中堅向けビジネスはむしろこれから
──冒頭、組織改革について、「やることはやった」とおっしゃっていました。以前からSE子会社を再編するという話があったと思いますが、これについてはいかがですか。
間塚 地域ごとにSE会社を統合したことが過去にあります。それ以上の再編が今後あるかどうかは検討段階です。ただ、「いつからこんな形で」という結論はありません。私自身は集約することが最良の策と考えているわけではなく、地域ごとの要望に即して俊敏に提案できる体制も必要だと思っています。
──富士通の子会社は、上(本社)の方針に従わない硬派と聞いたことがありますが…(笑)。それが本当なら、集約も必要なのでは?
間塚 以前は、各会社が自立してどんどんやれという時期がありました。ただ、それが本社の方針に従わなかったというわけではありませんし、今は当然、そんなことはありませんよ。
──そうすると、富士通の組織改革は一段落した、と?
間塚 いや、中堅企業向けビジネス体制についてはこれからです。
──その点については、09年5月、富士通ビジネスシステム(FJB)に中堅企業向けビジネスの営業と商品化機能を移管すると発表したはずですが…。
間塚 確かに発表しましたが、実をいうと、少し遅らせています。景気が悪い、このタイミングで実行することが本当によいことなのかと思ったからです。移管とひと言でいっても、担当者の変更などでユーザーに混乱を与えたり、手間をかけてしまったりしかねません。ただでさえ商談数が減少しているのに、そんなことをしていたら獲得できる案件も失いかねません。ビジネスはヒトとヒトとのつながりですから。中堅企業向けビジネスの体制づくりは、これからが本番です。
──このインタビューのまとめとして、長期的にみて、富士通が理想とする姿を教えてください。
間塚 最近では、ヒューマン・セントリック・システムと言い始めていますが、ICTを活用することで、個人や企業、社会をもっと豊かな社会に変えていきたいと願っています。
例えば、医療・介護の分野では、個人の生体情報をウエラブルセンサーがデータセンターに発信し、その情報をもとに万一体調を崩した職員が出た場合は、電話をしなくても救命隊員が駆けつけるような。農業では、これまで勘と経験に頼っていた部分をデータ化するなど、いろいろな形でICTが貢献できると思っています。それを富士通はお手伝いしたいと思っています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
本紙の新春号特別インタビューとして、富士通は2008年には黒川博昭・元社長、09年には野副州旦・前社長、そして2010年に間塚道義会長兼社長に登場いただいたことになる。毎年違う顔ぶれとなったが、3人に共通した経営方針がある。それが、「顧客の業務を理解したうえでICTを提案する」ということ。ユーザーの業務を知り尽くさなければ、ITを売ることなどできない――。3人のトップはそう語り、それぞれの業種・業態の業務知識をSEや営業担当者が身につけることに時間を費やしてきた。この方針は受け継がれている大切な信念なのだろう。
突然の社長就任で、しかも「就任会見時に次の候補者選びを始める」と話した間塚氏。たぶん1年以内に社長の座を譲るのは確実で、富士通の長い歴史のなかでも特異な経営者になるだろう。しかし、暫定社長であっても、強力・豪腕の雰囲気は前トップの両氏以上。厳しい環境に立ち向かう覚悟を感じた。(鈎)
プロフィール
間塚 道義
(まづか みちよし)1968年4月、富士通ファコム(現・富士通エフ・アイ・ピー)入社。71年、富士通に転籍。01年、取締役。02年、執行役。03年、経営執行役常務。05年、取締役専務。06年、代表取締役副社長。08年、代表取締役会長。09年9月、代表取締役会長兼社長に就任。