業種展開にクラウド組み込む
──もう一つのクラウドは、競合他社でも力を入れている領域です。独自色をどう出し、勝ち残る考えですか。
橋本 クラウドでも、徹底的に業界をリードしていきたいという気持ちは変わらない。日本IBMの強みは、「パブリック」と「プライベート」の両面できちんと提案できることが一つ。また、世界中の事例をもっていて、「クラウドに向いた業務」がだいぶ分かってきたということ。当社には、そのノウハウが他社より多くあるということです。向いた業務を抽出して営業展開していきます。
──徹底的にリードするノウハウがすでに蓄積されているということですか。
橋本 コンシューマから出てきたクラウドではなく、エンタープライズ(企業向け)向けのセキュアなクラウドをやっていきたい。そのベースになるのが、先ほどのアウトソーシングの事例です。当社では、150件以上の重厚長大企業の基幹システムを中心にアウトソーシングしていますが、それをクラウド化するノウハウがある。それにより、コストがどう変動するかの先例を多くもっていることは、他社との比較で強みになるでしょう。
当社では「クラウド=仮想化」と捉えています。企業システムを仮想化、自動化、標準化を三点セットで提供できるんです。他社のクラウドは、IAサーバー上で動いているケースがほとんど。当社では、UNIXやメインフレームなどマルチ環境で提供できます。さらに、全世界でクラウド環境をお見せできる「クラウド・コンピューティング・センター」があり、09年8月には日本でも世界で5番目のセンターを東京・晴海に新設したことは差異化になります。いよいよ2010年はアクセルを踏みますよ。
──具体的には、どんな体制でどうアクセルを踏みますか。
橋本 09年7月には、クラウド専任組織を約10人で立ち上げていますが、この組織を拡張するのが一つ。もう一つがすべてのインダストリー(業種)のソリューションにクラウドの要素を取り入れる。大企業から小企業の対象まで、クラウドを業種別に組み込み、いよいよクラウドが「普通のソリューション」に組み込まれる時が来たということです。それと、営業組織とスキルを徹底的に見直します。
眼光紙背 ~取材を終えて~
昨秋にBCN主催で開いたゴルフコンペ「中島杯」で、橋本孝之社長のプレーぶりを拝見した。スコアは振るわなかったが、ドライバーはまっすぐ飛び、実に素直なスタイル。柔和な笑顔を絶やさず、周囲を和ませる“術”を身につけている。
正直、売上高1兆円で、これだけの大人数の社員を抱える大企業のトップに立つ人物とは思えないほど、気さくで近寄りやすい。だが、橋本社長がこの1年間に行ってきた「改革」は大胆で、決断も速い。
慎重な姿勢の本人が「成果が出た」というのだから、この1年間にクラウドをリードする体制は整ったのだろう。クラウド主流になれば、チャネルとの関係が微妙になる。そこをどう舵取りするのか注目したい。(吾)
プロフィール
橋本 孝之
(はしもと たかゆき)1954年7月9日、愛知県生まれ、55歳。78年3月、名古屋大学工学部卒業。同年4月、日本IBMに入社し、ゼネラル・システムズ西日本名古屋営業所に配属。90年には、米IBMへ出向。帰国してからは、93年1月に東京首都圏営業統括本部・第二営業部部長に、96年にAS/400の製品事業部長に就任した。その後は、ゼネラル・ビジネス(GB)事業の責任者を歴任。03年4月には、常務執行役員BP&システム製品事業担当に就任して以来、常務、専務と取締役を歴任し、09年1月から代表取締役社長。