いまから6年前の2011年、受託ソフト開発のビジネスを見切り、クラウド・サービスを提供する専業メーカーへと変身を遂げたチームスピリットが、成長を続けている。「働き方改革」プラットフォームと名付けられた勤怠管理、経費精算、工数管理、カレンダーなどの機能を一体化したクラウド・サービス「TeamSpirit」シリーズは、国内800社に導入、利用者(ID数)が10万を超えた(17年9月時点)。過去3決算期の収益(売上高)に基づく成長率のランキング「デロイト トウシュ トーマツ リミテッド 2017年 日本テクノロジー Fast50」では、成長率211.83%で8位を獲得した。「従業員が意識しなくても働き方のデータを収集できる」という独自のテクノロジーを備えているとはいえ、競合がひしめくなか、なぜ、事業を転換した直後から業績を伸ばすことができたのか。週刊BCNの谷畑良胤編集委員が、その秘訣を荻島浩司代表取締役に聞いた。

出資を受けてクラウドビジネス加速

 チームスピリットは、受託ソフト開発を主に展開していた会社で、大手SIerの請け負いとして金融機関向けの開発を行ってきた。約定書や契約書の管理システムやオペレーショナル・リスクを割り出すシステムなど、銀行特有の業務パッケージの受託開発を担っていた。そんな折、一部システムを当時流行の兆しをみせていたクラウド(SaaS)化することを検討し始めた頃から、荻島代表取締役は、クラウドビジネスに関心が向き始めていた。
 
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チームスピリットの
荻島浩司代表取締役

 クラウド黎明期の09年頃のことだ。ウェブサービスといえばASPを思い浮かべる人が多い時代に、荻島代表取締役は当時、クラウド型CRM(顧客管理)ベンダーとして注目を集めていたセールスフォース・ドットコムの門を叩いた。そしてすぐに、「銀行システムで使っている統計技術を生かした官公庁向けとして、一般競争入札の管理システムをクラウド化した」と、当時を振り返る。

 ただ、一般競争入札の管理システムは、いかにも市場が限られる。そこで荻島取締役は、「当社は『階層分析法に基づく意思決定支援システム及びそのプログラム』という特許をもっているので、これを人事評価システムに応用し、クラウド・サービスを展開できる」と判断。働く人の勤怠や勤務内容などのビッグデータを一つのプラットフォームにためて、分析できるクラウド・サービスを考案した。競合メーカーと異なる独自のサービスを完成させたのだ。

 とはいえ、受託ソフト会社が闇雲にクラウド・サービスを展開して、成功できるとは限らない。オンプレミス(企業内)の業務パッケージの収益モデルから脱せず、クラウドビジネスを軌道に乗せられないISVは少なくない。チームスピリットがビジネスモデルを転換できた理由について、荻島取締役は、こう述懐する。「11年10月にセールスフォース・ドットコムの出資を受けたことが大きかったし、クラウドビジネスをつくっていく同社の仕組みの恩恵を受けたことも影響した」。

レベニューシェア型がクラウド立ち上げを助けた

 クラウド・サービスの立ち上げには、いくつかのハードルが待ち構えている。クラウドのインフラとしてIaaSやPaaSを自社で構築するか、パブリッククラウド利用のためのプラットフォームを選択して、その基盤上で開発をする必要がある。クラウド・サービスで収益を得る前に開発コストなどの初期投資が発生してしまう。

 仮に、これらをクリアしてサービスが開始できたとしても、すぐに顧客が付くわけでもなく、投資対回収が長期化する可能性がある。このあたりのハードルをクリアするため、セールスフォース・ドットコムの仕組みは大いに役立った。「サービスのコンセプトやユーザーインターフェース(UI)などの開発に集中することができた」と、荻島取締役は、同社のクラウド・サービス立ち上げは、セールスフォース・ドットコムのプラットフォームなしでは不可能だったと話す。
 
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インタビューに応じたチームスピリットの荻島代表取締役(左)と週刊BCNの谷畑良胤編集委員

