洗浄機など、IoTによる顧客体験を最適化するための工夫が組み込まれている。

リアルタイム分析と可視化でリオ五輪で輝かしい成果を達成

 では、具体的にイノベーションをどう実現するのかとの問いに対し、田口事業部長は米女子団体自転車追い抜き競技チーム(USA Cycling)によるイノベーションの軌跡を紹介。「それまで同チームは世界5位で、目標とする世界選手権とリオ五輪での金メダル獲得には4.5%の記録向上を必要とした。11か月後のリオに向けて3%改善は何とか可能だが、残りの1.5%をどうするか。プロジェクトでは、それをテクノロジーで実現することを目指した」と説明した。ビジネスの世界に置き換えても有効性は理解できる。

 テクノロジーを導入したのはチームとしての戦略的テクニックの向上で、各選手のパフォーマンスの可視化とリアルタイム分析と結果のダッシュボード、選手へのフィードバックに取り組んだ。可視化には、ビデオ分析、ストップウォッチ、車載パワーローター、選手の肉体情報など複数ソースの異なるデータ処理が課題となる。従来は、練習後のチーム反省会の際、データ処理に4時間を準備に費やしていた。それを解消するため、Watson IoTを活用して包括的なダッシュボードを作成したのである。デザイン思考やアジャイル開発を採用し、Bluemixとリファレンス・アーキテクチャの活用によって短期間で開発。アナリティクスには、Apache Sparkを活用した。最終的に同プロジェクトは、世界選手権で金メダル、リオ五輪で銀メダル獲得という輝かしい成果を達成したのである。

単なる IaaS+PaaS を超える「Bluemix」のバリュー

 田口事業部長は、これまで紹介したイノベーションを実現するためのプラットフォームがBluemixであると話す。BluemixはPaaSで、先頃IaaSのSoftLayerをブランド統合したことで、IaaSからPaaS、さらに上位レイヤまでをカバーするようになった。講演では、「特徴は、Bluemixというコックピットから、Weather Companyのようなデータサービスの会社のソリューション、IBMの各クラウドサービス、APIを経由したサードパーティのサービスをワンストップで活用できることだ」とアピールした。

 Bluemixは、オープンソースのCloud Foundryをベースとするため、クラウドロックインを避けられることが他のクラウドサービスとの大きな違いだという。また、データ&アナリティクスや統合ツール、APIマネジメントがあらかじめ組み込まれている。さらに、33種類のWatson APIやIoT、ブロックチェーン、医療、ビデオなどのドメインサービスも実装されている。

 加えて、パブリッククラウド(共有型)だけでなく、IBMデータセンター(DC)でユーザーの専有環境を構築する「Dedicated」、ユーザーのオンプレミス環境にIBMが運用サービスを提供するプライベートクラウド「Local」が用意されている。これにより、金融機関などのセキュリティ要件や業界特有の規制要件にも柔軟に対応することができる。

 グローバルでは、全世界50か所以上のクラウドDCをもち、DC間は10Gの高速ネットワークで接続しており、DC間トラフィックはすべて無料だ。また、オンプレミスとの直接統合「Direct Link」も可能としている。

VMwareとの提携で利便性が向上一般企業のニーズを熟知する強み

 16年2月にはVMwareとの提携で、ベアメタル上にVMware環境を構築してサービスを提供。しかも、月額CPU課金のため、サーバーを集約すればするほど低コストになることも魅力となる。VMwareの環境をフルスタックでIBMクラウドで活用できるため、既存の技術やツールをそのまま活用でき、ハイブリッドクラウドの環境でシームレスな運用が可能だ。ソフトバンク コマース&サービスとの協業で、販売チャネルを強化。BluemixとVMware on IBM Cloudをワンストップで販売パートナーに提供することができるようになった。

 「IBMは、お客様がクラウドでイノベーションを実現するため、コンサルティングサービス『Bluemix Garage』を用意し、さまざまなアプリケーションの着想から、トライアル、実装に至るまでをご支援していく」と田口事業部長は強調する。最後に、IBMの三つの強みとして、クラウドネイティブ企業だけでなく、一般のエンタープライズ企業のニーズとワークロードを理解していること、Bluemixでデジタル・イノベーションを起こすことができる機能を取り揃えていること、Bluemix上で33種類のWatson APIをすぐにでも利用できることを挙げて、講演を締めくくった。
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外部リンク

日本IBM=https://www.ibm.com/cloud-computing/jp/ja/