巨大な新市場を導くパラダイムシフト

 2020年は、あらゆる産業にとって事業環境の大きな変化への対応を余儀なくされた年だったと言えよう。法人向けIT市場にもパラダイムシフトが起こり、IT事業者は自らの役割や存在意義の再定義が必要な状況になっている。中堅中小企業向けの基幹業務システムパッケージ大手のオービックビジネスコンサルタント(OBC)と、グループウェアやクラウド業務アプリ構築基盤「kintone」を擁するサイボウズは、この歴史の転換点を大きな商機とすべく協業を強化する。両社のエコシステムがポジティブな化学反応を促し、日本の中堅中小企業のビジネスを抜本的に変えようとしているのだ。OBCの和田成史社長、サイボウズの青野慶久社長に、両社の取り組みとこれからのIT事業者に求められる役割を語り合っていただいた。

中小企業にも
大きなマインドチェンジ

――新型コロナウイルス感染症という大きなアクシデントにより他の産業と同様、IT業界も大きな影響を受けました。

青野 結果として、こんなに日本のデジタル化が叫ばれた年もなかったという印象です。中小企業のデジタル化というのは私たちが何十年も取り組んできたことで、ユーザーにとっては本来、投資対効果が非常に大きいんですが、説得するのが本当に大変でそれが一気に加速した年だったという手応えはあります。
 
サイボウズ 青野慶久 社長

和田 変化が加速したことについては同感ですね。在宅勤務が事業継続に不可欠だったという企業も多いでしょう。どこからでも業務にあたることができるようにするためには、クラウドをもっと活用しなければならないという意識が浸透しました。
 
OBC 和田成史 社長

 当社の商材では、バックオフィス業務周辺の従業員業務に関するプロセス改善を支援するSaaS商材「奉行クラウドEdge」が非常に伸びましたが、従来の主力である基幹業務ソフトの市場もオンプレミスからクラウドへの流れが一気に加速して、「奉行クラウド」が成長しました。半年で3年分の変化が起こったようなイメージです。

 新型コロナ禍のような大きな事業環境の変化に対応するために有効な取り組みとして、デジタルトランスフォーメーション(DX)にも改めて注目が集まっています。DXを見据えて柔軟かつ強いビジネス基盤をつくるという観点からも、基幹業務システムのクラウド化は必然だと考える企業は増えたのではないでしょうか。

青野 多くの人がこの1年、クラウド活用に取り組んでみて「やればできる」と思ったんじゃないかと感じていて。以前のように、オンプレミスでシステムを構築するのも大変、初期費用もすごく高い、というような時代ではなくなりましたから、ノートPCがあってクラウドサービスに申し込みさえすれば業務を継続できたり、生産性向上も手軽に実現できてしまう。中小企業で働いていて、クラウドのパワーを実感した人はものすごく増えたでしょうね。

情報系×基幹系の
真価が発揮できる環境に

――12月に奉行クラウドとkintoneのAPI連携を容易にする「奉行クラウド kintone連携用ツール」がリリースされるとうかがいました。

青野 ちょうど10年前の2010年にサイボウズはクラウドに舵を切ると宣言したんですが、そのときに描いていた世界がようやく実現したと思っています。オンプレミスのシステム構築はシステム間連携も大変ですが、クラウドはAPIをオープンにしながら複数のサービスがお互いにつながっていくという世界がつくりやすい。
 

 以前は基幹系システムと情報系システムには深い溝がありました。つながったら便利になるのに、両方を行ったり来たりしながら、みんな働いていたわけです。でも、両方がクラウドにシフトしたら、お互いがつながる世界に変わっていくと思っていて、その橋渡しをするところに新しい市場ができるだろうと考えていました。そこをカバーするために開発したのがkintoneなんです。

 kintoneは業務のフロントで利用するアプリの開発基盤でもあり、その意味では情報系システムそのものですが、基幹系の周辺もカバーするアメーバみたいな存在になるというイメージで機能を拡充してきました。10年かけてAPIをそろえて、デベロッパーも育ててきました。そしてようやく基幹系も本格的にクラウド化し、中小企業でもそれほどお金をかけずに情報系と基幹系をシームレスに連携することができる環境が整ったということなんだと思っています。

和田 青野社長がおっしゃるとおり、奉行クラウドとkintoneの融合が実現できたのは、まさに基幹系システムのクラウド化があったからこそなんです。

 OBCは近年、軸足をクラウドに移すべく、中小企業向け基幹業務ソフトをクラウドネイティブな形でゼロからつくり直しました。マイクロソフトのクラウドインフラ/プラットフォームへの開発投資を将来にわたって基幹業務に反映できるように、同社のテクノロジーを全面採用しました。操作性やパフォーマンス、セキュリティの面でもメリットが享受でき、APIで“つながる・ひろがる”世界も実現しやすくなりました。

 当社としては、自社の強みである業務ソフト領域に特化してリソースも集中できるようになりましたし、kintoneのような隣接領域で大きな強みを持つ製品と連携することで、ユーザー企業のニーズによりきめ細かく応えられるようになります。

――情報系と基幹系の融合の本質的な価値とはなんでしょうか。

青野 業務の生産性が圧倒的に上がります。

和田 DXの大事な要素であるアジリティの高い経営を支援できる情報システムという観点からも、API連携を柔軟かつ容易にできるようになることは大きな意味があります。大企業がかなりのコストをかけて実現していたことが、中小企業でも安価に実現できるようになるわけです。

