クラウド・サービスも視野に
──設備を含めてオフィス全体を網羅するサービスというのは、ICT関連ビジネスを手がけるベンダーにとっては領域が広がりすぎるのではないですか。
山本 そうは思いません。ICTベンダーは今後、ICT関連ソリューションを提供するだけでいいという時代ではなくなりつつあります。そう考えるのには、理由があります。当社は建設関連の協議会に参加させてもらえるようになったのですが、参加して感じたのは、ネットワークインフラを含めたICTシステムは、今や建築物の一部になっているということ。つまり、オフィス全体を視野に入れなければならないということです。
また、各企業のICT関連に対する投資比率は全体の2~3割といわれています。そういった点でも、ビジネスとして、お客さんのオフィス全体を見渡さなければならないといえます。この厳しい環境も踏まえれば、狭い領域でビジネスを手がけているだけでは成長は難しい。お客さんの投資すべてを網羅し、オフィス最適化の実現を提案する。これが今、ICT関連ベンダーが行わなければならないことなのです。
──事業領域を広げる策として、クラウド提供などサービス型モデルの創造もキーワードの一つといえますが、この領域での取り組みは進めておられますか。
山本 当社がデータセンターを設置してクラウド・サービスを提供するなど、単独でビジネスを手がけていくことは考えていません。NECをはじめとしてグループ全体で取り組んでいることですので、当社の立場としては、現場力を生かしてグループで構築しているクラウド・サービスを、必要とするお客さんに対して提供する。そのようなビジネスを手がけていきます。
──クラウド・サービスを販売するということですね。
山本 その通りです。しかも、さまざまな切り口で提案できる。ネットワークインフラ構築との組み合わせた提案や、先ほど申し上げた「EmpoweredOffice」を含めた提供ができるのです。お客さんのニーズに対して、当社がクラウド・サービスを含めて、いかにサービス提供をハンドリングできるかをポイントに、拡販を図っていきます。
──ユーザー企業の全体最適化を図るため、現場を把握していることに加え、さまざまなサービスを組み合わせて提供するのですから、コンサルティングも必要になってきますね。
山本 その点は課題かもしれません。ネットワーク関連の構築と保守の会社としてスタートしたわけですから、コンサルティングも手がけるとなると、さらに専門の人材を育成しなければならない。現在は、本社主導で各地域に指示を出している段階ですが、将来的には各地域にオフィス改革をコンサルティングできる人材を配置します。これを実現すれば、どこにも負けない企業に変貌すると確信しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
NEC時代、ネットワーク関連事業に長く携わり、しかもコンピュータ分野の事業本部長を務めた経験をもつ。現在はNECネッツエスアイの社長として、NI(ネットワークインテグレーション)の革新を推進しようとしている。NECグループで掲げているITと通信の融合を見据えたコンセプト「C&C」に精通した人物だ。
「ICTベンダーとして進むべき方向」を試行錯誤し、行き着いた先が「オフィス全体の改善を図るサービス」の創造だ。同社は設立当時、通信工事に専念し、ネットワークインフラの構築まで手がけるようになった。そして今は、ICT関連システムを建築物の一部と捉え、事業領域を広げようとしているのだ。「ICTを利用するユーザーにとっては、コンピュータやネットワークがどうであるかは重要ではない」との考えからだ。事業領域を広げたうえで、「国内ネットワークSIerとしてのナンバーワン」を目指す。(郁)
プロフィール
山本 正彦
(やまもと まさひこ)1947年10月13日生まれ。三重県津市出身。70年3月、京都大学工学部電子工学科卒業後、同年4月、NECに入社。ビジネス通信や交換移動通信など通信関連の事業に携わったほか、ネットワークシステム事業やブロードバンド事業などで指揮を執った経験をもつ。04年4月、執行役員常務に就任し、05年4月には第二コンピュータ事業本部長を兼務する。06年6月、NECネッツエスアイ社長に就任、現在に至る。
会社紹介
NECネッツエスアイは今年度(2010年3月期)の上期、売上高が992億4300万円(前年同期比13.8%減)と減収、利益面でも営業利益32億4000万円(21.6%減)、経常利益33億4400万円(25.0%減)、最終利益19億2200万円(22.6%減)と減益。企業の投資抑制で、主力事業のネットワークインフラ構築が大幅に落ち込んだことが要因という。通期も減収減益を見込んでいるが、事業領域の拡大で挽回しようとしている。