「クラウド」を切り口に事業拡大へ
──「選択と集中」を実施してきたわけですが、今後はICT関連事業がポイントですか。最近はクラウドサービスにも力を入れていますし…。
矢野 そうなんです。2010年はクラウドを切り口に、さまざまなビジネスを手がけていく。仮想化などのテクノロジーや、NGN(次世代通信網)やWiMAXなどのネットワーク環境の進化とともに、顧客の考え方も変化しているからです。ユーザー企業は、主要業務への集中を要望しています。自社利用のシステムやアプリケーションに関しては、専門家に任せるということです。
──他社もクラウドをベースとしたビジネスの拡大を図ろうとしていますが、違いは何ですか。
矢野 グーグルなどが提供するクラウドとまったく異なっている点は、当社は法人をユーザー対象と捉えていることです。業務で利用するわけですから、絶対に停止してはいけない。そのような環境を構築できるのが当社の強みです。また、「パブリック」とは異なった「プライベート」で基幹システムのクラウド化も他社とは違う点です。
法人を対象としたクラウドの提供については、富士通や日本IBMも取り組んでいる。そのようなベンダーとは何が違うのか。それは、「C&C(コンピュータ&コミュニケーション)」を掲げ、結果的にこれまでもクラウド時代に適応したビジネスを手がけてきたという点です。当社は、サーバーなどコンピュータ関連機器とネットワークを通じたコミュニケーション関連機器を製品として揃えている。他社とは一線を画したビジネスが展開できるということなんです。
さらに、クラウド時代に備え、当社も社内システムのクラウド化を進めています。実際に自社で利用してみて分かったんですが、ビジネスプロセスを変えないとクラウドは有効活用できない。実地でコンサルできることも強みになると思います。
──メーカーがクラウドのサービスを提供するのは、販社にとってメリットになるのですか。サーバー販売がメインの販社は、ビジネス転換に悩んでいるところが多いようですが…。
矢野 それぞれの販社が解決できるような支援策を講じていきます。例えば、電算センターはデータセンター(DC)を使ってサービス提供する点ではクラウド時代に近いビジネスモデルです。このような販社に対しては技術面で支援します。
SIerはどうか。最近では、不況の煽りを受けてSIで案件が獲得できないとの声が挙がっていますから、アプリケーション提供などで当社のDCを活用してもらいたい。
最も厳しいのは、サーバーやパソコンなどを卸しているベンダーです。ただ、このような販社もハードとソフトのパッケージ化などを行っていますよね。お客様が必要とするものを把握しているということです。ですので、クラウドの卸事業を行うことが望ましいのではないでしょうか。サービスを売るわけです。
PBX関連の販社は、企業のNEC販社である以上、UC(ユニファイド・コミュニケーション)などアプリケーションとIP関連機器を組み合わせて売ってほしいと考えています。
──ただ、課金制など、これまでとは売り上げの計上方法が異なりますよね。
矢野 すべてがクラウドになるとは限らない。つまり、クラウドを“弾”の一つとして捉えて欲しいのです。
──販社を捨てるわけではない、と。
矢野 全力で支援します。また、SIer業界は再編が続いていますよね。そういった意味では、販社同士の統合を仲介することも模索します。
──海外展開については?
矢野 中国をはじめとしてアジア地域の事業を伸ばしていくほか、今後は欧州に力を入れていきます。例を挙げれば、スペインでは通信事業者のDC構築が進んでおり、テレフォニカとの契約が決まりました。ネットワークが遅いといわれている欧州で、ITとネットワークを知っている当社を評価してくれたのです。このように通信事業者向けサービスを拡充していきます。
──海外企業の買収は考えていますか。
矢野 虎視眈々と狙っています。ただし、買収先やタイミングなどは慎重に考えていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
矢野社長への新春インタビューは、今回で3年目となる。09年は「ビジョンの策定に費やした」ため、夢の世界で話している雰囲気があったが、今回は違う。方向性を大きく変える「選択と集中」を行ったからだろう。09年と比べ、進むべき道筋が明確になったようだ。
2010年は「クラウドを切り口に、さまざまなビジネスを手がけていく」と、サービス型モデルの拡大策が話の中心だったので、逆にハードはどうするのか気になった。そこで、国内市場が縮小していることも踏まえて、サーバービジネスについて「今後、トップシェアにこだわるのか」と聞いてみた。答えは、「もちろん意識する」。すべてがクラウドになるわけではない。しかも、他社もサーバービジネスに力を入れている。クラウド時代のなかでも、王者に君臨している機器は「絶対にトップを死守する」と、力を込めて話していたのが印象的だった。(郁)
プロフィール
矢野 薫
(やの かおる)1966年4月、NEC入社。85年11月、NEC AMERICAに出向。その後は、伝送事業本部長や取締役支配人、NEC USAプレジデントを経験する。99年6月、常務取締役に就任。NECネットワークスカンパニー社長や取締役専務などを経て、04年6月、代表取締役副社長に就任。執行役員制にともない、05年3月に代表取締役執行役員副社長。06年4月、代表取締役執行役員社長に就任し現在に至る。