海外売上比率40%到達へ
──クラウドビジネスは国内だけの話ではありません。とくに富士通は海外での売り上げ比率の上昇にこだわっており、それに向けた戦略を以前から強化しておられます。海外事業の進捗状況を教えてください。
山本 富士通は日本のコンピュータメーカー、ICTベンダーのなかでもグローバル化が進んでいる企業(海外比率が高い)です。現在約35%ですが、これを中期経営計画の最終年度にあたる2011年度(12年3月期)には40%に到達させたい。その手はこれまでも打ってきました。
一つはx86サーバー「PRIMERGY」の世界市場での拡販。世界市場で50万台を売り、海外売り上げ比率の上昇に貢献させます。そして、ご指摘の通り、クラウドを世界でも売ります。そのために、インフラとなるデータセンター(DC)の建設を急いでいます。
DCは毎月増えているので、今ここで話した数字が掲載されている頃に変わっているかもしれませんが、現在約90か所があります。今後も増やしますよ。とくに注力しているのは、「SOP」と呼ぶオンデマンド型のDCで、地域としてはイギリス、ドイツ、米国、シンガポール、オーストラリアでの建設を予定しています。中国では仏山市南海区人民政府と共同出資してDCを構えるつもりで、すでに着工式も終え、来年にも運用を始めます。中国では条件さえ合えば、今後もどんどんつくります。
──海外事業を伸ばすために、山本社長の優先順位が高い国はどこになりますか?
山本 それはやっぱり新興国でしょう。とくに中国とインドには大きなポテンシャルを感じます。
──中国には膨大なマーケットが広がっていますが、特有のリスクがある。
山本 経済の大きさというのは、基本的に人口に比例します。人が多ければ多いほど、マーケットも大きくなる。中国の現地企業だけでなく、日本から中国に進出する企業も増えています。日本と同じ環境を日系企業の中国法人に提供するチャンスもありますから、ビジネスポテンシャルは非常に高いとみています。攻めないという選択肢はありません。
──中国特有のリスクを回避しながら、攻める方法は?
山本 そんな都合のいいものはありませんよ。試行錯誤しながらやっていきますし、大勝負というよりも大怪我をしないように堅実に進めます。一ついえるのは、中国では日本企業が単独で自由にビジネス展開できるとは毛頭思っていないということです。そんなに甘くはない。富士通は、中国現地の政府や企業と協業することで、中国でのビジネス拡大につなげていきます。ボリュームの世界が中国。単独では、とてもじゃないけど開拓できませんから、その意味でもパートナーを見つけることが重要です。
──中国の政府や企業は、たくさんの先進国の企業からオファーを受けているはず。富士通と組むことのメリットをどう訴求していくのですか。
山本 先方が何を望んでいるかといえば、組む相手に魅力的なテクノロジーがあるかどうかだと思います。DCでいえば、富士通はDCの運用やクラウドで強い技術を確実にもっています。それに加えて、富士通のマルチカルチャー文化が生きると思います。富士通はこれまで、他国ではその地域に強い企業を買収し、それを富士通化して地域に密着したビジネスを展開してきた。地域に根づいたビジネスをする基礎があり、それが強みになると思います。
──2011年、山本社長のキーワードは?
山本 2011年以降も続く大切な言葉ですが、「攻めと挑戦」。富士通は過去10年で財務体質が少し傷みましたが、構造改革の成果で財務面はかなり強くなりました。新たな分野に投資できる環境になっています。ですから、攻めの気持ちを持ち続けながら、新たな分野にどんどん挑戦していきたい。そう思っています。
・お気に入りのビジネスツール 常に持ち歩く携帯電話。当然だが富士通製品だ。「やはり富士通製なんですね?」という記者の軽口に、「おれが富士通製品を使ってなかったらまずいだろ!」とひと言。ストラップは、和歌山電鐵の貴志駅の駅長を務める“スーパー駅長”三毛猫「たまちゃん」のキャラクターだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
富士通の社長には、2007年以降、毎年恒例でインタビューの時間をもらっている。振り返ると、07年は黒川博昭氏、08年が野副州旦氏、09年は間塚道義氏、そして10年は山本社長と、毎年トップが変わっていることに、この原稿を書いている時に気がついた。連結売上高が約4兆7060億円、従業員は約17万人を有する日本の超大企業では、異例だろう。ここ数年の間で、富士通の経営層がぐらいついていたことが、この社長交代の多さをみても分かる。
56歳という年齢での社長就任は、最近の富士通のトップでいえば、極めて若い。自分より年上の経営幹部もいるなか、そして野副氏との確執がまだ決着していない時期にトップに就いた山本社長は、歴代社長のなかでも厳しい局面に立たされることが多いだろう。しかし、そんな素振りは一切みせない。「とにかく攻める」。「膿は出し切った」とでも言いたげな素振りで、威勢のいい発言で、表情は明るかった。(鈎)
プロフィール
山本 正已
(やまもと まさみ)1976年4月、富士通入社。02年、パーソナルビジネス本部長代理。05年、経営執行役。07年、経営執行役常務。10年1月、執行役員副社長。同年4月、執行役員社長。同年6月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
1935年、富士電機製造(現富士電機ホールディングス)の電話部所管業務が分離・独立し、富士通信機製造として設立された(67年に現社名に変更)。資本金は3246億2507万5685円(2010年3月末)で連結従業員数は17万2438人(同)。09年度(10年3月期)業績は4兆6795億1900万円。今年度は売り上げは微増の計画だが、営業利益は昨年度比約2倍の1850億円に引き上げる見通しを立てている。