 TeamSpiritシリーズは当初、勤怠管理だけを無料、いわゆる「フリーミアム」としてリリースした。当然、この時点では投資を回収できない。だが、「無料版は、半年で数百件がダウンロードされた。実際に使われるかどうか不安が残るなかで、利用者から多くのフィードバックを得ることができた」(荻島取締役)という。このフィードバックを受けて勤怠管理だけでなく、経費精算や工数管理などの機能を追加し、有償版のスイート製品として展開を開始した。有償版をリリースするまでの間、開発工数にかかる人的コスト以外、インフラ関連の投資はほとんど行わず、クラウド・サービスをスタートできたわけだ。

 TeamSpiritは、「すべての企業に必要な機能」として、勤怠管理、就業管理、工数管理、経費精算、カレンダー、電子稟議、SNSの7つの機能が1プラットフォームにスイートとして搭載している。利用料金は、一人あたり月額600円。サブスクリプション・モデルだ。価格が安いだけに、すぐの投資対回収は難しい。だが、セールスフォース・ドットコムの場合は、レベニューシェア型のサービスメニューの「売れたら時に、その売り上げを両社でシェアする」という仕組みがある。つまり、売れるまではコストがかからないということであり、クラウド・サービスを始めるメーカーにとってリスクが少ない。

 TeamSpiritシリーズをリリースした当初、セールスフォース・ドットコムのクラウド開発プラットフォーム「Force.com」ネイティブのアプリケーションは少なかった。Force.com上で開発したアプリのマーケットプレイス「AppExchange」で、TeamSpiritシリーズは先行者利益の恩恵を受けただけでなく、製品コンセプトや品質のよさ、機能性などが評価されて、「AppExchange市場」で3年連続売上高No.1に輝くこともでき、一気に認知度を高めた。

将来はエコシステムを築く

 荻島取締役は、「TeamSpiritは、誰がどの程度働いているかを可視化できる。働き方改革の観点で労務管理やプロセスの見直しが進み、企業内で優先順位が上がったことから引き合いが増えている。TeamSpiritは導入企業のすべてで、ERPのフロントアプリケーションとして動いている。ERPのデフォルトのフロントアプリケーションは、とてもプアーだ。この部分をスクラッチで開発するのは大きな投資がかかるため、採用されている」と、企業規模を問わずに導入が進んでいることを強調する。

 とくに最近は、「大企業からの引き合いが目立つ」(荻島取締役)そうだ。大企業の場合は、セキュリティにリスクを感じ、パブリッククラウドに手を出しにくい。荻島取締役は、そうした大企業の担当者に次のように説明している。

 「例えば、AWS(Amazon Web Services)で展開するクラウド・サービスは、サービス業者がアプリケーションのメンテナンスを行い、セキュリティを担保する必要がある。だが、AppExchangeは世界の大企業の多くが採用しているほか、セールスフォース・ドットコムのPaaSはバックアップやセキュリティ対策をセールスフォース・ドットコムが実施し、サービス業者でさえもユーザーの許可なくシステムにアクセスできないような、高いレベルのセキュリティが担保されている。AWSなどに比べてアドバンテージがある」。

 チームスピリットは今後、セールスフォース・ドットコムのプラットフォーム上で動くアプリケーションを販売する専業メーカーとしての地位をより高めるほか、「セールスフォース・ドットコムが展開する『パートナー・エコシステム』にならい、TeamSpiritをプラットフォームとした関連他社とエコシステムを築く」(荻島取締役)ことを展望している。例えば、ICカードやBeaconを利用した勤怠の打刻システムを持つベンダーをはじめ、電子給与明細をスマートフォンに配信するシステム会社などとアライアンスを進めている。

 TeamSpiritは、最低利用期限が1年という契約形態のサブスクリプション・モデルだ。オンプレミス型の業務アプリケーションは、ユーザー企業への導入時に売り上げを計上できる。一方、サブスクリプション型は、月額課金制であり、徐々にストック部分が積み上がる。一定の顧客を獲得できれば、2年目以降の売り上げは計算できるのだ。

 荻島取締役は、「導入していただいた顧客の満足度に注力し、顧客の継続性を高めるだけで、安定した経営が実現できる」と強調する。アプリケーション自体の先進性は問われるとしても、セールスフォース・ドットコム上で低リスクで展開すれば、クラウド・サービスを立ち上げ、一定のビジネスにすることが可能だろう。