ビジネスの立ち位置は変わらない
──オフィス全体への顧客の要望も変わってくると思いますが、どう変化するとみておられますか。 大塚 中堅企業クラスでは、省エネ法の準拠やコスト削減、労務管理もコンプライアンス(法令順守)が求められてきます。会計基準の改正や、EDI(電子データ交換)を含めた企業間連携などサプライチェーン上の回線の見直し、アドレスの枯渇が迫るIPv4からIPv6へ通信環境が変わるなかでの見直しといったことが必要になってくるでしょう。
──ところで、コンピュータ側のパソコンやサーバーなど、ハードウェアの取り扱いは、どうなりますか。
大塚 なくなりはしないでしょう。今後、携帯電話を利用しながらiPhoneやiPadも携帯し、なおかつパソコンも持つというシチュエーションが生まれる。そのデータをサーバー側に置くのか、クライアント側に置くのかという単純なことではない。基幹システムと連携して何かをするのであれば、遠くのデータセンターに置くより、近くの企業内に置いたほうがいいでしょう。
──ただ、システムの所有傾向は弱まっています。
大塚 インターネットを含めたオープンな環境でネットワークをどう使うかが問われているにすぎない。ケースに応じて、なにが最適なのかで違ってくる。幅広い商材のなかから、各企業に応じて最適なモノを組み合わせて提案ができることに、当社の価値があるのです。
──今後の業績の推移をどうみておられますか。
大塚 これだけの顧客を抱えていれば、自然にリプレース市場とストックビジネスが生まれてきます。ハードウェアが売れれば、それに付随して保守・サポートなどストックがアドオンされてくる。あとは、他社を含めて新規事業を取りながら、既存ビジネスの深掘りを進めることは、これまでと変わりありません。買い控えがあって、1社当たりの取引単価がシュリンクすると、全体が縮みます。それでも今の収益は株式上場当時(2000年)と変わらない。現状のビジネスを伸ばしつつ、市場の変化に応じて新規ビジネスを成長させます。
──売るモノは変わるけれど、ビジネススタイルは変わらないということですね。
大塚 ハードがどれだけ伸びるかは一概に予測は立てられない。ただ、売るモノのミックスは変化する。ハードはなくなりはしませんし、それを補うツールも出てくるでしょう。価格や利便性は変わるかもしれませんが、大塚商会がオフィスのITに関わっているということでは、これまでと同じです。大塚商会も少しずつ変化しますが、単品商売から「ワンストップソリューション」を提供していく方向に行くことは確かです。今後も「街の電気屋さん」のように親しみのある会社でありたいです。
・こだわりの鞄 折り紙つきの頑丈さを誇る米国製「TUMI」の「Alpha」というバッグ。1泊程度の出張に最適で、パソコンも収納できる。大塚裕司社長はこれをIR活動で愛用する。「IR資料をガサっと入れて、ガサっと出せる」と満足げ。1日5軒以上になる訪問先にも、これを持ち歩くという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
来年(2011年)に創業50周年を迎えるということで、正直、これを機に大きな戦略を語ってもらえるものと期待した。クラウドコンピューティングへの対応や、中国をはじめとする世界展開などの大きな方向性を聞けると思っていた。
実際はインタビュー内容の通りで、拍子抜けの感がある。ただ、その方向性は明確だ。クラウドの件は「もうやっている。ASPの延長だし」と一蹴され、中国展開も「既存ユーザーを現地サポートする程度」と、短いコメントしか返ってこない。だが、「やれていないことをやればいい」というように、既存ユーザーの掘り起こしをすれば、十分に成長できるとみている。
一昨年度、昨年度と景気の低迷で辛酸をなめた。決算会見では「○○年は後戻りした」と、そのつど、厳しさを口にしていた。今年度(2010年12月期)はというと、計画値をクリアする見通し。中小企業から大企業まで幅広い層の顧客をもつ同社。ただでは転ばないたくましさがある。(吾)
プロフィール
大塚 裕司
(おおつか ゆうじ)1954年東京都生まれ、56歳。76年に立教大学経済学部を卒業、横浜銀行入行。80年リコー入社。81年大塚商会に入社した。90年には一時退社し、ソフトウェア開発・販売のバーズ情報科学研究所に入社。92年に大塚商会に再入社し、取締役。業務改革やグループ会社の再建などを手がけ、93年常務、94年専務、95年には副社長に就任した。2000年、先代の大塚実社長当時に株式上場を指揮。2001年8月から代表取締役。クラシックカーやカメラを趣味とする。
会社紹介
1961年7月17日、先代の大塚実社長が複写機事業を主に手がける会社として東京・秋葉原で創業した。76年には日本電気(NEC)と取引を開始し、翌年「第1回ビジネスシステムフェア(現:実践ソリューションフェア)」を開催。基幹系ソフト「SMILE」をオフコン用で発売したのは79年。2000年には東京証券取引所第一部に株式上場。04年にはサプライサービス「たのめーる」「ぱーそなるたのめーる」を開始した。来年(2011年7月)、創業50周年を迎える。