向こう3年で20%以上の成長
──先ほど、「従来型のビジネス展開だけでは危険なレベルにある」とおっしゃいましたが、新しい事業にチャレンジしていくということでしょうか。
入部 よくいわれるように、いまはクラウド・コンピューティングの時代になりつつあります。ネットワーク事業者としては、これに対応しなければなりません。クラウドを当社の事業の新たな柱にするため、いまは日本ユニシスグループ全体で、データセンター(DC)の拡充を含め、クラウド・サービスの技術基盤の構築に取り組んでいます。ユニアデックスの自社ブランドとしては、例えば、学校向けのコンテンツ作成サービスなどが徐々に実績を上げています。これだけにとどまらず、幅広いユーザーに向けたSaaS型サービスの展開に注力しているところです。
とはいえ、クラウド事業に力を入れることに関して、当社にはジレンマがあります。なぜならば、現在の主力事業であるサーバーやストレージを含めたシステム販売に伴う運用・保守サポートは、今後も一つの大きな柱として維持していく必要があるからです。もし、クラウド・サービスで「サーバーを所有しなくてもいい」ということをアピールしすぎたら、お客様に当社のサービスを使っていただけなくなることもあり得ます。売り上げの面からすれば、月額料金が安いクラウド・サービスよりもサーバー販売のほうが旨みがあるというのが実際のところです。
──クラウド・コンピューティングとは若干範疇が違いますが、御社が力を入れ、好調に推移しているLCM(ライフ・サイクル・マネジメント)事業の受注状況はいかがですか。
入部 今年でLCM事業の立ち上げから3年が経って、ようやく浸透してきたという印象を抱いています。10年度のLCMの受注は、計画値以上になりそうです。これを追い風に、この先もLCMを重要な商材として展開していきたいと考えています。
──10年度は、業績回復に向けた取り組みを実行してこられた。続く11年度は、さらなる事業拡大に向け、どのような事業計画を立てていますか。
入部 今後はシステムの運用・保守サポートだけでなく、アセスメント(IT資産運用)やコンサルティングなども含めて、システムの稼働を統合的に管理するサービス展開などに注力していきたいと考えています。競合他社を意識して、迅速に動き出す必要がありますので、10年度の第4四半期(11年1~3月)からサービスメニューの改善・拡大に取り組んでいきます。
新しいサービスの顧客ターゲットは、大中小など企業規模を問わず、幅広い層に適応した内容にしてあります。具体的な施策は、現在、プロジェクトで検討中です。お客様により分かりやすくするために、製品の見積もりや価格設定を見直しを行って、案件のすそ野を広げたいと思います。
──クラウド・サービスの展開やサービスメニューの改善などの戦略を踏まえて、今後の具体的な売上目標はどのくらいの規模でしょうか。
入部 向こう3年間で、約200億円の売り上げ上乗せを目指していきます。09年度の売上高は903億円ですが、この数字からすれば、20%以上の拡大となります。高い目標ではありますが、社員全員の行動力を武器にして、挑戦していくつもりです。
・こだわりの鞄 入部社長は、鞄を持ち歩かない主義だ。電車の中などに忘れたりすることを防ぐために、必要な物は身につけ、それ以外は移動先へ転送する。「セキュリティオフィサーを務めた経験もあり、事故の可能性をゼロにしたい」と笑う。今回は写真撮影のために、昔使っていた鞄をもってきてくれた。
眼光紙背 ~取材を終えて~
来年以降、会社の業績を向上させるために、入部社長は「社員一人ひとりの意識を変える」ことを、自分のミッションと捉えている。根本から社員の意識を変えなければ、現状の「受け身のビジネス」を「プロアクティブなビジネス」へと変革させることができない。すなわち、今後の本格的な事業拡大が見込めないことになる――。そんな危機感が、意識変革に取り組む動機となっている。
ICTの利用環境や市場環境が大きく変化しているなかで、会社の構造を新しい状況に対応させるのは、経営の常道だ。しかし、会社が大きければ大きいほど、「そう簡単はいかない」と、2600人以上の社員を有するユニアデックスの実状を語る。
入部社長は、「当社は、転換期にきていると感じているが、商品展開の面で、どうすればその転換に対応することができるかに関しては、実は、まだ『もうちょっと』の段階だ」と、ICT利用型の時代への対応を必死に模索している。(独)
プロフィール
入部 泰
(いりべ やすし)1949年7月17日、大阪府生まれ。74年、東京教育大学(現筑波大学)理学部数学科卒業。同年、日本ユニバック(現日本ユニシス)に入社。94年、同社システム技術本部システム企画開発2部長。96年、同社システム技術部システム運用ソフトウェア開発室長。00年、同社第二ソフトウェアサービスセンター長。04年、ユニアデックス常務執行役員ソフトウェアサービス事業グループ長。06年、常務執行役員事業推進グループ長。07年、常務執行役員ソフトウェアサービス事業グループ長。10年4月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
ユニアデックスは、1997年、日本ユニシスのネットワーク関連/オープンサービス事業を引き継ぎ、日本ユニシスが100%出資した子会社として設立。日本ユニシスグループのなかで、ネットワークインテグレーション(NI)や運用管理、保守、設備などを事業領域としている。10年4月1日時点の従業員数は2602名。08年から、サーバーなどの基盤ソリューションを展開するエス・アンド・アイを子会社にもつ。