青野 確かに、こういうシステム連携は大企業じゃないとできないと思っている中小企業は多いでしょうね。コストの問題もそうですし、スキルの高いITの部隊がないとできないという先入観もあるかもしれません。でも、ビデオ会議が昨今のWeb会議ツールの充実で企業規模を問わず導入されているのと同じように、コスト的にも技術的にも、随分ハードルは下がってきています。

 これからは、中小企業でもアジャイルにデジタル化を進めながら伸びていく会社が増えていくはずです。単にニッチプレイヤーになるということではなく、デジタルの力をフル活用して、規模は小さくても大企業に対抗できる存在感を発揮する中小企業がどんどん出てくるのを期待しています。

――これまでも奉行シリーズとkintoneの連携はできましたが、連携ツールで何が変わるんでしょうか。

和田 システム間のAPI連携には、APIでつなぐためのプログラム開発が必要でした。これが、システム連携のハードルを上げていました。連携ツールを使えば、ノンプログラミングでAPIをつなげるようになります。

青野 kintoneは現在、有料契約ユーザーが1万7000社ほどで、毎月500社以上増えています。一方で日本の基幹系業務ソフト市場のエースであるOBCさんもクラウドに大きく舵を切って伸びている。顧客基盤を確立している両社製品がAPIレディでつながるというのは、社会的なインパクトも大きいと思っています。両社のエコシステムも大きく動くでしょう。

 kintoneのエコシステムには多種多様なパートナーがいます。SIerだけを見ても、顧客の課題に寄り添うスタイルでアプリを開発し、ほかのSaaSとも連携させ、アジャイルにソリューション提案をして成長しているパートナーがたくさん出てきています。一方で、これからは彼らも基幹システムまで踏み込んで提案できないとバリューが出しづらくなっていくという課題意識がある。伝統的に基幹システムを手掛けてきたOBCさんのパートナーとkintoneのパートナーの化学反応が、そのブレークスルーになると期待しています。

和田 奉行シリーズのアドオン開発などを手掛けていたパートナーの2~3割は、既にkintoneを使ってフロントシステムをつくっています。両社のパートナーはこれまで質の異なるビジネスを手掛けてきましたが、エコシステムの融合は始まっています。

 当社のパートナーも、顧客の課題をしっかり把握した上で、クラウドサービス同士を柔軟に連携させてソリューションを提案しなければならないというマインドに変わってきています。kintoneのパートナーとの連携を広げていけば、両社のエコシステムはさらに急速に発展すると見ています。

顧客ごとの課題に寄り添った
提案に価値がある

――キラーソリューションになりそうな奉行クラウド×kintoneの具体例は。

青野 kintone上で関係者がコミュニケーションを取りながら営業案件を管理して、受注できたらそのデータを基幹の奉行クラウドに自動連携させて処理するとか、営業系と経理をつなぐというのはメジャーなシナリオです。ただ、組み合わせは無限であり、あとはパートナーがどれだけ顧客に合わせて面白いシナリオをつくれるかが問われるのです。それができないとクラウド時代の業務システムのビジネスは厳しい。ベンダー側が勝ちパターンを押し付けるのではなく、顧客に合わせて都度柔軟に課題を解決していくスキルが求められます。

和田 まさにコンサルするという姿勢が不可欠です。顧客1社1社の課題や事業戦略をしっかり把握し、無限の組み合わせの中から適切な製品をインテグレーションして、価値あるソリューションを実現する。それこそがこれからのITベンダーに求められている役割です。既存のビジネスでは、顧客の個別の課題に対して膨大なコストと労力をかけてアドオンを作りこんでいたわけですが、もはやそれは顧客にとってもパートナーにとってもリスクです。

――基幹システムのレガシーなビジネスをクラウドの活用により継続成長できるスタイルにシフトしようとするパートナーへの支援策は考えておられますか。

和田 パートナーのデジタルマーケティングを支援するプログラムを開始しました。パートナーの意欲やスキルを考慮した上で、それぞれのレベルに応じて支援を行うもので、オンラインでのリード獲得・育成、商談などを支援します。

青野 クラウドビジネスに慣れていないIT販社などにニーズが高いのは技術教育で、サイボウズはエンジニアではなくてもkintoneのエンジニアとして育成するプログラムに力を入れていて、この取り組みの裾野を広げることで、OBCさんとのパートナーエコシステムの融合も進めたいですね。

 情報系と基幹系が融合された世界には、新しい大きな市場ができつつあります。気づいた人には大きなチャンスがあるし、気づかない人はこれからどんどん辛くなっていくでしょう。この市場は掛け算で大きくなりますから、OBCさんと一緒に仲間をどんどん増やしていきたいと考えています。

和田 サイボウズさんとの協業が強化されることは非常に心強いです。クラウドへのシフト、そして情報系と基幹系の融合で生まれる新しい市場で、顧客に感動を与えられるようなソリューションを届けてくれるパートナーを協力して増やしていきましょう。クラウド時代の業務システムの新たなエコシステムを、サイボウズさん、両社のパートナー、OBCの三位一体でつくっていきたいですね。