真のパートナーシップ構築へ
──通信事業者を顧客とするビジネスが中心だったのを、エンタープライズ向け製品の市場投入など顧客層を広げていますが、うまくいっていますか。
細井 エンタープライズ分野で通用しているかといえば、現段階は道半ばです。ただ、通信事業者向けに提供している「キャリアグレード」の製品は確実に普及する。経験に照らしていえば、サン・マイクロシステムズ時代に研究所を中心に顧客を開拓していたのですが、これがヒットして一気に顧客層が広がった。研究所は先進性や堅牢性を追求した製品を導入する傾向が強く、その領域で通用する製品なら大丈夫と、一般オフィスでも導入意識が高まったからです。このような形でエンタープライズに進出した経験は、当社にも当てはまる。実際、金融機関を中心に導入実績が出ている状況です。
──ただ、エンタープライズ市場は競争が激しいといえますよね。競合に勝つための策はあるのですか。
細井 確かに、巨人のシスコシステムズがエンタープライズ市場で高いシェアを握っているので、なかなか入り込めないとの見方もある。しかし、当社はエンタープライズ市場で「チャレンジャー」なんです。ですので、まったく戦い方が異なります。細かいところで負けたっていい。大型案件の受注など全体で勝てばいいのです。他社と真っ向から勝負するというよりも、確実に案件を獲得することに力を注ぎます。
──競合とは異なる戦略でビジネスを手がけるということですが、サーバー領域に進出するなど、領域を広げるという戦略はないのですか。
細井 その点については、各分野で強いメーカーと協業したほうがいいと判断しています。サーバー分野では、このほどワールドワイドでIBMやデルなどとの提携を実現しています。コンピュータとネットワークの両分野を網羅した“総合デパート”でビジネスを手がけるよりも、ネットワーク分野の“専門店”でありたい。顧客に最適な製品・サービスを提供する点では重要なことだといえます。
──エンタープライズ市場での地位など、目標はありますか。
細井 通信事業者向けのビジネスでは知らない人がいないほど当社の知名度は高いと自負していますが、エンタープライズ分野でも、通信事業者向けのビジネスに準じたポジションを獲得したい。これが当面の目標ですね。
──エンタープライズ分野でのビジネス拡大となると、販売代理店とのパートナーシップ深耕なども重要になってきますね。販売面の強化策は。
細井 当社では、販売パートナーとの協調関係を「エコシステム」と呼んでおり、いかに最適な製品・サービスを最小限で提供できるかということを追求しています。販売パートナーとは、3年後など将来的なビジョンを通じて協業していこうと考えています。例えば、「5%の成長を目指す」などといった、ちっぽけなビジョンしかもっていない販売パートナーとは、一緒にやっていこうとは思いません。お互いのビジョンを分かち合い、当社が販売パートナーに対して全力で支援していく。そういった関係を築いていきます。
──メーカーが提供する販売代理店に対する支援制度として、ディストリビュータやインテグレータなどを分類するというケースが多い。そのようなことも考えていますか。
細井 今は、そのように分けてはいません。最初の半年間は慎重に見極めようと思います。というのも、販売パートナーを区分するというのは、メーカーのエゴに過ぎないと思うからです。販売パートナーとは、顧客が何を求めているかの情報などを共有し合い、当社の製品と販売パートナーのノウハウを生かし、どれだけパイを広げられるかをポイントに置きます。その際、顧客に提供していく場合に、販売パートナーを区分する必要があれば、支援制度の改善などを図っていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ネットワーク業界で長くビジネスに携わり、コンピュータ業界でも業務に従事した。しかも、映像関連にも精通している。細井氏は、ICT関連で知らない業界はないというほど多彩な経験をもっている。そのなかで「すべてがネットワークを中心に動いている」と判断、「(経験が長いという面でも)ネットワーク業界に骨を埋める」と、ジュニパーネットワークス社長になることを決意した。
気さくで、「“変化球”のような会話は嫌い」と真っ直ぐな性格だ。取材ではストレートに質問し、それに正直に答えてもらった。販売代理店とのパートナーシップについて尋ねても、「販売代理店だけがビジネスを手がけているのではない」と発言。もちろん、「当社が1社で製品を提供しているのではない。だからこそ、お互いのビジョンの一致が重要」と断言する。真のパートナーシップを追求しているのが印象的だった。(郁)
プロフィール
細井 洋一
(ほそい よういち)1977年3月、慶応大学法学部卒業。79年、Colby College経済学部卒業後、バイテル・ジャパン(現・エクスパダイト)入社。88年、同社の社長に就任。92年、日本サン・マイクロシステムズ(現・サン・マイクロシステムズ)に入社。常務執行役員として、さまざまなビジネスの指揮を執る。04年、日本SSAグローバルの社長に就任。06年、ハイペリオン社長に就任。日本オラクルとの統合を経験した後、07年にエヌビディア日本代表兼米本社ヴァイスプレジデントに就任。09年11月、ジュニパーネットワークス社長に就任。
会社紹介
通信事業者などサービスプロバイダ向けにネットワーク関連の製品・サービスを提供するメーカーとして、ワールドワイドで名を轟かせている。日本法人は2002年から大須賀雅憲氏が長きにわたって社長を務めていた。ところが、突然の退任で、今年4月から10月まで社長を米国本社の幹部が兼任。日本市場に専念するトップが不在のままの状態が半年ほど続き、09年11月、細井洋一氏が社長に就任した。