顧客や社会に対し責任をもつ
──具体的にはどのような方策をお考えですか。
林 国際競争力という観点から見れば、日立グループ全体での連携がカギになります。旧2社、ならびに日立情報システムズは、日立製作所とより一体的に運営しやすくするために、今年初めに相次いで株式上場を取りやめました。上場のメリットはありましたが、そのメリットを失ったとしても一体で運営したほうがいいとの判断からです。
当社に限っていえば、SE力をどこまで発揮できるかが国際競争力を決めます。ハード販売やデータセンター(DC)設備などはインフラではありません。顧客と対面して、望み通りの業務システムをつくるフロント領域が主戦場です。この点は、ライバルのNTTデータや野村総合研究所(NRI)でも同じだと思います。
──顧客と直接接点をもつ“SE力”は、SEという人材が必要となりますね。しかし、日本人が世界中に出張っていくわけにもいきません。だからこそ、NTTデータは大規模なM&Aを欧米中など主要マーケットで展開しています。この点については…。
林 方法はいろいろあると思います。連結子会社化せずとも、少数出資、あるいは業務提携によるビジネスパートナーを増やす方法など、さまざまです。何らかのソリューションを提供する見返りとして、パートナーから知財使用料をいただくこともあるでしょう。M&Aは行わないということではありませんが、アプローチの仕方は固定的に捉えるべきではない。
──少数出資や業務提携では、ノウハウの一方的な流出が懸念されます。こちらから発注するオフショア開発などでない限り、SIビジネスでの少数出資は成り立つのでしょうか。
林 知財が不当にもち出されないよう、契約などで対策は講じます。ただ、多少の流出については許容範囲内だと割り切ることも必要です。日本だって戦後、米国から多くのことを学んできました。今、急成長して注目を集めている中国は、世界中から技術やノウハウを貪欲に学んでいますよね。究極的には、そういった国々の発展に役立つ技術やノウハウを提供する。顧客企業や社会に有益であり、しっかりとその責任をもつことがビジネス拡大につながっていく。情報サービスでも同じことだと思います。
──クラウドビジネスへの取り組みはいかがですか。今回、旧上場3社のうち、最も多くのDC設備をもつ日立情報システムズは、経営統合の対象になりませんでした。
林 統合で、すぐに効果が出るわけではありません。旧日立ソフトと旧日立システムはSIとソフト・サービスを主力としている点で共通項が多かった。運用を得意とする日立情報システムズと、ハード保守領域に強みをもつ日立電子サービスとは、担うべき工程が少し違うんですね。
だからといって、クラウドビジネスへの取り組みが遅れているわけではなく、むしろこうしたグループ連携によるクラウド化、サービス化の動きは加速しています。先のSI・サービスのグローバル化と同様に、時代の大きな流れです。こうした領域で先陣を切り、日立製作所グループの情報・通信ビジネスの拡大につなげることこそ、当社の重要なミッションです。
・こだわりの鞄 イタリアの鞄「Bottega Veneta(ボッテガ・ヴェネタ)」は、「1泊程度の出張に役立つ」(林雅博社長)お気に入り。編み目柄が特徴で、「家内からは、ホコリがたまりやすいので、出かける数日前には言ってほしい(でないと掃除が間に合わない)と注文をつけられている」とか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
国内情報サービス業界の回復が遅れるなかで、林雅博社長は、「閉塞感が漂い、今後も低成長で推移する可能性がある」と捉えて、決して楽観視できない現実と正面から向かい合う姿勢を明確に示す。
さらに、こうした厳しい状況にあることを真摯に受け止めたうえで、「自ら積極的に新しい領域に進んでいく“進取の気概”が大切」と、旧日立ソフトと旧日立システムが統合して1万人超に増えた社員全員にメッセージを送る。
課題である海外進出についても、「ノウハウの流出を恐れていては何もできない。目的をはき違えた本末転倒だ」と、SIやソフト・サービスビジネスにつきまとう不安を一蹴。さらに、「グローバルで戦うことになるライバルに比べて、何かしら秀でている部分がなければ、海外進出など絵に描いた餅。自ら果敢にイノベーションを巻き起こし、攻めの経営で臨むしか勝ち残る方法はない」と、国内外でビジネスを伸ばす強い意欲を顕わにした。(寶)
プロフィール
林 雅博
(はやし まさひろ)1946年4月11日、東京生まれ。69年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、日立製作所入社。95年、中部支社副支社長。99年、情報・通信グループ情報システム営業本部長。00年、金融・流通システムグループ副グループ長。01年、日立エイチ・ビー・エム(現日立電子サービス)社長。03年、日立製作所執行役情報・通信グループシステムソリューション部門CEO。05年、執行役常務 関西支社長。07年、代表執行役執行役副社長。09年、日立システムアンドサービス社長。10年10月1日、旧日立システムと旧日立ソフトウェアエンジニアリングの合併に伴い、日立ソリューションズの社長に就任。
会社紹介
日立ソリューションズは、旧日立ソフトウェアエンジニアリングと旧日立システムアンドサービスが経営統合し、2010年10月1日に発足した。年商規模は、旧両社の直近連結売上高の単純合算ベースで約2608億円。単独社員数は発足時で1万387人。日立情報システムズと日立電子サービスと並び、日立製作所情報・通信システム事業の中核SIerとしての役割を担う。